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第209話 緊張も思考の表れ

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「…………シッ!!!!」

「ん~~~、悪くねぇけどまだまだ足りねぇな~~~」

ガルフたち四人がいない放課後。
他の生徒たちからすれば、イシュドと関われるチャンスだと、行動に移そうと思うも……イシュドが興味のない連中と関わるつもりがない。

加えて、ミシェラやつい最近留学生としてやってきたフレアたちが傍にいるため、やはり関わることが出来ない。

相も変わらず、イシュドは知人友人と呼べる者たちとだけ模擬戦などを行っていた。

「よっと。んじゃあ、ここまでな」

「ぐっ……」

普段と比べて、数十秒ほど長く攻守逆転したイシュドの双剣技に耐えたミシェラであったが、そこから逆転することは敵わなかった。

「そんで…………本当に良いのか? 一応試合だぜ」

「えぇ、勿論です。依頼を受ける以上、戦いに参加しないという選択肢は取れません」

「あっそうかい。その覚悟があるなら良し」

次はルドラとヘレナとのタッグとバトルと考えていたイシュドだが、急遽フレアが参戦。

(……まっ、ルドラとヘレナがノックアウトした時点で、負けを認めるか)

言葉通り、相応の覚悟を持っているのであれば、挑戦を拒む理由はなかった。

「よ~~~し、どっからでも掛かって来い」

ミシェラとの試合は双剣だったが、今度は槍を持って試合に臨むイシュド。

「「ッ!!!!!」」

自分たちを嘗めているのではないと、イシュドと関わる様になってから十分解っていた。

加えて、試合開始直後はどこか隙はないか、探り合いをするのが無駄だと解っており、ルドラとヘレナは臆せず己の刃を振るう。

(ふっふっふ。やっぱ悪くねぇな。もう何日も俺と戦り合ってるからか、槍を使ってる俺とはいえ、徐々に動きを読み始めてやがる)

ここ最近、イシュドはガルフたちとの試合では魔力やスキルを一切使わずに戦っている。
それは相変わらず舐めプをしているという訳ではなく、徐々に何も強化しない状態であれば……試合を楽しいと感じられるようになってきたからである。

一対二の戦いに関してはレグラ家で始めてから、夏休み以降も続けているが、そんなガルフたちと比べて……ルドラとヘレナのコンビは一級品だった。

普段からイシュドと共に行動している四人の中では、フィリップがずば抜けて相方の動きに合わせるのが上手い。
だからこそ、もう一人が自由に動ける……そういったツーマンセルの戦い方も強さの一つである。

しかし、ルドラとヘレナはどちらかがどちらかの動きに合わせようという意識がない。

(良いね良いね、阿吽の呼吸ってやつだ)

二人の連携度の高さから、これまでルドラとヘレナが積み重ねてきた時間、苦労、忍耐、執念……それら諸々を感じ取ることが出来る。

当然、それを感じ取った瞬間、イシュドは無意識に悪魔的な笑みを零す。

「ん~~~……一応、及第点では、あるのかね」

後方から炎槍が迫るのを察知し、イシュドはバク宙で回避。

二人もフレアが後方から炎槍を放ち、軌道を操り、イシュドの背後に当てようとしていたのは把握済み。
そのままフレアが放った炎槍に当たるような無様な醜態を晒すことはなく、回避しながらルドラは宙に飛んだイシュドに三連突きに魔力を乗せて放った。

「良い、対応力だな」

槍で弾きながら飛ばし、着地の瞬間に死角へ回っていたヘレナの大剣技、ウォールブレイカーを槍で受け流した。

「チッ!!! スキルぐらい、使ってほしいものね!!」

「受け流しは一つの技術だからな。素の状態で使えて損はねぇぞ」

武器スキルには受け流しを主な効果とした技が存在するが、攻撃の受け流しという技術自体はスキルを使わずとも可能。

ただ、本人の技術力がなければ失敗して一気に戦況が悪化してしまう。

「さて、俺もぼちぼち動いていくか」

フレアたちとの試合が始まってから数分後、ようやくイシュドは防御や回避だけではなく、攻撃混ぜ始めた。

攻撃という手段を取れば、どうしても狙われた人物以外が自由となり、別方向から攻撃を仕掛けられてしまう。

「よっ、ほっと」

(くっ!! 視野が、あまりにも広すぎる!!!!!)

最初の炎槍だけではなく、フレアはイシュドの真正面以外のところから攻撃魔法を放ち、ルドラとヘレナの邪魔にならないように動いていた。

そして二人もフレアが放った攻撃魔法を活かし、果敢に攻め続けるも……イシュドは槍という小回りが利かない武器を器用に振り回し、その全ての対処していた。

「ぐっ!!!???」

「ごはっ!!!!!?????」

イシュドが攻撃を始めてから数分後、前衛の二人がノックダウン。

(……一応、最後までやるつもりっぽいな)

そのやる気には応えてやろうと思い、イシュドは槍で炎槍や風槍を弾き飛ばしながら突き進み……そろそろ槍のリーチがフレアに届くタイミングで、宙に跳んだ。

次の瞬間、火の壁が地面から立ち上がった。

「狙いとしては、悪くなかったな」

着地と同時に、槍の矛先がフレアの首筋に添えられた。

「ま、参りました」

「潔くてなによりだ」

「……っ、何故、解ったのでしょうか」

「そりゃあ、あれだけ顔に出てたらな」

これまでの戦闘経験から、なんとなく地面から何かが来るという予感があった。

だが、それよりも解り易く、フレアの顔に一矢報いてやるという思いが表れていた。

「対人戦経験の差、といったところですわね」

「強ぇ連中は表情すら利用して仕掛けてくるけどな」

「……その様な猛者は、おそらく学生にはいませんわよ」

付け加えるのであれば、イシュドを相手にそれを使える学生はいない。

「そこまで、顔に出ていたでしょうか」

フレアは自分の策が通じるという思いから来る笑みが零していなかった。
寧ろ、通じる可能性は低い……でもやる価値はあると、緊張した表情になっていると思っていた。

「ポーカーフェイスって言葉があるだろ。笑ってるのもそうだが、顔が強張ってるっつーのも、何かを考えてる……その考えを実行しようって思いが表れてる面の一つだ」

何もかも見抜かれていた。
その事実に落胆を隠せないフレアだったが、イシュドはイシュドで王族であるフレアの魔力量に感心していた。

(あれだけ通常よりもでけぇファイヤーランスやウィンドランス、ファイヤーウォールを使ってのに、魔力消費からくる疲れはあんまねぇ……よな?)

魔力操作の技術も悪くはないと思い、イシュドはほんの少しフレアの評価を改めた。
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