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第231話 称賛に値する煽り
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「シドウ先生、ちょっと良いっすか」
「ん? フィリップか。俺に声を掛けるなんて珍しいね」
ある日の放課後、フィリップはいつものようにイシュドたちと共に訓練を行わず、イブキの兄である現在フラベルト学園で教師として活動しているシドウに声を掛けた。
「かもしれないっすね」
「……もしかして、俺に相談事でもあるのかい?」
「まぁ、そんなとこっす」
「………………」
シドウは半分本気、半分冗談で訊いただけだった。
故に、本当にフィリップが自分に相談しに来たのだと解ると、驚きで思わず固まってしまった。
「あの、シドウ先生?」
「っと、すまんすまん。いやぁ~~、本当に俺に相談しに来たんだと思わなくてね」
「迷惑だったっすか」
「いや、全くそんな事ないよ。寧ろ、相談相手に選んでもらって嬉しいまであるね」
シドウは教師として、なるべく学園の生徒たちと良好な関係を気付いて行きたいと思っている。
生徒と交流を含めて、仲良くなれたら本当に嬉しい…………ただ、フィリップに関しては実力、センス、性格を知っている分、誰かに相談したい事があれば、まじイシュドに相談すると思っていた。
仮に教師に相談するとしても、バイロンに相談すると予想していた。
ある意味気になる生徒だったこともあり、自分を相談相手に選んでくれて嬉しいという気持ちに嘘偽りはなかった。
「それじゃあ、ちょっと場所を変えようか」
「あざっす」
二人は生徒たちの進路相談を行う部屋に移動。
そしてシドウは慣れた様子で暖かい茶を用意した。
「あっ、苦味があるものって大丈夫だった?」
「大丈夫っすよ。ガキじゃないんで」
そう言いながらシドウが用意した茶を口に入れても、フィリップは特に苦い顔をすることなく飲み込んだ。
「それで、俺に相談って言うのは、戦闘に関することかい? それとも、イブキに恋心を抱いてしまったか? 俺としては、別にイシュドが絶対って決めてるわけじゃないから、全然応援するよ」
「後半の方はイシュドに期待しててください。俺にとっては良き友人ってだけなんで」
「あっはっは!! それじゃあ期待しておこうかな。それじゃあ、相談内容を戦闘に関することなんだね」
「そうっすね…………この前、ガルフとイブキ、アドレアスと俺を入れて四人でミノタウロスの討伐に行ったんすけど……その時、ちょっと思うことがあって」
まず、四人だけで受けた依頼の中で、どういった戦闘があったのかを細かく話し始めた。
シドウはある程度内容を知っているのだが、イシュドからあれこれ頼まれ、実は後ろからこっそり付いて行ってたというのは内緒であるため、初めて聞いたかのような反応を見せる。
「といった感じで、俺はミノタウロスとの戦いで、全く役に立てなかったんすよ」
「? どうして……そう思うんだ。俺には、十分活躍したように思えるが」
まず、基本的に前衛が四人というアンバランスなパーティーの中で、フィリップは後衛としての役割を果たした。
シドウからすれば、それだけで十分仕事を果たしたと言える。
「それに、気を失ったガルフが巻き込まれない様に拾って、イブキが居合・三日月を放つ時間を稼ぐために、盛大に煽ったんだろ」
こっそり離れた場所から覗いていたため、シドウはフィリップが本気で最大限の煽りをミノタウロスという暴牛相手にかましたのを見ていた。
一歩間違えれば、ミノタウロスはイブキが放つ猛烈な殺気に気付かず、怒りに身を任せてフィリップの方に襲い掛かっていたかもしれない。
そんな死のリスクを背負った煽りをかましての時間稼ぎ。
あれがもしなければ……また別の結果になっていたかもしれない。
「煽っただけっすよ」
「リスクを背負った、称賛に値する煽りだと思うけどね」
「……あざっす」
シドウの強さを知っているというのもあるが、大人にここまで真っ直ぐ褒められたのが久しぶりということもあり、珍しく照れた表情を浮かべる。
「けど、正直……あれだけじゃ足りない」
「ふむ…………フィリップは、今のところ騎士になるつもりはないんだよね」
