冒険がしたい創造スキル持ちの転生者

連載

少年期［５４４］完成した舞台

正直な話……ゼルートの心の中にベーザルに対するイラつきは徐々に減ってきており、逆にベーザルを挑発する楽しさの方が大きくなっていた。

（優男だからこそ、弄り甲斐があるって感じだな）

まだ優男の面を守れているベーザルだが、内心は火山が噴火する直前だった。
そしてそれはベーザルの仲間達も同様であり、自分達のリーダーが馬鹿にされて黙っていられる訳が無い。

ただ、その馬鹿にされているベーザル手を出していないからこそ、今はまだその激情を堪えることが出来ている。

「君は、口で言っても解からないタイプの様だね」

「それはこっちのセリフだ。邪魔だからとっとと失せろっていてるんだよ三下。お前は体に叩きこまなきゃ解らないタイプだな」

両者全く引かない。
そんな状況に周囲の冒険者達の熱も同時に上がっていく。

ルーキーとベテランの域を超えてトップに進もうとしているエースのぶつかり合い。
普通ならルーキーが引く筈なのだが、そのルーキーが全く引かない。寧ろどんどん強気に出ている。

ただ、そんな状況でギルド職員達だけはどうなってしまうのか心配で心配でたまらない。
しかしゼルートがあのゼルートだと知っている受付嬢だけは仮にこのまま両者がぶつかったとすれば、ゼルートが勝つのではと思っていた。

（だって、悪獣はSランクのパーティーでなければ対処出来ない魔物の域を超えた怪物。それをソロで倒した……かもしれないゼルートがBランクのパーティーを潰せない訳が無い）

ベーザルもそろそろ激情を堪えるのに限界が来ている。
それは仲間も同じ。そんな相手の心をアレナ達も理解しており、いつでも戦える準備をする。

（はぁ～～～……本当に、ゼルートと一緒にいると退屈しないわね。こんな状況に慣れてきている自分が少し怖いけど）

（喧嘩になれば、中々楽しめそうな相手だな。というか、久しぶりに思いっきり殴って大丈夫そうだな相手だ。もしそういう状況になれば……遠慮なくぶっ飛ばそう）

（ふむ……一応どれも潰し甲斐がありそうな冒険者達だな。腕を鈍らさない相手には丁度良いか）

（この人達、誰に喧嘩を売っているのか解っているのでしょうか？　確かに冒険者の中ではそこそこ実力がある様ですが、ゼルートさんに勝てるなど……万が一もあり得ないというのに、哀れな人達ですね）

（これってあれだよな。目の前の人達をぶっ飛ばして良い流れだよね？　殺さなければ問題無い感じだよね！！！）

アレナ達の心境は通常時と大して変わっていないが、それでも目の前の冒険者達に負けるつもりは一切無い。

「ふぅーーーー……どうやら全く引くつもりは無いだ様だね」

「そっちが引いてくれるなら全く問題無いんだけどな」

「それは無理な相談だね。それじゃあ……ばしょを変えようか。訓練場を使えば問題無いだろう」

決闘を行うなら訓練場。
それは冒険者ならば当然の流れ。

それを察するように周囲の冒険者達も二人の決闘を観ようと思い、訓練場に行こうとする。
ただ、ゼルートはベーザルを挑発することを完全に楽しんでおり、その提案を却下した。

「おいおい、ひよってんじゃねぇーよ韋駄天のベーザルさん。もしかしたら、Dランクの冒険者ぐらい一発で潰せないぐらいしょぼいのか？　なら韋駄天な大層な二つ名は返上した方が良いんじゃないか？」

今日は珍しく煽りに煽る。
そんなゼルートを少し心配そうにアレナは見つめる。

（こんなゼルート、少し珍しいわね。確かに喧嘩を売って来た相手に対しては容赦無いけど、ベーザルって人は別に喧嘩を売って来たわけでは……あっ、でも部外者なのに私達の事情に首を突っ込んで来たし……ゼルートにとっては喧嘩を売って来たのと変わらないのかしら？　確かに結構しつこいし、その可能性はありそうね）

事実、ゼルートはベーザルをからかいながらも鬱陶しいと思う感情はある。

（さて、周囲もこの場での決闘に乗り気になってきたみたいだけど、どう出る？）

ゼルートの狙い通り、周囲の冒険者達は今すぐ戦えと騒ぎ始める。
こうして完全に引くに引けない舞台が完成してしまった。

「……ふぅーーー、本当に強気なルーキーだね。良いよ、ただし……怪我をしてもしらない「んじゃ、よーいドン」えっ？」

ベーザルが最後まで良い終える前に、ゼルートは視界から消えていた。