上 下
250 / 1,026
連載

少年期[411]予想していたのと違った

しおりを挟む
「お待ちしておりましたゼルート様、アレナ様、ルウナ様。奥にルミイル様がおります。付いて来てください」

「分りました」

ルミイルの部屋で待っていたメイドの後に付いて行き、テラスへと向かう。

(物凄い鉄仮面を被ってるような表情が動かない人だな)

初対面のメイドに対し、ゼルートはそんな感想を抱く。

(まっ、王女の傍にいるメイドがあんまり感情の浮き沈みが激しい人では駄目、なのかもしれないな。あと、絶対に強いよなあのメイドさん)

勝手に鑑定眼を使った場合、どんな眼で見られ小言を言われるかわかったものでは無いので鑑定眼を使って調べなかった。
だがそれでも王女を守るに相応しい実力を持つことは雰囲気から理解出来る。

そして扉が開かれ、遂にルミイルと対面するゼルート達。

「お久しぶりですね、ゼルート」

「どうも、お久しぶりですルミイル様」

「本当に久しぶりですね。ささ、座ってください」

ルミイルに急かされて一目で高級な代物だと解る椅子に座るゼルート。

(べ、別に大して重くないからバキッと壊れたりしないよな)

ゼルートの体重を考えればまずあり得ない出来事だが、それでもそんな事を考えてしまうぐらいゼルートは緊張している。

椅子に恐る恐る座るゼルートだが、アレナとルウナは椅子に座ろうとせず後ろに立つ。

「? どうしたんだよ二人共」

用意された椅子は三つ。ゼルートとアレナとルウナに用意された物なので二人が座ることに何ら問題は無い。
それは二人も解っているのだが、それでもゼルートの後ろに立った。

「いや、ゼルートは私達のリーダーだからあれだけど元々私は無関係な人間だったわけだし」

「私は何となくこうした方が良いと思ったからだ」

「そ、そうか。いやでも折角椅子を用意してくれてるんだしさ」

ゼルートがチラッとルミイルに視線を送ると勿論といった表情で返す。

「何も問題は無いので座ってください。お二人も客人なんですから」

王女様にそう言われたのだから二人が椅子に座る事は完全に無礼な行為では無くなった。
しかしそれでも二人は躊躇ってしまう。

そこで二人はルミイルの後ろに立っている二人のメイドに視線を向けた。
向けられた視線の意味を直ぐに理解したメイド達は表情を笑顔に変えて頷く。

そしてようやく二人は椅子にゆっくりと腰を下ろす。

「さて、三人とも何かお好みの紅茶はありますか?」

「いえ、自分は特にありません。二人はなにかあったりするか?」

「偶に飲むけど、特に好みは無いわね」

「私もだ」

三人とも紅茶を飲む機会はあまり無く、好みがあると飲み物は果実水ぐらいだった。

「それではシェリー、あなたの腕に任せます」

「かしこまりました」

「キャル、お菓子を持って来て」

「はい!! 少々お待ちくださいませ」

人族のメイド、シェリーは一切音を立てる事無く紅茶を淹れていく。
そして猫人族のメイドであるキャルは早足で調理場へと向かう。

「それにしても、礼服姿でお越しになったのですね」

「流石にルミイル様に何時もの格好で合うのは良くないと思ったので、王都の店で礼服を数着ほど買いました」

「中々似合っていますよ。ただ少し気になるのですが、何故アレナさんとルウナさんも男性用の礼服を着ているのでしょうか?」

「自分も試着が終わった後に同じように尋ねたのですが、男性用の礼服の方が動きやすいという理由からだそうです」

女性用の礼服を着るのが嫌だという訳では無いのだが、それでも何が起こるかわからない文字通り未知の場所であり、個人の誘いであるので男性用の礼服でも構わないだろうというのがアレナの結論。

ルウナも似たような考えであるが、やはり単純に男性用の礼服の方が動きやすいというのがルウナの中で一番のメリットだった。

「そうなのですか。お二人共ゼルートの事を大切に思っているのですね」

「ゼルートに一度終わりかけた人生を救って貰った身ですので、せめて何時でも共に戦える格好でいようと」

「アレナと同じく人生を救われた身だ、です。それにゼルートには一般的には考えられない程世話になっている、ので」

いつもの癖が抜けないルウナは何とか言葉を敬語に直そうとするが、中々上手くいかない。
ただその言葉遣いにルミイルは笑顔で無理する必要は無いと伝える。

「いつも通りの言葉遣いで大丈夫ですよ。私は全く気にしないので」

「・・・・・・わかった。そうさせて貰う」

「はい。もっと楽にしてください。それで、ゼルートが今まで体験した冒険を聞かせて貰っても良いですか?」

「勿論です。そうですねぇ・・・・・・それではまずオークとゴブリンの大群を相手にした時の冒険から」

あたかもその場所にいる様な感覚になる様にゼルートはルミイルに自身の冒険を伝える。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

【完結】聖女ディアの処刑

大盛★無料
ファンタジー
平民のディアは、聖女の力を持っていた。 枯れた草木を蘇らせ、結界を張って魔獣を防ぎ、人々の病や傷を癒し、教会で朝から晩まで働いていた。 「怪我をしても、鍛錬しなくても、きちんと作物を育てなくても大丈夫。あの平民の聖女がなんとかしてくれる」 聖女に助けてもらうのが当たり前になり、みんな感謝を忘れていく。「ありがとう」の一言さえもらえないのに、無垢で心優しいディアは奇跡を起こし続ける。 そんななか、イルミテラという公爵令嬢に、聖女の印が現れた。 ディアは偽物と糾弾され、国民の前で処刑されることになるのだが―― ※ざまあちょっぴり!←ちょっぴりじゃなくなってきました(;´・ω・) ※サクッとかる~くお楽しみくださいませ!(*´ω`*)←ちょっと重くなってきました(;´・ω・) ★追記 ※残酷なシーンがちょっぴりありますが、週刊少年ジャンプレベルなので特に年齢制限は設けておりません。 ※乳児が地面に落っこちる、運河の氾濫など災害の描写が数行あります。ご留意くださいませ。 ※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。