冒険がしたい創造スキル持ちの転生者

連載

少年期［８３７］この世界は、非常に面倒

意外にも、自分に話しかけてくる人物がいない。

これはラッキーだ。
国王陛下が祝勝会に参加するまで、のんびり待ってよう。
そう思ったゼルートだが、直ぐにその考えは打ち砕かれた。

誰もゼルートたちに近づこうとしない中……とある人物が、ゼルートたちの元に歩を進める。

しかし、それはゼルートにとって厄介な来客ではなかった。

「やぁ、ゼルート。正装姿も似合っているじゃないか」

「セフィーレさん……どうも、この間ぶりですね。セフィーレさんのドレス姿も、思わず見惚れるほど似合っています」

美しい金髪に似合うドレスを身に纏うセフィーレに……声を掛けられるまで、ゼルートは本当に見惚れていた。

声を掛けられた時には普通に話せるように、心を持ち直すことが出来たが、それでも数秒間……固まるほど見惚れたのは事実。
それは斜め後ろに立つ人物にも言える感想だった。

「ミーユさんとアドルフさんの正装姿も、とてもお似合いです」

「ふふ、ありがとう」

「ゼルート君こそ、あえてシンプルな服装……故に良い雰囲気が漂っているよ」

アドルフの服装は、ゼルートと違って公爵家の長男が纏うに相応しい服装と言える高価さを持つ。
それは確かにアドルフに相応しい正装。

それに対し、ゼルートの正装は至ってシンプルな黒の服装。
従者が身に付ける最高級の正装……と言えるかもしれない。

貴族が着るにはナンセンスな服装かもしれないが、自然とゼルートの強さを表している様に感じたアドルフ。

（下手に着飾らない強さ、か……僕もあぁいう服の方が良いな）

派手な服装が決して嫌いという訳ではないが、時折面倒に感じることがある。
故に、偶にゼルートが今着ている様な、シンプルな正装を使用したいと思う……が、アドルフの立場上、それを許してくれないのが苦しいところだった。

「ありがとうございます」

「それで、ゼルート。どこまで上がったのだ」

どこまで上がった……つまり、どの爵位を手に入れたのか。

元々貴族の令息であることを考えれば、騎士の爵位を手に入れるところまでは、決して珍しい件ではない。
しかし、男爵より上の爵位を授かることは……過去を振り返っても、あまり例がない。
その部分を考えると、ゼルートは平民の身から男爵まで……今回の件で伯爵まで上り詰めたガレンを尊敬する。

「一応、男爵の爵位を頂きました」

ゼルートはなるべく小さな声で三人に伝えたのだが、ゼルートの返答は他の者の耳にも入っていた。

「聞いたか」

「えぇ、しかと」

「やはりというか、予想通りというか……しかし、戦果を考えれば当然の結果か」

「でも、冒険者という職業はどうするのかしら？」

あちらこちらからゼルートの偉業を褒め称える声が八割。
残り二割は、これからゼルートがどうするのかという内容であった。

「ふむ……男爵か」

この結果に、セフィーレは口には出さなかったが、少々不満だった。
実際に目にしてはいないが、多数の魔物を従魔と共に倒し、悪獣という最悪最凶の魔物を一人で倒した。

そして今回の戦争での大活躍を考えれば……男爵の上、子爵の爵位を得られてもおかしくないと考えていた。

「この間ぶりね、アレナ。元気してた？」

「元気にはしてたわ……着せ替え人形にされたのは大変だったけど」

「あらあら、でも……本当は嬉しいんじゃないのかしら」

ミーユとアレナが楽しく会話をしている間も、セフィーレはゼルートが男爵という爵位得た結果に、不満を抱いていた。
そんな妹の考えを兄であるアドルフは直ぐに察した。

「セフィーレ、この世界は色々と面倒……という事は、理解しているだろ」

「……はい、理解しています」

兄の一言で、セフィーレは冷静な考えを取り戻した。

「セフィーレさん、俺は今回の結果に満足してますよ」

「そうか。それなら良いんだ」

ゼルートたちがセフィーレたちと再会してから数十分後、ようやくパーティー会場に国王陛下が現れた。