上 下
335 / 1,043
連載

少年期[491]その名が与える恐怖

しおりを挟む
「はぁーーー……もういいや、そこまで無様な姿を見たらなんか気が済んだ。これ以上イジメるのも可哀そうだしな」

公衆面でのお漏らし。
貴族が屈辱と感じる場面は他にもあるだろうが、お漏らしはその中でもトップクラスに入る屈辱。

そんな姿を見たゼルートの怒気や殺気は自然と収まっていく。

「おい、そこの護衛の兵士さん達……俺はゼルート・ゲインルートって名前だ。聞き覚えのある奴はいるか」

ゼルートの問いに全ての兵士達が首を縦に振る。

Bランクの冒険者達や列に並んでいる者達もゼルートの名に聞き覚えがある。
だが、貴族やそれを守る兵士、騎士達は別の意味でゼルートの名に恐怖していた。

まだ五歳という年齢ながら、王都パーティーで変則的な三対一という決闘で自信の両親が持つ全てを賭け、おおよそ貴族たちが予想出来ない勝ち方で勝利を収めた子供。

その話は今でも語り継がれており、頭の良い貴族はよっぽどの理由が無い限りはゼルートやその家族に手を出そうとは考えられない。

そしてこの場にいる貴族達はゼルートの現時点での最高功績である悪獣を単独で討伐したという話も、嫌でも信じなければならなくなった。

「今回はまぁ・・・・・・あれだ。別に俺に言われた言葉って訳じゃ無いから、あんまり俺が口を挟むのは良く無いんだろう。でもなぁ……誰にだって耳に入ってはダメな禁句があるんだよ」

怒気と殺気は確かに消えていた。
だが、見えない何かが兵士達の方にのる。

今ここで目を逸らしてはいけない。
そう思わせるほどの圧がゼルートから溢れている。

「それを良く考えて、そこのガキに言い聞かせろ。そろでもそいつが言う事を聞かないなら、お前らの雇い主の報告しろ。こいつのせいでゼルート・ゲインルートと敵対しそうになりましたってな」

「「「「「「は、はい!!!! かしこまりました!!!!」」」」」」

まだ貴族の中にはゼルートを大したことは無い冒険者だと下に見ている者は多いが、それでもこの場にいる貴族だけはもう今日の光景が一生頭から離れなくなる。

「勝手に割り込んで悪かった」

「いいっていいって、気にすんな。寧ろスカッとしたからこっちとしては割り込んできてくれて大歓迎だったよ。まっ、でもあれだ……あんまり無茶だけはしない方が良いぜ」

頭を下げて謝って来たゼルートにBランクの冒険者は全く気にしてない、寧ろ嬉しかったと返す。
面倒ごとを自分達に変わって始末してくれたゼルートに対して感謝の言葉しかなかった。

だが、だからこそゼルートの生き方に少し危うさを感じ、気休め程度だが助言をする。
貴族に逆らった冒険者の殆どが碌な目に合わない。
ゼルートが普通という枠の言葉に収まる者では無いと分かっているが、それでも心配してしまう程の強気な態度。

権力があるからこそ、自分達冒険者と比べて出来ることが多い。
それを伝えたい冒険者達だったが、それはゼルートも良く解っていた。

「あぁ、覚えておくよ。基本的には話し合いで解決するつもりだ」

そう言いながら元の場所に戻っていくゼルートに冒険者達はある種の憧れを感じる。

(あれだな、自分の言葉を曲げることなく絶対に貫き通して生きていくっていう思い……いや、執念か。そんなものが感じられた。そんな強気な態度する、あいつにとっては普通なんだろうな)

相手が誰であろうと自分の考えを貫き通す。
それは絶大な力を持つゼルートだからこそ貫ける考えであった。

「おかえりなさい。もしかしたら手を出すかと思ったけど、そうならなくて安心したわ」

「なら、俺も少しは大人になったって事だな。でもゲイルがいなかったらもう少し粘ったかもな」

「それは無いかと。ゼルートさんが怒気や殺気を発すれば、どちらにしろ相手は屈していたかと思われます」

ゲイルとしてはゼルートに頼られたことは嬉しかったが、正直自分はいなくても良かったのではと思っていた。

「……ゲイルの言う通り、ゼルートの圧に耐えられる者はそうそういないだろう。これから一人で対処出来るんじゃないか?」

「何言ってるんだよ。一番は平和的に解決することだろ。そんなの出してたらちょっと脅迫に近いだろ」

ルウナの言う事も解からなくは無いが、少しだけ考えが穏やかになってきたゼルートとしては、話し合いで解決するのが一番という結論だ。
しおりを挟む
感想 680

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。 だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!? 体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。