冒険がしたい創造スキル持ちの転生者

連載

少年期［３３９］心が折れる防ぎ方

「ゼルート、どうやって戦うつもりなの？」

「そうだなぁ・・・・・・基本は素手で良いだろうな。最初に向こうの攻撃を受け止めるか弾き飛ばす。その後に一撃かまして終わり」

「シンプルで結構心に来る負け方ね」

自分の一撃を受け止められ、相手はノーダメージ。
そして相手に素手でやられる。そういった負け方をすればゼルートもアレナと同様に自信が折れる負け方だろうと考えている。

「別に相手の攻撃なんて考えず一撃で終わらせれば良いんじゃないか？」

「それでも構わないかと思ったけど、自分の自信満々な攻撃をノーダメージで受け止められたり弾き飛ばされたりすれば、それはそれで結構な精神的ダメージだと思うんだよ」

「・・・・・・確かにそうかもしれないな。相変わらずゼルートは黒いな」

「いやいやいや、そんな黒くないし。結構簡単に思い付きそうな相手の自信を折る手っ取り速い方法だろ」

ゼルートは鑑定眼を使った訳では無いが、生徒たちのレベルはそう高くは無く持っている武器なども貴族の次男や三男、三女に思える者は多少良い物を持っているが、それでもレベル差を覆す事が出来る程の物を持っている者はいない。

「一応聞いておくけど、魔法はどうやって防ぐつもりなの？」

「どうやってと言われても・・・・・・って感じだけど」

「・・・・・・予想はしていたけど、実際それをやられると絶対に心を折られるでしょうね」

自身の魔法を基本的にはあり得ない方法で防がれる少年少女たちにアレナは心の中で憐れんだ。

「さて、これから俺とお前らの摸擬戦を始める。あっ、摸擬戦って名目だけどお前らは刃引きの武器を使わなくて良いからな。魔法もじゃんじゃん使ってくれ。審判はボウドさんよろしくお願いします」

「分った。お前ら、手加減してくれると思うが、大怪我する前に降参するんだぞ」

教師からお前らはこの人より実力が下だから無茶はするなよとボウド的には善意あっての言葉だが、生徒達にはそう捉えられずボウドを睨み付けるような視線を向ける。
しかしそんな視線をボウドは慣れているのか、口笛を吹きながら軽く流す。

ゼルートが摸擬戦を行う一人目の生徒は魔法使いタイプの女の子。

見た目でどういう戦闘スタイルなのか解ったアレナとルウナは予想外の洗礼を受けるであろう女の子に思わず合掌してしまった。

アレナとルウナの合唱に何事と思い、首を傾げるソン達をよそに摸擬戦一試合目が始まる。

少女は杖を使いながらウィンドボールの詠唱を始める。
それに対してゼルートは何も武器を持っておらず、構えてすらいない。

完全に舐めきっているゼルートの態度にあさり沸点が頂点に達した少女の怒気が強まり、詠唱の声が無駄に大きくなる。

そして詠唱が終わり、ゼルートに向かって一直線にウィンドボールが放たれる。

（・・・・・・普通のウィンドボールだな)

自分に向かって完全な敵意を向けてくる少年少女達にゼルートはほんのちょこっとだけ期待していた。
少しは自分が驚くような攻撃をしてくるのではないのかと。

しかし目の前に迫って来るウィンドボールはいたって普通のウィンドボールだった。

(まぁ後九人いるんだしそいつらの攻撃に期待しておくか。・・・・・・ちょこっとだけ)

後もう少し自分にぶつかるといった距離でゼルートは拳に魔力を纏い、ウィンドボールを真上に弾く。

「・・・・・・え？」

自身のウィンドボールをいとも簡単に上空へ弾き飛ばされた少女の表情は何が起こったのか解らないといった感じで固まってしまう。

「おい、まさかウィンドボール一発撃っただけで魔力切れって事は無いだろ。さっさと攻撃を続けろ」

ゼルートが開始地点からゆっくりと歩きだすと、少女は急いで詠唱を始める。