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第190話 嫌な評価のされ方

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「おぅ、イシュド。クリスティールパイセンたちと何を話して……たんだ?」

「あぁ~~~……あれだ、クソめんどくさい話だ」

あまり機嫌がよろしくない。

イシュドがそもそも隠そうとしてないこともあり、フィリップだけではなく他三人も察した。

「もしや、二年生や三年生の指導を頼まれたのかしら」

「そりゃ昨日の祝勝会の時に断っただろ、バイロン先生もそれは忘れてねぇよ」

「それもそうね……けど、だったら何をそんな不機嫌になる頼みをされたのかしら」

不機嫌な事があれば、それを隠そうとはしないタイプ。
そんなイシュドの性格は既に把握している。
ただ、今のイシュドからは……心底めんどくさいという感情が零れていた。

「もしや、単独で受けてほしい依頼があると頼まれたのですか?」

「それも違ぇ。つか、さすがに学園も俺がソロで受けなきゃならねぇ依頼なんぞ抱えねぇだろ」

「そのイシュドが入学してんだから、依頼者側もわざわざ頼み込んだ可能性はゼロじゃないんじゃねぇの?」

「…………今後、そういう可能性は確かにありそうだな。けど、そういうんじゃねぇんだよ。つか、別に頼み事って訳じゃなかった」

ますます何故、イシュドが不機嫌丸出しなのか解らなくなるフィリップたち。

「警告っつーか、注意喚起っつーか…………そんな感じか?」

「警告に注意喚起って、あなた何をしましたの?」

「何もしてねぇよデカパイ。つか、だからこそ不機嫌なんだよ。ってなわけで……久しぶりに、四人纏めてかかって来い」

流れからして、サンドバッグにされる未来しか見えない。
しかし、フィリップはやれやれといった表情で短剣を構え、他三人は戦意をマックスに高め……イシュドとの変則模擬戦に臨む。


「よしっ!! ちょっと休憩にすっか」

約五分後、変則模擬戦に勝利したのは勿論イシュド。

四人は木製の武器ではなく、真剣を使用して挑み……ガルフは闘気まで使ったが、がっつり完敗してしまった。

とはいえ、イシュドは素の状態ではなく、身体強化のスキルを使用していた。
全員の成長具合と、素手だけで戦うというハンデを考慮すると、妥当な使用スキルと言えた。

「はぁ~~~、相変わらずクソ強ぇな」

「安心しろ。フィリップだって、ガチで成長してるからよ」

今回の変則模擬戦でも、フィリップは鬼竜・尖との戦闘時と同じく、味方のサポートと遠距離からの嫌がらせ……そして不意を突く接近戦という万能っぷりを発揮。

「鬼竜・尖が鼓動をコントロールした瞬間、真っ先にお前を狙っただろ」

「……そういえばそうだったな。あん時は……死神の鎌が直ぐそこに迫る感覚があったぜ」

実際のところ、イシュドが止めに入っていなければ、イシュドの首を綺麗にスパッと斬り裂かれていた。

「そりゃそうかもしれねぇが、もうちょいあの鬼竜・尖が殺せると確信した瞬間、真っ先にお前を狙ったことを冷静に考えてみろよ」

「…………嫌な評価のされ方だな」

「なっはっは!!!! 確かに、結果としてその評価のせいで殺されるのは、たまったもんじゃねぇか」

四人の中で、一番厄介な存在だと感じたから殺そうとした。
それは間違いなく、フィリップの戦闘力や観察眼、戦況の把握力に嫌がらせ攻撃が評価されたからではある。

「それに、俺はもう数か月はお前らと一緒に行動してんだぞ。ある程度どう動くか解ってくるってもんだ」

「……それを考えると、いかに鬼竜・尖が凄かったのか、身に染みて解るよ」

ガルフの脳裏に思い浮かぶは、先日激闘を演じていた……筈だった超特殊モンスター、鬼竜・尖の姿。

「あいつはあいつで、遭遇する何日か前からお前らの戦いっぷりを観てたからな」

「だとしても、だよ。それに、鬼竜・尖と遭遇する前までは四人で一体のモンスターと戦うことはなかった。それを考えると……本当に異常な学習能力だったよ」

鼓動をコントロール出来る状態の鬼竜・尖を見てしまったため、仮に再度戦う機会があったとしても…………ガルフは、四人で倒せるイメージが浮かばなかった。

(…………考えてんな。何となく、アドバイス出来なくもねぇけど、多分……そうしない方が良いんだろうな)

イシュドは教官、教師として活動していた訳ではないが、実家に使える未来の騎士たちや現役の騎士たちと関わる中で、特に意識せず思ったことを伝えており……それが結果として良いアドバイスに繋がっていた。

故に……無意識にそういう眼が備わっていた。

(つか、俺は俺の方で厄介な問題……問題? があるし……そっちの方、考えとかねぇとあれか~~~~)

クソ面倒な未来に対し、どうしようかと悩み、もやもやしながら過ごすこと数週間。

その間にイシュドたちは複数の討伐系依頼を受け、イシュドは手を出すことなくガルフたちだけで討伐することに成功。

四人は着実に功績を積み重ねており、イシュドとしても友人たちが評価されていくのは見ていて気分が良かった。

だが……悩んでも悩んでも全く解決しない問題が、遂に訪れてしまった。


「今日から、このクラスに三人の留学生がクラスメートとしてお前たちと共に学生生活を送る」

朝の会的な時間……バイロンから伝えられた言葉に、多くの学生たちが首を傾げた。

留学生自体は、そこまで珍しい存在ではない。
現に、夏休み前にイブキという留学生がやって来た。

だが、一年生の内に二人……しかも、同じクラスに留学生が訪れるというのは、非常に珍しい。

(クソがぁ…………今からでも窓から飛び出て逃げ出してやろうかな)

イシュドは知っていた。
事前に留学生が来ることを知っていた……だからこそ、不機嫌な気持ちがずっとしこりの様に残り続けていた。

「どうぞ」

「失礼いたします」

扉を開け、教室に入ってきた三人の学生。

イシュドを除く学生たちは、一番初めに入って来た女子生徒の姿を見て……ある人物を脳裏に浮かべた。

「皆さん、初めまして。カルドブラ王国から留学やってまいりました、フレア・カルドブラと申します」

(……とりあえず、雰囲気はあの王子様と一緒か)

学生たちが脳裏に浮かべた存在は、同学年の王族であるアドレアス・バトレア。
その直感は見事に的中。

バトレア王国に留学してきた人物は……カルドブラ王国の王女だった。
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