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少年期[774]どう見ても調整ではない

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「ふぅーーーーー」

「あら、ゼルートじゃない。もう帰ってきたの? 久しぶりにお兄さんとお姉さんに会ったんでしょ」

「あ、あぁ。二人とも元気そうだったよ」

「それは良かったけど……もう直ぐ開戦でしょ。もっとゆっくり話さなくて良かったの? 色々と積もる話もあるでしょ」

「それは、まぁ……ちょっとはあるけど」

実際のところ、もっとゆっくり話したかった部分はある。
だが、それでも二人からせっかく造った錬金獣を返品される前に押し付けてしまおうと思うと、ダッシュで逃げるしかなかった。

クライレットとレイリアには今まで自分の力で積み上げてきた鍛錬を誇らしいと思い、そこに自信を持っている。
正直……目の前に置かれた錬金獣を素直に受け取るか否か、物凄く迷っていた。

ゼルートが考えている通り、戦闘に……殺し合いに、物事に絶対は存在しない。

今回の戦争でクライレットとレイリアが死んでしまう可能性は、ゼロとは言えない。
戦争に参加するとなれば、第二王子の背ブリックや騎士団長のビリーズであっても死ぬ可能性はある。

なにより……目の前にドカッと置かれた錬金獣を見ると、弟が真剣に……自分たちの安全を願いながら全力で造ってくれたことが解る。

解ってしまうからこそ……二人は同時にため息を吐き、苦笑いになりながら自身の魔力を錬金獣に込めた。

「そりよりも、目の前のこの光景は何なんだ?」

「何って、戦争が始まる前の肩慣らし? じゃないかしら。何人かはルウナに惚れてるから勝負を挑んだ人もいるっぽいけど」

「なるほどね……それで、全員コテンパンにやられたってわけか」

ゼルートの視界には、何人もの男が転がり……現在ルウナと戦っている男も劣勢の状態だった。

「でも、見た感じ全員Dランクとかって訳じゃなさそうだな」

「それなりに大規模な戦争が起こるのだから、実力がそれなりにある人も多く集まって当然よ。でも、今のルウナにはそれなりの実力でも……相手にならないという言葉が相応しいわね」

「まぁ、申し訳ないけどそうかもしれないな」

地面に転がっている冒険者の中には、Bランクの冒険者や同等の力を持つ騎士もいた。
だが、そんな強者と戦いながらもルウナは好戦的な笑みを崩さずに戦っている。

「なぁ……いったい俺が少し離れている間に、何連戦したんだ?」

「えっと…………二十連戦ぐらいはしてたんじゃないかしら。弱い人の相手は一瞬で終わらせてたから、あっさりと終わった戦いもあるのよ」

「だから短時間で多くの人が転がってるのか」

ルウナは実力が明らかに低い者に付き合ってやるほど優しくはなく、Dランク程度の実力しか持たない相手は大体腹パンを一発入れて終わらせていた。

「次、誰かやるか!!!」

挑戦者の相手を終わらせると、また次の挑戦者が現れて模擬戦を始めた。

「……挑戦者にとっては戦争前の良い経験かもしれないけど、ルウナは完全に調整じゃなくて本番じゃないか」

「さっきゼルートが戦ってるのを見て、体が熱くなったらしいわよ」

「さっきの……あれば別に戦いらしい戦いじゃなかったと思うけどな」

「そうね。あれは……七年前の再現、かしら?」

「良く覚えてるな」

「あんなインパクトが強い話、忘れる訳ないじゃない」

アレナだけではなく、ゼルートから七歳の時に冴㏍為したパーティーで何があったのか聞いた者は、全員内容をしっかりと覚えていた。

「はっはっは! 確かにあれは似た内容やったな」

「どう考えても、喧嘩を売る相手を間違えた。そんな状態だった」

「これはこれは、銀獅子の皇のトップであるオーラスとAランク冒険者のアルゼルガじゃないか。いったい何の用だ?」

「そんな警戒線でもえぇやんけ。俺らの仲やん」

「別に仲良くなったつもりはないんだが」

馴れ馴れしく絡むオーラスだが、ゼルートとしては友達になったつもりはない。
精々、知人といった仲だと認識している。

「……凄いな、あの狼人族の少女は」

「凄いというか……俺としては戦争開始前に疲れを残す運動はいかがなものかと思うんだけど」

「貴族出身の騎士を公衆の面前でボコボコにした奴が何言ってんねん」

「あれは仕方なかったんだよ」

なんて普段通りの表情でオーラスやアルゼルガと話すゼルートだが、トップクランのメンバーと仲良さげに話すことで、周囲の者たちから徐々に本気でゼルートは恐るべき存在……といった認識が出来上がりはじめていた。
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