「そうっすね。どう考えても俺には合わないんで、今のところというか、絶対になることはないっすね」
「それでも、強さを求めると」
フィリップはガルフの様に、イシュドに追い付きたいという気持ちを持っていなければ、ミシェラの様にいずれイシュドをぶった斬りたいという物騒な考えも持っていない。
極論……そこまで強さを求める必要がない。
「一応、学園を退学するつもりはないんでね。これからも、ガルフたちと一緒に戦うことは何度もある…………そん時に、何も出来なかった、なんてことにはなりたくないんで」
ミノタウロス戦では、戦闘が始まってから直ぐにミノタウロスはイライラしだし、怒りのボルテージが高まっていた。
そしてついにそれが限界突破し、結果として主の咆哮というスキルを会得した。
ただ、強力なスキルを会得したとしても、それでミノタウロスの怒りが消えることはなかった……だからこそ、フィリップの煽りが刺さった。
しかし、モンスターの全てが感情を持っている、フィリップの煽りが刺さるとは限らない。
(やっぱり、人と関りを持つことで、考え方が変わるんだろうねぇ…………しかし、何をどう教えようか)
フィリップを若者、と呼ぶには指導も若い部類に入るのだが、とにかく若者の成長を嬉しく感じた。
ただ、シドウはある程度フィリップの性格を把握しているからこそ、ただ闇雲に熱血漢丸出しで鍛えれば良いというものではないことを理解していた。
適当に、ちゃらんぽらんに過ごしていたとしても、ある程度上位に入る戦闘力を手に入れていた。
イシュドやガルフと出会い、毎日のように訓練を繰り返すようになったが、それでもフィリップはガルフやミシェラの様に……少しでも前に進もうと、立ち止まらない様にと向上心を爆発させながら訓練に取り組んでいない。
勿論、模擬戦や試合で負けても良いやと思いながら適当に戦ってはいないが、全力で取り組み続けるのはフィリップのスタイルではない。
(侍としての僕が教えられることは、あまりないかな…………そうなると、やっぱりあっちの方面を教えるべきかな……けど、俺そっちは専門じゃないんだよね)
上手く教えられるか解らない。
それでも、折角フィリップがイシュドやバイロンではなく、自分を頼って来た。
その期待に応えたいと思い、シドウはある職業に付いて話し始めた。
「ん? フィリップか。俺に声を掛けるなんて珍しいね」
ある日の放課後、フィリップはいつものようにイシュドたちと共に訓練を行わず、イブキの兄である現在フラベルト学園で教師として活動しているシドウに声を掛けた。
「かもしれないっすね」
「……もしかして、俺に相談事でもあるのかい?」
「まぁ、そんなとこっす」
「………………」
シドウは半分本気、半分冗談で訊いただけだった。
故に、本当にフィリップが自分に相談しに来たのだと解ると、驚きで思わず固まってしまった。
「あの、シドウ先生?」
「っと、すまんすまん。いやぁ~~、本当に俺に相談しに来たんだと思わなくてね」
「迷惑だったっすか」
「いや、全くそんな事ないよ。寧ろ、相談相手に選んでもらって嬉しいまであるね」
シドウは教師として、なるべく学園の生徒たちと良好な関係を気付いて行きたいと思っている。
生徒と交流を含めて、仲良くなれたら本当に嬉しい…………ただ、フィリップに関しては実力、センス、性格を知っている分、誰かに相談したい事があれば、まじイシュドに相談すると思っていた。
仮に教師に相談するとしても、バイロンに相談すると予想していた。
ある意味気になる生徒だったこともあり、自分を相談相手に選んでくれて嬉しいという気持ちに嘘偽りはなかった。
「それじゃあ、ちょっと場所を変えようか」
「あざっす」
二人は生徒たちの進路相談を行う部屋に移動。
そしてシドウは慣れた様子で暖かい茶を用意した。
「あっ、苦味があるものって大丈夫だった?」
「大丈夫っすよ。ガキじゃないんで」
そう言いながらシドウが用意した茶を口に入れても、フィリップは特に苦い顔をすることなく飲み込んだ。
「それで、俺に相談って言うのは、戦闘に関することかい? それとも、イブキに恋心を抱いてしまったか? 俺としては、別にイシュドが絶対って決めてるわけじゃないから、全然応援するよ」
「後半の方はイシュドに期待しててください。俺にとっては良き友人ってだけなんで」
「あっはっは!! それじゃあ期待しておこうかな。それじゃあ、相談内容を戦闘に関することなんだね」
