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少年期[795]楽しまず、即潰す

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それなりに戦える獲物が向こうからやって来た。

そうなれば当然、二人の闘志は燃え上がる。

こういった場であれば本来、名乗りを上げて一騎打ちなどを始める流れとなるのだが……場所は戦場であり、特にそんな礼儀を通さずとも不敬にはならない。

(一応、付いて行った方が良いよね)

獰猛な笑みで現れた強騎士に向かって駆け出すルウナの背に、ラームがダンジョンから溢れたモンスターたちと戦った時と同じように引っ付き、ルウナの第三第四の手となって動くと決めた。

本来であれば強敵との戦いは一人で存分に、思いっきり、最後まで楽しみたい。
しかしルウナもそういった感情を抑える部分も成長しており、戦場での動きとなれば……以前のようにラームと合体するのが最善ということは把握している。

なので、ラームの無言で自分の背に付いてきたことに関して、特に何も口出ししなかった。

ただ……いきなりスライムの体を持つ少年が狼人族の女性の背に引っ付き、四本の腕となった。
その事に関して、さすがに戦歴がそこそこある強騎士でも、驚かずにはいられない。

(なんだあの能力は……あんな能力を持つ従魔? など情報には入っていないぞ!!!)

戦いが始まる前の情報収集は当然であり、今日騎士もオルディア王国側の高名な冒険者や騎士の情報は事前に集めていた。

そしてゼルートの……覇王戦鬼の仲間であるルウナの情報も勿論入っていた。
だが、目の前で実行されたようなスライムの従魔と合体する。
そんな能力を持っているとは全く知らなかった。

とはいえ、いざ戦争が始まれば知らないことなど無数に起こる。
その無数に対して驚くのは仕方ないにしても、動きを完全に止めてはならない。

強騎士は業物を鞘から抜き、ルウナに対して狙いを定める。

そんな強騎士とルウナとラームがぶつかろうとしている……そんな状況で自分たちは関わってはならないと思ったのか、自然と他の兵士や冒険者たちはその場から離れた。

「ぬ、ぐぅ!! のぁ!? がぁああああ!!!!」

ラームがルウナの背に張り付き、リザードマンの腕に持つ自分の体に収納していた武器を振るうことで、実質ルウナの手数は六つとなる。

強騎士のステータスは割と素早さ寄りではあるが、それはルウナも同じ。
そこに加えて四本の腕が増えるとなると、さすがに初見で上手く捌けない。

強騎士も業物だけではなく、良質のマジックアイテムを身に着けているが、それはルウナも同じ。
そしてラームが一切ルウナの動きを邪魔しないように四本の腕を動かしている為、ルウナとラームの動きがごっちゃになることはない。

両者がぶつかり合い、十秒も経てば今日騎士の方が押されていると解る。
であれば、強騎士を援護すれば良いのではと思うかもしれないが……戦場で戦っている者にとって、オルディア王国側や敵国側の者関係無しに、ラームの存在が得体の知れない存在過ぎる。

形が思いっきり変わっているが、ついさっきまで四肢をスライム状に変形させて多くの敵を葬り、味方であるルウナをサポートしていた。
つまり……今ここで強騎士を援護しようとしても、無駄に終わるのではないか。

ラームにはそう思わせるだけの得体のしれなさがあった。

(もう、終わりだな)

六本腕による攻撃に対し、少々慣れてきた強騎士ではあったが、ここでルウナはラームに魔法による攻撃解禁を伝えた。

さすがにそこまで攻撃手段が増えると強騎士も対処出来ず、崩れた隙を突いてルウナのアルバラスが強騎士の首を斬り落とした。

「お疲れ様、ルウナ」

「ふっ、ラームがいたから楽に勝てたんだ。私は大して動いていない」

一仕事を終え、ラームは再び人の姿に戻った。

確かにラームの働きは凄かったが、解る者にはそもそもルウナがある程度の戦闘力を持っていなければ、強騎士と渡り合うことなど不可能ということが解る。

そして二人がかりとはいえ、強騎士と戦って無傷で勝利したという実績は残り……二人は味方の士気を向上させ、敵に絶望を与えた。
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