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少年期[832]無駄を省いた一言
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「ゼルート様、ご確認をお願いしてもよろしいでしょうか」
「?? …………あぁ、はい」
俺が何を確認するんだ? と一瞬思ったゼルートだが、少ししてアレナとルウナのドレスに関してだということを理解し、店員に案内された場所へ向かう。
そこには……最高級のドレスを身に付けたアレナとルウナがいた。
「あっ、ゼルート……えっと、どうかしら?」
「ゼルート、私はこれをもう一度着なければならないのだよな」
「ルウナ、ちょっと黙ってなさい」
アレナは赤をメインにしたドレスを、ルウナは水色をメインにしたドレスを身に付けており……ゼルートは二人の姿に少々見入っていた。
(馬子にも衣裳……なんて言葉は到底使えないな。てか、俺がそんな言葉使うのがそもそもおかしいか)
心の中で自虐しながらも、ゼルートは十秒ほど二人のドレス姿を確認し……一言、口にした。
「二人とも、本当に似合ってるな。綺麗だよ」
特に飾らない褒め言葉だが、二人にはその言葉だけで十分だった。
周囲の従業員たちもゼルートが口にした言葉に確かな重みを感じ、長々しく薄っぺらい褒め言葉よりも心が籠った一言だと感心していた。
「すいません、この二つ買います」
「かしこまりました!!!」
正確には髪飾りなども入れれば二つではないが、ゼルートにはそんな細かいこと関係ない。
二人がドレス姿から普段着に着替えている間、ゼルートは移動して会計を行っていた。
「……になります」
「分かりました」
従業員が口にした金額は……なんと、白金貨十枚。
世の中、探せば一着白金貨五枚よりも高価なドレスはある。
しかし……たとえ貴族であったとしても、ぽっと出せる金額ではないのだ。
そんな大金を、ゼルートはアイテムリングの中から財布を取り出し、きっちり白金貨十枚を渡した。
「しっかり十枚、お預かりしました」
「ドレスや髪飾りは、二人に渡しておいてくれ」
「畏まりました」
アレナとルウナもアイテムバッグを持っているので、ドレスや髪飾りなどをしまうケースも楽々持ち運べる。
「おう、おかえり」
「ただいま……」
「どうしたんだ、そんな疲れた顔して」
ゼルートとの元に戻ってきたアレナは先程の少々恥ずかし気な表情とは違い、完全に疲れ切っていた。
「何度も何度もドレスを試着する大変さがゼルートに解るかしらね」
アレナは殆ど動かず、従業員がテキパキと用意して着せていく。
なので肉体的には疲れない筈だが……何故か疲れを感じるという点は、ルウナも同じ感想だった。
「すまん、すまん。でも、折角パーティーに参加するんだから、良いドレスを選んだ方が良いだろ」
従業員たちが選びに選んだ結果、二つのドレスは試着した本人やゼルートも納得のいくものだった。
「その気持ちは嬉しいけど……それなら、ゼルートも新しい正装を買うべきでしょ」
訪れた高級衣服店には、女性用の服だけではなく、男性用の服も多数置かれていた。
「俺は前回買った正装で十分だって。下手に新しい正装を買ってみろ。俺じゃ、その正装着てるんじゃなくて、着られている状態になるだろ」
成長期なので、ゼルートも冒険者になったばかりの頃と比べれば、色々と成長している。
しかし、本人は下手にカッコつければ馬子にも衣裳状態になると思っているので、自分に高級な正装などは必要ないと考えている。
(今回の戦争でかなり活躍したわけだし、祝勝会パーティーで下手にカッコつけた姿で参加すれば、絶対に調子乗ってるとか言われそうだからな……跳んできそうな火種を回避するのに越したことはない)
といった理由で、自分の新しい正装を買うのは拒否。
「私はそんなことないと思うがな」
「私も同じ意見ね。というか、貴族になるんだからちゃんとした正装を買っても良かったと思うのだけど」
