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少年期[603]それぐらいなんとかなるだろ

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「お前らに一つだけ逃げ道を用意してやる。黒曜金貨を八枚寄こせ。そしたら潰さないでやるよ」

「おい、なんで数が倍になっとんねん」

「お前らから先に喧嘩を売ってきたんだろうが。そこで失禁してる二人が貴族だからとか関係ねぇ……つか、関わりのある貴族でいえば、俺の知り合いの方が上なんだからよ」

第三王女と友人に近い関係であるゼルート。
実質的な権力に差があるかもしれないが、どちらの機嫌を損なえば大惨事になるかは明白。

「そっちの養殖二人組から喧嘩を売ってきて、こっちが丁寧に買ってやったんだ。きっちり貰うもんは貰わないとなぁ。言っとくが……応じねぇならお前らのクランごと潰すぞ」

「ッ……おい、それがどういう意味か解っとるんか」

「知るかボケ。お前らがこの街にトップクランだとしても、お前ら以外の実力が揃ったクランはいるだろ。それと……俺らがお前らを潰せないとでも思ってるのか?」

ゼルートの言葉と共にゲイルとラム、ラームが立ち上がって主の元までやって来る。
そして戦意を殺意を全開で対象に向かって放つ。

それに乗っかってルウナも戦意と殺意を銀獅子の皇に向ける。

そんな中で唯一の常識人であるアレナだけが何もせず、深くため息を吐いた。

「お前らが思ってるほど俺達は弱くない。俺達に勝てる駒がそっちにどれだけいるか……こっちとしては全面戦争でも全然構わないぜ。その代わり……お前が築いてきた全てを壊させてもらうけどな」

「ッ!!!!!!」

そんな事は出来ない、っと口から言葉が出なかった。
常人では……プロであっても気圧されて気を失いそうなほどの戦意と殺意をぶつけられてもオーラスとアルゼルガも意識を保っている。

だが、この状況で戦っても勝てないことは目に見えている。
例えクラン総出で戦ったとしても勝てるかどうか……ちなみにそうなった場合、アレナにはラームが付いてルウナにはラルとタッグを組む。

そしてゼルートとゲイルが個々に撃破する既にゼルートは攻め方を考えていた。

「選べ……今すぐにこの場に黒曜金貨を八枚持ってきて今回の件を丸く収めるか。それとも……今すぐに己の冒険者人生を終わらせるか、好きな方を選んで良いぜ。もし戦うなら……そっちのクランに突撃して貰うもんを貰ってくのもありだな」

今のゼルートの姿は勝負場のギャングやヤクザの様な威圧感を放っていた。
ただの戦意や殺意ではない……相手を屈服させるような上から押し潰す迫力。

ゼルートからだけではない、他のメンバーたちからも同様に……今後嘗められないようにする為にはそれもありかと思ったアレナからも本気の圧が溢れ出していた。

鋭く全身を斬り刻むような鋭利な殺意が加わる。
今回の会食や交渉の要因となった一人は本物の強者だった。ランクは落ちてもその実力は変わっていない……もしくは強くなっているかもしれない。

そう思わせるほどの圧が加わる。

「…………分かった、解ったよ。俺達の負けだ、直ぐに取りに行かせる。アルゼルガ、クランに行って黒曜金貨を八枚を取って来い」

「構わないが……本当に良いのか?」

「それなら、お前は本気でこいつらと戦って勝てると思うのか」

「……いいや、己の全てを出しても……無理だろうな」

アルゼルガ程の実力者ならばアレナかルウナなら倒せるかもしれない。
しかしそこまでだ。

そこから先は……どう足掻いてでも乗り越えられる壁ではない。

(クッソが……クラン全体の資金を考えればあれだが……普通に痛いダメージに変わりはない)

例え大手のクランであっても、黒曜金貨八枚をタダで渡すのは懐に大ダメージなのは間違いないのだ。

「随分と暗い顔してんな。黒曜金貨八枚なんてそこで終わってるアホ二人の実家に今回の件をそのまま伝えれば良いだろ」

「何言うてんねん、一応こいつらを預かってる身なんやぞ。そんな無茶を言えるか」

「言えるだろ。俺の本名はゼルート・ゲインルートだ。その馬鹿共のせいで懐に大ダメージを食らった。失った分の金を横さなかったら家名をバラすって言えば十分に効くだろ」

鑑定眼を使えば一発だが、まだゼルートはアホ二人の家名を知らない。

それはオーラスが二人の実家と金銭交渉をするのに十分な材料だった。

「……あんた恐ろしい圧を出すのに、優しいところあるんやな」

「俺は普段は優しいっての。喧嘩を売られたら話は別だけどな」

そこでゼルートは完全に戦意と殺意を消して笑ったが、オーラスの心に確かな恐怖を刻んだ。
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