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少年期[592]刺さる匂い

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「な、なんだありゃ」

「うそ、だろ……あんな子供が」

「もしかして、あれが噂の?」

突然始まった狼人族の女と人族の子供の模擬戦。
ルウナは見た目がそこそこ大人なのである程度は強いのだろうと思っていた冒険者が多かったが、ゼルートは嘗められている割合が多かった。

しかし戦いが始まれば二人共ただ者ではないというのが共通認識となる。

二人は武器を使っておらず、五体のみを使って模擬戦行っている。
両者とも模擬戦前は長剣や短剣を身に着けていたが、それは一切使っていない。

武器は飾りなのか、それとも武器も体術も同レベル程の腕前を持っているのか……それは視てみなければ解らない。
そこで一人の冒険者が鑑定のスキルを有していたので、実際に視ようとした。

だが、ゼルートが創造を使って妨害のスキルをつくり、六人のステータスを視ようとしても弾かれてしまう。

(ッ!!!! マジかよ、視えねぇじゃねぇか。もしかして結構ランクが高い鑑定を妨害する系のマジックアイテムを身に着けてるのか?)

もう少し探りたいと男は思ったが、模擬戦だけで二人が実力者なのは解かる。
そして仲間の女性と従魔の三体も相当な実力者だと予想した男はバレる可能性もあるので、それ以降は鑑定を使わなかった。

だがしかし……男が鑑定を使ったことはゼルートにバレていた。

(……今、誰かが俺らのこと視てきたな? 注意した方が良いのか、それともぶっ飛ばした方が良いのか……まっ、どうせ視れはしないんだし放っておくか)

他の同業者のステータスを鑑定するのはマナーが悪い。
喧嘩になって殴られても文句は言えない。

冒険者ではなく、情報屋が鑑定を使ったり鑑定系の効果が付与されたマジックアイテムを使って冒険者達の情報を集めていたりもするが、バレて殴り飛ばされた情報屋も存在する。

「アレナ殿、自分達も軽く動きませんか」

「……しょうがないわね。軽くよ」

ルウナとゼルートの模擬戦が終わり、今度はお互いに長剣を持ったゲイルとアレナの模擬戦が始まった。
勿論お互いに刃がクリティカルヒットすることはないが、それでもランクがC程の冒険者では完全に見切れない程の速さで剣戟が行われている。

「ラルとラームはどうする?」

「私は遠慮しておきます」

「ん~~~……僕も今回は遠慮しとく。それよりお腹空いてきた」

「はっはっは! 了解、二人の模擬戦が終わったら飯にしよう」

アレナとゲイルの模擬戦は次第に速さが増し、本気の二歩手前。
お互いが攻撃を見切れるほどの速さで攻防を続ける。

次第に剣だけではなく拳や蹴りも放たれるが互いに躱し、ガードすることで模擬戦の域を出ずに済んでいる。

「ねぇ、アレナってやっぱり強いよね」

「そりゃそうだろ。元はAランク冒険者だ。それに俺達と出会ってからも戦いに余裕で付いて来てるし……その割には自分のことを過小評価してるところがあるけどな」

不満そうな表情で語るゼルートだが、その原因はゼルートにある。
アレナはどちらかといえば武器の扱いが得意なタイプだが、総合的に見ればオールマイティーな冒険者だ。

だが、ゼルートはどの冒険者よりも高い技能を持つ超万能タイプなのだ。
同じパーティー内に自分の上位交換がいれば、本人に恨み等の感情を持っていなくとも自分を過小評価してしまう。

「よし、それじゃ飯を作っていくか」

二人の模擬戦が終わるまでもう少し掛かりそうだと思ったゼルートは夕食の準備を始める。
そしてアレナとゲイルの模擬戦が終わってから十分後、ようやく料理が完成した。

オムライスや簡単な肉料理と野菜炒め。
地上ならそこまで珍しくない料理だが、ダンジョンの中で食べられる料理なら絶品と言えるだろう。

「やはりゼルートが作る料理は美味いな」

「ルウナだって野菜炒め作ってくれたじゃん」

「これは大して難しい料理ではない。切って炒めて味付けをすれば良いだけだ」

確かに簡単な料理ではあるが、その匂いですらダンジョンで活動している冒険者の食欲に刺さっていた。
そしてその匂いに耐え切れず、一人の冒険者がゼルート達の元にやって来た。
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