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第200話 吼えれば良い

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「……まぁ、それはこれから次第じゃないっすか」

「…………全員が全員、お前やガルフの様な芯を持っているわけではない」

「だろうな。けど、あいつはある種の背中を見せたんでしょ」

いつか、ディムナに伝えた言葉を思い出す。

「なんて言ったかな……夏休みの時、別に言葉で鼓舞しなくても、背中を見せて憧れさせれば良い、的なことをあいつに伝えた気がするんだよな~~」

「そういえば……その様な事を言っていたな」

「わざわざ挑発して、挑発に乗った連中を全員真っ向から叩き潰した。俺はあいつじゃないんで、正確な考えまでは解らねぇけど、お前らはこのまま潰れたままで良いのか、来年の激闘祭トーナメントで他校の連中に潰され活躍出来ないまま終わっても良いのか……的な事を伝えたんじゃねぇのかって思うな~~」

平民を思いっきり見下していたクソカスイケメン野郎。
それがイシュドのディムナに対する第一印象だが、それでも渋々……不承不承ながら関わる様になり、自分以外の人間に興味がないタイプの人間なのではないのだと感じた。

「あいつが、そこまで…………考えているか?」

「はっはっは!!!! 口下手な奴だからな~~~。ダスティンパイセンがそう思うのも無理はねぇだろうな。つっても、仮にそういう連中が現れなかったら、それはそれで一人で刃を研ぎ続けるんだろう……結局、どう転んで来年もガルフたちにとってクソ厄介な強敵になるだろ」

ディムナに関しては……ガルフやフィリップたちほど、親しい関係だとは思っていないイシュド。

ぶっちゃけて言うと、学生の間……ガルフたちにとって好敵手であり続けてくれれば、それで構わない。
加えて……アドレアスも王子という立場でありながらイシュドに対して土下座したが、最初に侯爵家の令息でありながらイシュドに土下座して頼み込んだのは、ディムナ・カイスである。

(あいつなら、一人でも勝手になんとかするだろ)

当然ながら、親友ではない。
ただ、過去に目の前で行われた光景から……ある種の信頼感に近いものはあった。

「ふふ、信用してくれてるんだな、あいつの事を」

「あぁ~~~~…………チッ!! ある種のそういうのと言えるのかもな。つか、ダスティンパイセンも見てただろ、あいつが土下座すんの。俺はあいつの昔とか根っこの部分とか知らねぇけど、パーティー会場でちょこっと話しただけでも、クソ高ぇプライドを持ってるのだけは解ったぞ」

「うむ、その光景は良く覚えている……正直なところ、人生で一番驚いた光景と言っても過言ではない」

イシュドは辺境伯家の令息。
そういった立場だけ見ても、ディムナの方が上であり、プライドの高さでも並ではない。

ダスティンをあの光景は、今でも幻ではないのか……ディムナに似てる誰かが土下座をしているのではと思ってしまう。

「…………しかし、それでも心というのは、肉体の様に鍛えられるものではない」

「メンタルの強さねぇ~~~。確かに、それは激しく同感だな。筋肉は鍛えれば鍛えるだけ答えてくれるし、結果に繋がるしな……んで、同じことを言うってことは、俺から何かしらのアドバイスが欲しい感じ?」

「贅沢を言うと、そうだな。ディムナほど口下手ではないが、俺はまだまだ……強くなれても、騎士候補生だ」

強くなった自覚はある。
前回受けた依頼で、イレギュラーの遭遇とはいえ、単独でBランクモンスターを討伐することに成功した。
レグラ家が治める領地で遭遇したケルベロスの様な迫力、強さには及ばないものの、それでも単独でBランクモンスターを討伐したという功績はダスティンの自信へと繋がった。

だが、それでも成長しているのは個としての力。
騎士になる為には勿論必要な力ではあるが、更に上を目指すのであれば……それだけでは足りない。

「……俺もいずれは率いて戦うことになる。そう思ってっけど、別に頭が超良い訳じゃねぇぜ?」

「では、非常に柔軟な思考力を持ってるということになるな」

「ったく、解った解った。飯も驕ってくれてんだし、少しぐらいは教えるよ。つっても、俺はよその学園の連中なんざ、マジで知らねぇ。だから、言えんのは…………自分が最強だって吼え続けることかな」

「ほぅ?」

夏休みの間、イシュドに関わるようになってから多くの考えを聞いた。
ただ、今しがたイシュドの口から出たアドバイス内容は、自分だけではなくガルフたちにも伝えていない内容だった。

「他の学園の連中なんざ、金を積まれても指導する気にならねぇ。ただ、アドバイスを送るとしたら、自分が最強だって吼え続ける、これしかねぇな」

「……恥ずかしくて、一年生たちが羞恥心で死にたくならないか?」

ダスティンは、激闘祭トーナメントの二年生の部でトップを取った。
だが、一年の部は決勝戦……残っていた生徒はアドレアスとフィリップ。

どちらもフラベルト学園の生徒。
フラベルト学園の学園長、教員たちからすればもろ手を上げて喜べるが、他の学園の生徒、関係者たちからすればこの上ない屈辱である。

更に付け加えるのであれば、準決勝までにはミシェラも残っていたため、ベスト四まで上がった四人の内三人がフラベルト学園の生徒だった。

とても……自分が最強だって吼える事など出来ない。

「そこまでは知らん。ただ、自分が最強だって吼えていれば、自分より強い奴がいる……その現状を許せるか?」

「ッ……本気でそう思えているのであれば、確かに許せない存在、だな」

「だろ。恥ずかしさを感じるなら、その恥ずかしさが消えるほど没頭すれば良い。結局のところ、騎士や魔術師になるなら、強くならなきゃ死ぬ。んで、同学年にガチの最強がいるんだろ。それなら、卒業まで突っ走り続けなきゃならねぇ」

「……ふっ、ふっふっふ。イシュドよ……お前は、本当に恐ろしいな」

「デカパイが、俺の事をしょっちゅう異常な狂戦士って呼んでる。狂戦士って、自分で言うのはあれだが、普通じゃねぇだろ。んで、それが更に異常なら、恐ろしくて当たり前だろ」

ニヤリと口端を吊り上げて笑う後輩を見て、ダスティンは思った。

やはり、目の前の狂戦士は……良い意味で強さも思考力も狂っていると。
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