上 下
329 / 1,049
連載

少年期[485]限界はある

しおりを挟む
蹴りに対して蹴りを返し、パンチに対してパンチで返す。

その様な行動を何度も何度も繰り返すゼルート。
トロールが一方的に攻撃しているのだが、それでも全ての攻撃を同じ攻撃でゼルートから返されている。

攻撃力は若干ゼルートの方が上なので攻撃がぶつかる度にトロールは少しダメージを受ける。
しかしそのダメージは再生スキルによって瞬時に回復する。一見、両者ともノーダメージのまま時間だけが過ぎているように感じるが……実はそうではない。

ラームの様に相手から魔力を奪い取る術が無く、魔力を瞬間的に自己回復出来るスキルを持っていないトロールは傷を再生する度に魔力が削られていく。

「あ、あの坊主……マジでヤバいな。あの体格でトロールと殴り合えるなんて。見た目なんてレベルの前では意味無しってのは解かるが・・・・・・それでも相手はトロールだぞ」

腕力だけならばモンスターの中でも上位に食い込む実力の持ち主。
そして種族特有の再生スキルも持っており、戦闘職からすれば厄介な敵であることに変わりない。

「あなたの気持ちは解らなくないわ。でも……あれが悪獣を一人で倒した少年よ」

「は、ははは。あれを見せられたらその話も信じないとな」

「そ、そうね。トロールなんかと殴り合えるなんて、普通の冒険者じゃそうそう無理な芸当だし」

既にオーク達の討伐は護衛の冒険者とアレナ達によって倒されており、必ずゼルートが勝つだろうと解っているルウナは戦いを見ることなくラームと一緒にオークの解体を行っている。

当然、解体によって流れる血の匂いに惹かれてやってくる魔物はいるのだが、大きな轟音を鳴らしながら戦うゼルートとトロールにビビッて逃げてしまう。

「なんか……徐々にトロールの方が押されているような気がする」

「そうでしょうね。おそらく、トロールは再生のスキルを持っているのだからゼルートに攻撃を相殺された際に負った傷を癒せている。その傷の大きさによって再生に必要な魔力量は変わるでしょうけど、魔力を回復する術は持っていない」

「そ、そりゃそうだな。トロールが自然に魔力を回復する術を持っていたら……本気でゾッとする」

再生スキル持ちの魔物を倒す場合、どうにかして大ダメージを与えて少しでも魔力を消費させようとするのがセオリーな攻略方法。

最初から急所を狙えば良いのではと思うかもしれないが、再生スキル持ちの魔物は自分が攻撃を喰らってはいけない体の部分を本能的に理解している。

なので、そこまで知能が高い訳でもないトロールでも頭部と胸部への攻撃には敏感だ。

ただ、ゼルートが現在戦っているトロールに関しては、かなり再生スキルのレベルが高いので脳が破壊されても時間を掛ければ再生が可能。

そして数分間もの間、ゼルートとトロールの打ち合いは続いたが、魔力と同じようにスタミナも永遠に続くものでは無い。

「あらら、もうスタミナが尽きて来たか」

「……ッ……ッ……ッ!!!」

本来ならば長時間動けるのだが、ゼルートを強敵だと本能で理解したトロールは全力中の全力で攻撃をを繰り返していた。
その分だけスタミナを通常時よりも消費される。

そしてゼルートが浮かべる余裕の笑み、それがトロールにプレッシャーを与えており更にスタミナを削る。

「んじゃ、そろそろ終わりにしようか」

ゼルートが狙うのは勿論心臓。

スピードを一段階上げ、トロールの心臓目掛けて飛びあがる。
だが、ゼルートが次に繰り出す攻撃の個所を予測できたトロールは即座に心臓を隠すように両腕をクロスしてガードする。
腕には残った魔力を全て絞り出して纏う。

少しでも防御力を上げようとした結果だが……ゼルートに対しては無意味な足掻き。

「それぐらいの防御じゃ、俺の攻撃は防げ無いって」

右拳に水の魔力を纏ったゼルートは勢い良く拳を突き出す……拳がトロールの腕に届く前に。
ただ、ゼルートの拳からは範囲が一点に絞られた激流が飛び出していた。
しおりを挟む
感想 683

あなたにおすすめの小説

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。