上 下
268 / 1,049
連載

少年期[429]それぐらい使えよ

しおりを挟む
「こうなるとは思ってたけど、本当になってしまったわね」

「もはやこの一連の流れがあるのに私は違和感を感じなくなった」

「なっはっはっは、ゼルートの奴は毎回こんな面倒事に巻き込まれてるのか。まっ、あいつの場合は強さが外見に釣り合っていないから仕方ないけどな」

「ゼルート君はこれからどんどん成長するんだからその内あんな馬鹿達に絡まれることも少なくなる筈です」

ゼルートの体はそこまで大きくは無いが、それでも直実に少しづずつ成長はしているので、将来的には平均よりは高い身長になる。

しかし容姿も大人になったとしても、厳つい風貌になる事は無いので今回の様に実力を読めない馬鹿が絡む可能性がゼロとは言えない。

「相手の若手もそこそこ経験を積んだ実力者だろうが、ゼルート相手に何分持つ事か」

「私はせいぜい一分程かと思います」

「ゼルートがどの様に終わらせようと考えているのかにもよるが、もしかしたら三十秒もかからず終わるかもしれないぞ」

人前で実力を隠すのは諦めようと思っているゼルートがその様に決着を着けるのか。

ルウナは以前までの様に時間を掛けて倒すような真似はしないと思い、内心では三十秒よりも短く終わるかもしれないと思っていた。

そんな四人の会話は周囲に聞こえており、ゼルートの実力が読めていない冒険者の半分は身内贔屓をし過ぎだと思っていたが、残りの大半はもしかしたら見た目に似合わずとんでもない実力者なのではと疑い始めた。

戦いを見守る冒険者達の中では大々的な賭けは行われていないが、身内同士での賭けは行われていた。

「二人共準備は良いな」

開始位置に着いた二人の準備は既に整っており、ゼルートに絡んだ男は完全に潰す気でいた。
遊んだり容赦するつもりは無い。圧倒的な実力差で身の程を教えてやる。

「ああ、いつでも大丈夫だ」

「こっちも大丈夫ですよ」

ゼルートは腰に付けている長剣を外しており、戦う武器は己の五体で十分だという意思を表している。

(本当にムカつくガキだな。年齢の割に実力があるのかもしれないが、俺にとっては中途半端な実力だ)

現実をその身に刻む。
そう決めて男は槍を構える。

「始め!!!!」

ギルドマスターによる開始の合図が発せられると同時に男はゼルートに突進し、槍を数度突いて態勢を崩したところで柄を腹にぶち込んでやると一連の動きを決めていた。

「嘗めんのも大概にしろや」

自身の脚が駆けだす前に懐から声が聞こえた。
その声には明確な怒気が含まれていた。

気付けば槍はずらされ、自身の胴体が隙だらけになっている。

「ふんッ!!!!!!」

崩拳を使った訳では無く、唯の正拳中段突き。

その一撃で、男の胸骨と肋骨は砕け、開始位置よりはるか後方に吹き飛ばされた。

「おわっ!!??」

「えっ、ちょっ、何が起きた!!??」

いきなり自分達の方に飛んできた男を咄嗟の反応で受け止めた冒険者達は何が起きたのか解らなかったが、横から見ていた冒険者達にはある程度見えていた。

「ギルドマスター、この勝負、俺の勝ちだろ?」

「うむ、その通りじゃな。勝者はゼルートだ!!!!」

開始五秒も経たずに決着。
アレナとルウナの予想はどちらも外れていたが、それでもこの結果に驚きはしなかった。

「ゼルート相手に身体強化も使わずに挑むなんて、実力差を思い知らせてやる!!! みたいな表情をしてたくせに油断し過ぎでしょ」

「そう思っていたからこその油断じゃないのか? まぁ、ゼルートの実力を考えればあの男程度では本気を出したとしても大して耐えられはしないだろう」

周囲の冒険者達の中でジャイアントキリングに期待し、ゼルートの勝ちに賭けていた冒険者達は素直にこの結果に喜んでたが、他の者達は目の前の結果に反応出来ずにいた。
しおりを挟む
感想 683

あなたにおすすめの小説

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

殿下、恋はデスゲームの後でお願いします

真鳥カノ
ファンタジー
気付けば乙女ゲームの悪役令嬢「レア=ハイラ子爵令嬢」に転生していた! いずれゲーム本編である王位継承権争いに巻き込まれ、破滅しかない未来へと突き進むことがわかっていたレア。 自らの持つ『祝福の手』によって人々に幸運を分け与え、どうにか破滅の未来を回避しようと奮闘していた。 そんな彼女の元ヘ、聞いたこともない名の王子がやってきて、求婚した――!! 王位継承権争いを勝ち抜くには、レアの『幸運』が必要だと言っていて……!? 短編なのでさらっと読んで頂けます! いつか長編にリメイクします!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。