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第215話 信じているから

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「かぁ~~~~、動いた後の酒は美味いな~~~」

「……否定は出来ないけど、今日フィリップは特に働いてないよね?」

夕食の席で、言葉だけ聞けば冒険者となんら変わらないフィリップ。
そんなフィリップの言葉に同意しながらも、アドレアスは「お前は労働と言える労働をしてない癖に酒が美味いのか?」とツッコむ。

「うっせ。そういうお前だって、大して働いてねぇだろう」

「そうだね。それも否定出来ない」

結局、本日遭遇したモンスターの殆どはイブキ一人で倒してしまった。

人型であろうと、四足歩行タイプのモンスターであろうと、綺麗に首を切断。
圧倒的な殺傷力でモンスターを討伐していき、本当に三人の出番は少なかった。

「それにしても、遭遇したモンスターは最初に遭遇したオークと同じく、全員僕たちを食べようという意思が強かったね」

「だな~~~~。それを考えっと、マジでミノタウロスの奴が辺り一帯を支配してんのかもな」

「フィリップ的に、面倒な性格の持ち主かもしれないってことだね」

「そういうこった。つっても、暴力で支配視点なら、まだ全然良いんだけどな」

暴力頼りの暴君であれば、いくらでも戦りようはある。
しかし、フィリップが恐れる点は他にもあった。

「……支配してるだけならまだしも、獣系のモンスターを従えてたら、クソ面倒だ、な!! ぷは~~~~~~。すいません、エールおかわり」

「かしこまりました~~~!!!」

一気に残っていたエールを飲み干すも、まだまだ酔いは回らない。

「ミノタウロスだから、獣系モンスターを従えるか……」

「安直な考えだって言いてぇのか?」

「そんなことないよ。ただ、場合によっては獣系だけではなく、オークなどの人型も可能性としてあり得るかと思って」

「……強い奴だけを傍に置くって考えが出来る奴なら、一部の個体だけを従えてるかもな」

通常種のオークはDランクであり、ミノタウロスはBランクの怪物。
その怪物を討とうとする冒険者たちであれば、一人でもオーク程度であれば余裕で討伐出来る。

(つか、それなら、ミノタウロスの側近? 連中がBランクに近い実力を持ってるかもしれねぇってことかよ………………クソったれが。場合によっちゃあ、前回の鬼竜・尖との戦い以上に勝ち目が薄いんじゃねぇか?)

できれば、フィリップとしては勝ち目が薄い勝負はしたくない。

「であれば、先に私はミノタウロスに従うモンスターの討伐をメインに動いた方が良さそうですね」

「その方が良いかな。そうなると、ミノタウロスは……僕とアドレアス様の二人で抑えるのが最善かな」

「そうだね。それじゃあ、フィリップはイブキさんの援護に回ってもらって、従うモンスターたちの討伐を終えたら、予定通りの陣形でミノタウロスと戦おう」

「………………」

「? どうしたんだい、フィリップ。いつも以上に眉間にしわが寄ってるよ」

「うっせ。お前らのイシュドに負けねぇバーサーカー具合にちょっと呆れてたんだよ」

三人とも、仮にミノタウロスが一部の力を持つ個体のみ傍に従えてた場合、その実力がBランクに近い実力を有している可能性が高い……という考えには至っていた。

だが、それでも一切怯える様子を見せず、仮にその場合はどうやって戦うについて直ぐに考え始めた。

「……ぷっ、あっはっは!!! フィリップ、それはそれで嬉しいけどさ、僕らなんてまだまだだと思うよ」

(いや、別に褒めてねぇんだよ)

声に出してツッコミたいところなのだが、ガルフの中でイシュドに似ている、イシュドに負けてないという言葉は、全て褒め言葉に変換されていると解っているため、無駄だと思って言葉に出さなかった。

「バーサーカー……でしょうか? 私としては、まだ自分たちの負けが決まった訳ではないと思っているので、どう戦うかを考えるのは当然かと」

「鬼竜・尖の話を聞いた限り、本当にミノタウロスが力のある一部のモンスターを従えてたとしても、総合的に見れば鬼竜・尖の方が強いと思えてね。それなら、勝ち目はそこまで低くないと思わないかい」

「アドレアス様の言う通りだよ、フィリップ。僕は……このメンバーで、負けるとは思えないよ」

ガルフの言葉を聞き、フィリップは一年も経たず、人はここまで変われるのかと、ほんの少し驚いた。

何故なら……現在、フィリップたちが食事をしている場所は酒場。

つまり、周りには冒険者たちがいる。
先日、フィリップたちにバカ絡みをしようとして、結果としてハーフ巨人のギルド職員にボコボコのメタメタにされた阿呆たちはいないが、現在レブラ周辺の森に生息しているミノタウロスに関して知っている者は多い。

このメンバーなら、ミノタウロスを相手に負けるとは思えない。

そんな事をほざくガキ共がいれば、調子に乗ってるんじゃないぞと暴言が飛んできてもおかしくない。

「……はっはっは!!!! ったく、本当に頼もしくなったんじゃねぇの」

「そ、そうかな。でも、学園に入学してイシュドに出会ってから、それまで以上に頑張ったし……なにより、フィリップたちが強いのは知ってるからさ」

学園に入学するまで頑張った自分、入学してからイシュドという友人と出会い、更に頑張った自分の努力を、意志を……ガルフは信じていた。

なにより、共に切磋琢磨して頑張っているフィリップたちの実力は、日々の手合せで実感しており、自分の実力以上に信じている。

(…………将来騎士とか魔術師を目指してる令息や令嬢連中の中で、こういう考えを出来る奴が、いったい何人いることやら)

狙っている、狙ってないは関係無かった。
味方の士気を上げることを狙ってそういう事を言えるのも、リーダーとしての資質があると言える。

(イシュドの強さを見て、強さを求める姿勢が変わった連中が少しいるみてぇだが、ぶっちゃけイシュドよりガルフを見習うべきだよなぁ……絶対にバカ真面目に頷く奴はいねぇだろうけど)

良き友人の、素晴らしいリーダーの言葉を聞き、少し……フィリップの中の不安や面倒という気持ちが薄れた。
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