「そうっすね…………この前、ガルフとイブキ、アドレアスと俺を入れて四人でミノタウロスの討伐に行ったんすけど……その時、ちょっと思うことがあって」
まず、四人だけで受けた依頼の中で、どういった戦闘があったのかを細かく話し始めた。
シドウはある程度内容を知っているのだが、イシュドからあれこれ頼まれ、実は後ろからこっそり付いて行ってたというのは内緒であるため、初めて聞いたかのような反応を見せる。
「といった感じで、俺はミノタウロスとの戦いで、全く役に立てなかったんすよ」
「? どうして……そう思うんだ。俺には、十分活躍したように思えるが」
まず、基本的に前衛が四人というアンバランスなパーティーの中で、フィリップは後衛としての役割を果たした。
シドウからすれば、それだけで十分仕事を果たしたと言える。
「それに、気を失ったガルフが巻き込まれない様に拾って、イブキが居合・三日月を放つ時間を稼ぐために、盛大に煽ったんだろ」
こっそり離れた場所から覗いていたため、シドウはフィリップが本気で最大限の煽りをミノタウロスという暴牛相手にかましたのを見ていた。
一歩間違えれば、ミノタウロスはイブキが放つ猛烈な殺気に気付かず、怒りに身を任せてフィリップの方に襲い掛かっていたかもしれない。
そんな死のリスクを背負った煽りをかましての時間稼ぎ。
あれがもしなければ……また別の結果になっていたかもしれない。
「煽っただけっすよ」
「リスクを背負った、称賛に値する煽りだと思うけどね」
「……あざっす」
シドウの強さを知っているというのもあるが、大人にここまで真っ直ぐ褒められたのが久しぶりということもあり、珍しく照れた表情を浮かべる。
「けど、正直……あれだけじゃ足りない」
「ふむ…………フィリップは、今のところ騎士になるつもりはないんだよね」
「そうっすね。どう考えても俺には合わないんで、今のところというか、絶対になることはないっすね」
「それでも、強さを求めると」
フィリップはガルフの様に、イシュドに追い付きたいという気持ちを持っていなければ、ミシェラの様にいずれイシュドをぶった斬りたいという物騒な考えも持っていない。
極論……そこまで強さを求める必要がない。
「一応、学園を退学するつもりはないんでね。これからも、ガルフたちと一緒に戦うことは何度もある…………そん時に、何も出来なかった、なんてことにはなりたくないんで」
ミノタウロス戦では、戦闘が始まってから直ぐにミノタウロスはイライラしだし、怒りのボルテージが高まっていた。
そしてついにそれが限界突破し、結果として主の咆哮というスキルを会得した。
ただ、強力なスキルを会得したとしても、それでミノタウロスの怒りが消えることはなかった……だからこそ、フィリップの煽りが刺さった。
しかし、モンスターの全てが感情を持っている、フィリップの煽りが刺さるとは限らない。
(やっぱり、人と関りを持つことで、考え方が変わるんだろうねぇ…………しかし、何をどう教えようか)
フィリップを若者、と呼ぶには指導も若い部類に入るのだが、とにかく若者の成長を嬉しく感じた。
ただ、シドウはある程度フィリップの性格を把握しているからこそ、ただ闇雲に熱血漢丸出しで鍛えれば良いというものではないことを理解していた。
適当に、ちゃらんぽらんに過ごしていたとしても、ある程度上位に入る戦闘力を手に入れていた。
イシュドやガルフと出会い、毎日のように訓練を繰り返すようになったが、それでもフィリップはガルフやミシェラの様に……少しでも前に進もうと、立ち止まらない様にと向上心を爆発させながら訓練に取り組んでいない。
勿論、模擬戦や試合で負けても良いやと思いながら適当に戦ってはいないが、全力で取り組み続けるのはフィリップのスタイルではない。
(侍としての僕が教えられることは、あまりないかな…………そうなると、やっぱりあっちの方面を教えるべきかな……けど、俺そっちは専門じゃないんだよね)
上手く教えられるか解らない。
それでも、折角フィリップがイシュドやバイロンではなく、自分を頼って来た。
その期待に応えたいと思い、シドウはある職業に付いて話し始めた。
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