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少年期[508]話だけが広まっている

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「ゼルート・ゲインルートさんで合ってるかな」

「あぁ、俺がゼルート・ゲインルートだ。それで、あんたみたいな優男がいったい俺に何の用なんだ?」

男の問いに正解だと返す。そして自分に何の用があるのだと尋ねる。
ゼルートとしては至って普通に返したつもりだった。
冒険者としての返しならば普通だ。特におかしなところは無い。

だが相手の優男は貴族の子息。
優男はゼルートの言葉遣いを大して気にしてないが、傍に座っているメイド兼護衛の女性はその言葉遣いが気に入らなかったらしく、目が険しくなる。

(あらら、主人の方が冒険者というのを解ってるみたいだけど、付き人の人はあまり解っていないようね)

アレナは自分は関係無いとばかりワインを飲みながら二人の様子を静観する。

「単刀直入に言いますと、あなたが少し前に起こった騒動で手に入れた魔物の素材を買おうと思いまして」

「騒動・・・・・・あぁ、あの大乱戦ね。ふ~~~~ん……要件は分かった。だが、なんで俺から買おうとするんだ? 見たところ貴族の子息だろ。別に俺から買わずに親に頼む、もしくは冒険者に依頼する事も可能だろ」

「確かにそれらの方法もあります。ただ、今日この場にその大乱戦で中心人物となったあなたがいる。なら、その人から素材を買い取ろうと思ってしまうのはそこまでおかしい事でしょうか?」

男は既にゼルートは容量の上限がおかしく、時止めの効果まで付与されているマジックバッグを有している事は知っており、大乱戦で得た素材のいくつかは売ったかもしれないが、貴重な素材はまだ持っていると確信している。

「あぁ……そう言われると普通に照れるな。まぁいいや、理由は分かった。……んで、あんたの得物はなんなんだ?」

「えっ。ぼ、僕に売ってくれるんですか?」

「お、おう。あんたが払える金額に見合った素材をだけどな」

ゼルートが貴族の子息であることを知っている。優男は当然……今でも貴族界で語られる伝説を知っている。
一対三という明らかに不利な状況での圧倒的な勝利を収め、更には勝負前に決めた賭けによる結果としてその子供達と親を貴族界から追い出した。

そのエピソードだけはしっかりと残っているので、内面を知らない者はとても気難しい性格なのかと勘違いしてもおかしくは無いだろう。

「わ、分かりました。えっと、僕の使う得物は長剣です」

「長剣か。オーソドックスだな。んで、魔法は何を使うんだ?」

「ま、魔法ですか? 魔法は風と火が使えます」

「風と火か……なるほどねぇ」

ゼルートとしては優男が欲しいと思っている武器は魔剣だろうと思っているので、わざわざ使える魔法まで聞いて自分で倒した魔物達の素材を思い浮かべる。

「大体決まった。ただ……一つ、あんたの実力を試させて貰おう。悪いが、実力が無い奴には売ろうと思わないんでな」

「ッ!! 貴様、この方が誰だ解っているのか!!!!」

優男の実力を試すと言ったゼルートの言葉に対して付き人であるメイドが遂に声を荒げて怒りを露わにしてしまった。

だが、ゼルートはそのメイドにキレらたところで一切怖さを感じない。

「あんたなぁ……世の中にどれだけの貴族がいると思ってるんだよ」

(そもそもまだ名前を聞いてなんだし)

そう、ゼルートはそもそもまだ優男の名前すら知らなかった。
しかし優男がまともな性格をしているのだろうと判断したゼルートは素材を売っても良いだろうと思った。

「止めろ!!! 折角実力次第では素材を売っても良いと言ってくれるんだ。申し訳ありません、うちのメイドが失礼しました」

「良いよ、気にしてないし。それじゃ、やろっか」

「は、はい! ・・・・・・えっと、もしかしてこの場でですか??」

「いちいち移動するのも面倒だからな。安心しろ、俺はそこの仲間と違って酒は飲んでない。武器は……これで良いだろう」

アイテムリングの中から二本の長剣を取り出し、片方を優男に渡す。

「これ、もし床とか壊した時用の代金として置いときますね」

「……かしこまりました」

ゼルートがテーブルの上に白金貨を一枚置いたのを確認したバーテンダーは周囲の従業員に目で合図を送り、ゼルートと優男に周りを囲むように立つ。

「よし、ルールは剣先を完全に突きつけられたら負けってのでどうだ?」

「わ、分かりました。やらせて貰います!!!!」
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