冒険がしたい創造スキル持ちの転生者

連載

少年期［８１０］生かす理由はゼロ

セフィーレたちはの前に一人の男が現れた。
装備、雰囲気などから男が冒険者なのは一目瞭然。

（あらら……ちょっと強いな。俺ではタイマンじゃ敵わなさそうだな。カルネとリシアと一緒に戦ってい良いなら話は変わってくるけど、一人じゃ多分負ける）

冒険者となり、今までより多くの戦闘者と出会い……観察眼は確実にレベルアップしていた。
そして観察眼は自身と現れた男との実力差を正確に把握していた。

（本当は加勢した方が良いんだろうけど……うん、今まで通りこっちの仕事に集中しておこう）

加勢しようとしてもセフィーレから「問題無い、私一人で相手する」と言われそうなので、大人しく自身の仕事に集中。

（そろそろ来るかと思っていたが、ようやく来たか。こちらも忙しいと言えば忙しいが、一人抜けたぐらいではそこまで問題ではない……が、止めておこう）

付き合いがそれなりに長く、表情を見ずとも今セフィーレが何を考えているのか、何となくではあるが理解出来るカルネ。

以前、冒険者になってから強敵と遭遇した時……本来であれば全員で挑むべき敵なのだが、セフィーレは一人で突っ込んだ。
その選択がリーダーとして良いのか悪いのかはさておき、セフィーレは見事にその強敵を討伐した。

（回復の用意だけはしておかないと）

前衛のサポートや回復を行いながらも、リシアは二人と同じく自分が戦いに参加しようとしてもセフィーレに断られると解っており、直ぐに意識を切り替える。

「……どうやら、空気を読んでいる様だな」

参謀役であるハルトは周囲の者たちが二人の空間に入ろうとしない様子を見て、ほっと一安心。

セフィーレが冒険者になりたてのルーキーでありながら相手が人やモンスターであっても超強い……だが、対峙する相手も冒険者としてそれなりの実力を持つ。

正直、ハルトが相手をするにしても少々厳しい相手だった。

（冒険者んのランクはＢか？　ある程度装備は充実していそうだな……双剣以外にも何か使ってきそうな雰囲気だ）

冒険者として活動するようになり、斥候向きの者が短剣や双剣、そういった武器以外にも何かを使ってくる。
そういった知識は既に入っており、セフィーレに油断や知識不足はない。

「あんたが噂の公爵令嬢なのに冒険者になった物好きさんか」

「どの噂かは知らないが、私が公爵令嬢で冒険者であるのは正解だ」

お互いに軽口を交わしながらも……依然、周囲の者たちは参戦しようとしない。

それなりの戦力を持つ者同士が少しずつ圧を上げていく。
その息苦しくなる何かを本能的に感じ取り、そこに近づいてはならないと脳が告げ……誰も美味しいところを取ろうとすら考えない。

「ふっふ……良いな。あんたは殺さないでやるよ。捕虜として……後で楽しませてもらうぜ」

先程からセフィーレに向ける眼には色欲が詰め込まれており、言動や態度にもそれは現れていた。

（そんな事をすれば私の家の者たちに殺されると思うが……冒険者ということを考えれば、その辺りの事情を知らなくても当然か）

厭らしく……体を舐めまわすような視線を向けられることには慣れており、大半の男はそういう生き物なのだと理解している。
なので男の態度に怒りは湧かない。

というより、そんな事に対して怒っていてはいずれ憤死してしまうかもしれない。

「そうか。私はお前をここから生かすつもりはない。全力で殺す」

この場で生かしたところで、情けをかけたところで良いことなど一つもない。

その情けが仲間が傷付くことに繋がるかもしれない。
それを考えれば……それなりの戦力を持つ目の前を生かす考えなど、あったとしても一瞬で消える。

「さぁ、死合おうか」

身に付けているマジックアイテムを発動させ、レイピアに魔力を纏い、構えた。

「へぇ～～。貴族令嬢が娯楽で冒険者やってる訳じゃないんだな」

チャラけた雰囲気は相変わらず変わらないが、男はセフィーレに対する警戒心を上げた。