「……次、そういった機会があればな」
痛いところを突かれ、ゼルートは苦し紛れにそう返すしかなかった。
「?? …………あぁ、はい」
俺が何を確認するんだ? と一瞬思ったゼルートだが、少ししてアレナとルウナのドレスに関してだということを理解し、店員に案内された場所へ向かう。
そこには……最高級のドレスを身に付けたアレナとルウナがいた。
「あっ、ゼルート……えっと、どうかしら?」
「ゼルート、私はこれをもう一度着なければならないのだよな」
「ルウナ、ちょっと黙ってなさい」
アレナは赤をメインにしたドレスを、ルウナは水色をメインにしたドレスを身に付けており……ゼルートは二人の姿に少々見入っていた。
(馬子にも衣裳……なんて言葉は到底使えないな。てか、俺がそんな言葉使うのがそもそもおかしいか)
心の中で自虐しながらも、ゼルートは十秒ほど二人のドレス姿を確認し……一言、口にした。
「二人とも、本当に似合ってるな。綺麗だよ」
特に飾らない褒め言葉だが、二人にはその言葉だけで十分だった。
周囲の従業員たちもゼルートが口にした言葉に確かな重みを感じ、長々しく薄っぺらい褒め言葉よりも心が籠った一言だと感心していた。
「すいません、この二つ買います」
「かしこまりました!!!」
正確には髪飾りなども入れれば二つではないが、ゼルートにはそんな細かいこと関係ない。
二人がドレス姿から普段着に着替えている間、ゼルートは移動して会計を行っていた。
「……になります」
「分かりました」
従業員が口にした金額は……なんと、白金貨十枚。
世の中、探せば一着白金貨五枚よりも高価なドレスはある。
しかし……たとえ貴族であったとしても、ぽっと出せる金額ではないのだ。
そんな大金を、ゼルートはアイテムリングの中から財布を取り出し、きっちり白金貨十枚を渡した。
「しっかり十枚、お預かりしました」
「ドレスや髪飾りは、二人に渡しておいてくれ」
「畏まりました」
アレナとルウナもアイテムバッグを持っているので、ドレスや髪飾りなどをしまうケースも楽々持ち運べる。
「おう、おかえり」
「ただいま……」
「どうしたんだ、そんな疲れた顔して」
ゼルートとの元に戻ってきたアレナは先程の少々恥ずかし気な表情とは違い、完全に疲れ切っていた。
「何度も何度もドレスを試着する大変さがゼルートに解るかしらね」
アレナは殆ど動かず、従業員がテキパキと用意して着せていく。
なので肉体的には疲れない筈だが……何故か疲れを感じるという点は、ルウナも同じ感想だった。
「すまん、すまん。でも、折角パーティーに参加するんだから、良いドレスを選んだ方が良いだろ」
従業員たちが選びに選んだ結果、二つのドレスは試着した本人やゼルートも納得のいくものだった。
「その気持ちは嬉しいけど……それなら、ゼルートも新しい正装を買うべきでしょ」
訪れた高級衣服店には、女性用の服だけではなく、男性用の服も多数置かれていた。
「俺は前回買った正装で十分だって。下手に新しい正装を買ってみろ。俺じゃ、その正装着てるんじゃなくて、着られている状態になるだろ」
成長期なので、ゼルートも冒険者になったばかりの頃と比べれば、色々と成長している。
しかし、本人は下手にカッコつければ馬子にも衣裳状態になると思っているので、自分に高級な正装などは必要ないと考えている。
(今回の戦争でかなり活躍したわけだし、祝勝会パーティーで下手にカッコつけた姿で参加すれば、絶対に調子乗ってるとか言われそうだからな……跳んできそうな火種を回避するのに越したことはない)
といった理由で、自分の新しい正装を買うのは拒否。
「私はそんなことないと思うがな」
「私も同じ意見ね。というか、貴族になるんだからちゃんとした正装を買っても良かったと思うのだけど」
「……次、そういった機会があればな」
痛いところを突かれ、ゼルートは苦し紛れにそう返すしかなかった。
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