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第109話 間違いなく、大富豪

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「二日後、二日後から実戦を始める事にしたから、それまでに各自、全員と意思を疎通できるように頑張ってくれ」

ミシェラが爆笑を引き起こした翌日、イシュドは変わらず筋トレを行いながら今後の予定をガルフたちに伝えた。

(さて……どうするか、さっさと決めないとな)

二日後から、領地の森に入って実戦を行うのは確定。

イシュドが悩んでいる内容は、いつからガルフに……アレックスからの直接指導を追加するか、であった。

(一応歳が近くて、身内で一番闘気を扱えるのはアレックス兄さんなんだが……あの人、手加減クソ下手くそだからな)

闘気という能力は、接近戦タイプの強者が鍛えれば全員得られるもの……ではない。

戦闘大好き集団であるレグラ家の人間の中でも、闘気を会得出来た人間はそう多くない。

アレックスはイシュドからの頼みであれば、基本的に断ることはない。
その一番の理由は……イシュドを気に入っているから、というだけではなく、単純に学園に入学するという役目を長男ではなく四男であるイシュドに任せてしまったからである。

偶に狂気を感じさせる笑みを浮かべているアレックスだが、それなりの常識は身に付けており、傲慢ではないので自分より弱いイシュドが学園に通うべき!!! なんて考えが浮かぶことはない。

イシュドがアレックスにガルフの直接指導を頼めば、快く引き受けてくれるのは間違いない。

(…………ガルフはなんだかんだで強い向上心を持ってるし、折れずに頑張れる……か?)

学園で出会ってから、実家に招待してから……イシュドは世間一般では超厳しい、もしくは厳し過ぎる訓練を教えてきた。

だが、イシュドの場合はただ厳しい訓練行っているだけではなく、ある程度ちゃんとした理を持って実行している。

アレックスの場合は……あまり理を感じられない訓練を実行してしまう。
加えて当然ながら、イシュドよりも年齢が上である。
イシュドの普通じゃない具合を考えれば、多少の歳の差など関係無いように思われるが……アレックスは違う。

実際のところ三男のミハイルや次女とのガチバトルでは勝利することは珍しくない。寧ろ直近の勝率は上回っているのだが……アレックスとのガチバトルに関しては、過去に片手で数えるほどしかない。

(……なんとかなる、と願うしかないか。ガルフは、確実に更に一歩先に進める可能性があるからな……そこを潰すなんて、やっぱりナンセンスだよな)

闘気を会得した者の、更にその先にある可能性。

当時、イシュドとの出会いによってその力を劇的に伸ばし始めたガルフではあったが、ディムナ・カイオスと引き分けに至るには……まだ一歩、もしくは二歩足りなかった。

しかし……その足りない部分を補う可能性を、あの試合でガルフは爆発させて引き分けまで持ち込んだ。

イシュドとしては、やはりその可能性を掴み取ったガルフと、思いっきり戦い。
そんな事を考える顔にはやはり超好戦的な笑みが薄っすらと零れており、タッグバトル中のガルフに、突然の寒気を与えた。


「っし、休憩~~~~」

「ふぅ~~~~」

「お疲れさん。タッグバトルには慣れてきたか、ガルフ?」

「……どうかな。まだ慣れたとは、断言出来ないかな」

タオルで汗を拭くガルフの表情に、嘘は隠れていなかった。

(変わらず向上心が逞しいのは良い事だな)

ただ、筋トレを行いながら全員のタッグバトルを見ていたイシュドだが……明らかに、先日よりタッグバトルに慣れている様に見えた。

「おいおいガルフ~~~、勘弁しろっての。謙そんし過ぎだぜ~~」

「そ、そうかな? でも、まだまだフィリップみたいに器用に立ち回れてないし」

「俺はあれだ……器用貧乏ってやつだからな。対峙した相手に器用さを感じてもらわないとあれだ」

自身のセンス、才を器用貧乏と称するフィリップ。

休憩前最後のタッグバトルで、クリスティールとタッグを組んだフィリップのその器用さに一杯してやられたミシェラは……ぎりぎりと奥歯を噛みしめ、悔しそうな表情を浮かべるも、先日の様に頭上から湯気が出そうになることはなかった。

「器用貧乏? 器用大富豪の間違いだろ、フィリップ」

「はっはっは!! だと良いんだけどな」

元々フィリップは、自分は割と器用な方だと思っていた。

しかし、今自分の周りにいる者たちを見て……偶に、そんな自分の器用さなど大したことはないと思う。

(ガルフはガルフで元が謙虚だから変わらずって感じだけど、なんか……フィリップにしちゃあ、ちょっと珍しい感じだな)

器用大富豪という言葉は、決して慰めの言葉ではない。

今まで詳しく、細かく学んできていなかった分、ガルフの成長速度には目を見張るものがある。
だが、今回のように普段使わない武器を使った戦いを続け、更にタッグバトルを行っても……フィリップや大斧や戦斧であればダスティンの動きから学び、槍ならイブキ……双剣ならクリスティールやミシェラからしっかりと学び、取り入れていた。

「もっと自信持てよ、フィリップ。お前は強ぇよ」

「ふふ、さんきゅ」

「っと、そういえば一応訊いておきたい事があるんだった……ガルフ」

「ん? なにかな」

「…………多分、死にはしないんだよ。うん、死にはしない。ただ……今よりも疲労度が半端じゃない訓練? を受けるか」

ガルフたちの間に、緊張が走った。

理由は……あのイシュドが、勧めるのを躊躇するほどの訓練だから。

「イシュド君。死にはしない、という言葉に保証はあるのですか?」

クリスティールにとって、ガルフは共に活動する生徒会のメンバーではない。
それでも……フラベルト学園の生徒会長として、同じ学園に在籍する生徒を守らなければならない。

「ある。つーか、仮に死なせたら俺がその人を殺しにいく。訓練中に起きた不慮の事故とか、関係ねぇ」

自分が教師との試合で本当に死んでしまったことに関しては、エリクサーがあったとはいえあっけらかんとしていたにもかかわらず、友人の死となれば……悪鬼羅刹の如き圧を放つ。

やはりイシュドという人間の感覚は狂っている部類に当てはまるが……だからこそ、信用出来る部分があるというもの。

「……んで、どうする。ガルフ」

「イシュド……僕は、イシュドと出会わなければ、強くなれなかった。学園に入学しても……もしかしたら、退学してたかもしれない」

目の前の友人と出会えたからこそ、今の自分がある。
その友人が与えてくれるチャンスを断るという選択など……あるわけがなかった。
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