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第153話 増えた傷

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「イシュド」

「おっ、ロベルト爺ちゃん。どうしたん?」

双子との全試合を終え、夕食を食べ終えた後……イシュドの元にやって来たロベルト。

「……このまま風呂に入って寝るか、ぶっ倒れるまで儂と戦うか……どっちが良い」

翌日にはイシュドが学園に戻ると聞き、戻る前に最後に一戦どうかと尋ねた。

「……へっへっへ。ロベルト爺ちゃん、それは愚問過ぎるってもんでしょ」

「そうか。では行くぞ」

建設費用に莫大な金が吹き飛んだ訓練場へ向かい、イシュドは準備運動も含め……初っ端からバーサーカーソウルを使わずに攻めた。

勿論、使用する武器に関しては本気であることを証明する二振りの戦斧。

(ふむ……指導ばかりで鈍ってないかと思っていたが、良く繋がっているな)

繰り出される連撃は、当然止まらない。
その連撃に、ロベルトはこれまで以上の滑らかさを感じていた。

体に堅さを感じず、四肢が……全体が紐のような緩やかさを感じさせる。

戦斧は叩き潰すだけではなく、切断することも仕事であるため、若干ではあるものの、切断力が増していた。

ただ……相変わらず、ロベルトにダメージはゼロ。

「日々、成長してるようだな」

「本当、か!!!??? そう言ってくれると、嬉しい、けど、もっ!!!!!!」

体が暖まってきた。
スピードも重さも上がるが、ロベルトは全ての攻撃を両手でいなすか、ガードしている。

当然、今のところ切傷どころか小さな内出血すらない。

(流石最、強ッ!!!!!!)

普段なら悪くない手応えを感じる一撃も、手刀一つでガードされてしまう。

「体は暖まったか?」

「そうだな。カッコつけるわけじゃないけど、こっから……殺す気でいく」

「うむ、良し」

イシュドの眼がターゲットを、獲物狙う眼に変化。

それはバーサーカーソウルを発動しても……前回の様に激情を迸らせることなく溜め込む。

「ッ!!!!!!!!!!」

「己の意志で、出せるようになったか」

ほんの少しだけ、ロベルトの指に切傷が生まれた。

(流れ、ろッ!!!!!!!!!!!!)

狙った一撃を放ち続けるだけでは意味がない。

イシュドは流水とも捉えられる動きを、バーサーカーソウルを発動した状態で実行。

通常時と比べれば精度は落ちるものの……バーサーカーソウルを発動することによる身体強化を考慮すれば、結果としてお釣りがくる。

(良い動きをするようになったな)

ロベルトはただ見てから反応するのではなく、イシュドの動きを予測し始めた。
受け方もそれなりに考えて動くようになった結果……イシュドが繰り出す攻撃は、一度目の切傷以降、全くダメージを与えられていなかった。

だが、今のイシュドにそんな事を気にする余裕は一ミリもない。
己の全てを出し切り、亜神を斬り伏せる。


「ふむ、良くやった」

「はぁ、はぁ…………四つ、か。少しは成長、出来たかな」

一度目の切傷以降、イシュドは体力と魔力が尽きるまで、もう二つの切傷と小さな青痣を与えることに成功。

(スキルを使っていない状態とはいえ、儂が駆け引きをした……また、そこを上手く利用されもした…………ふっふっふ。同じ世代にいたら、つい思ってしまうな)

ロベルトにも兄弟はいた。
アルフレッド以外の子供もいる。

だが、まだ全員が全員、とび抜けてはいなかった。

(歳は離れているが、アレックスたちがいる事を考えると……やはり羨ましいな)

精魂尽き果ててぶっ倒れているひ孫を抱え、ロベルトは小さな笑みを浮かべながらイシュドの部屋に連れて行った。

当然……この時、イシュドはメイドたちに戦闘用の服を引っぺがされ、タオルで水拭きされた後に寝間着に着替えさせられるも……その間、一度も目が覚めることはなかった。


「…………」

「退屈そうですね、イシュド様」

翌日、前回と同じように家族を見送られた後、イシュドはボケーッとした表情で外の景色を眺めていた。

「そりゃな。毎日シドウ先生が死合いしてくれるならあれだけど、さすがにそんな
ほいほいエリクサーは用意出来ねぇしな」

「……ですが、良き教師はいるようですね」

「全員が全員って感じじゃなさそうだけど、少なくともシドウ先生と、見るからに堅物そうな担任のバイロン先生は意外と話が解かるタイプなんだよ」

諸々の問題を考えれば、ガルフが卒業するまでは傍に居る必要がある。
割と友人たちがいる学園生活は悪くない。

悪くないのだが……良い意味での刺激が全くない。

「…………なぁ、大会ってのは、一度しかねぇのか?」

「四つの学園が合同で開催する大会は年に一度だけかと。というか、イシュド様が参加すれば、勝ちは見えてるのでは?」

「スキルを使わない、槍か大剣か双剣か短剣か、そこら辺の武器を選んだり……後は片腕を使わないとか、そういった縛りを入れたら多少は面白くなりそうじゃないか?」

とんでもなく他の学生たちを嘗めた発言ではあるが、護衛の騎士はそれぐらいしなければ欠片も釣り合いが取れないことを理解している。

「多少は面白くなりそうではありますが……手加減をされた状態で負けたとなれば、戦った生徒たちは恥をかくだけになりそうでは?」

「あぁ~~~……逆に将来の就職先からの評価が落ちるか?」

「戦闘を生業とする者であれば、よっぽどバカでなければイシュド様の力をある程度は把握出来ると思いますが…………そうですね。一応、あの状態のイシュド様を相手にどれだけ戦えたのか。そこが一つの評価基準になる可能性もあるかと」

トーナメントで優勝する、結果を出す。
プライベートでモンスターや盗賊を討伐する以外のことで、自分の強さを証明出来る存在。

そんな騎士の考えは、イシュドのどう考えても学生の枠に収まらない強さを考えれば、決して荒唐無稽な話ではない。

「っと、そういえば王都の学園では、二年生以降からはクエストを受けられるようです」

「クエストっつーと、冒険者たちが受けてる感じの?」

「それに近い形のものです。ガルフ君たちを見て思いましたが、貴族の学生でも実力はそこら辺の冒険者並み……もしくは、それよりもやや上のレベルのようですしね」

「ガルフたちは学生の中でも抜けてる奴らだが……まっ、うちの領地以外に生息してるモンスターの強さを考えれば、無理な話ではねぇか」

しかし、クエストの話は二年生以降の話。

イシュドは多少の期待を抱えながらも、それまでどう過ごそうか、そればかりを考え続けた。
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