上 下
88 / 251

第88話 豊作?

しおりを挟む
「飯の時間だ。行くぞ」

イシュドの実家に到着してから二時間後、あれこれ感想を交わしている間にあっという間に時間が過ぎ、夕食の時間となった。

(……し、視線が突き刺さってきますわね)

(ん~~~……何を考えての視線なのかなんとなく解りますけど……)

(…………真剣に考えてみるべきでしょうか)

レグラ家の者たちが集まる食堂に到着するまでの間、すれ違う者たちは皆……ミシェラ、クリスティール、イブキに期待するような視線を向けていた。

「おい、お前ら。その三人は一応お客さんだ。あんま変な視線向けんでくれ」

「「「「「は、はい!!!」」」」」

怒ってはいない。
ただ呆れているだけではあるが、従者たちは彼女たちが公爵家や侯爵家の令嬢だという事を思い出し、早足で仕事へと戻って行く。

「ったく、何を期待してんだが」

照れ隠し、などではない。
イシュドは本当にそういった考えを持っておらず、意識すらしていない。

なので……従者たちがそういった事に期待するなとは言わない。
それは個人の自由ではあるが、そんな視線を向けられれば、三人が深いに感じると思っていた。

「っし、ここが食堂が。これから基本的に毎日飯はここで食うから、覚えてくれよ」

「中に入ると……既に大量の料理がテーブルに乗せられていた」

「やぁ、来てくれたか。イシュドの友人たち。さぁさぁ座って食べようじゃないか」

「し、失礼します!」

イシュドは友人……ガルフにとって、それは間違いない。

ただ、友人の父親が辺境伯の当主という、ガルフにとって天の上的存在であることに変わりはなく、再び緊張感が湧いてきた。

「ガルフ、変に緊張しなくて良いぜ。ほら、冷めないうちに食おうぜ」

「う、うん」

テーブルの上には大量の料理が乗っており……更に続々と追加の料理が運ばれてくる。

「噂で聞いたぞ、イシュド。激闘祭に参加するのではなく、特別試合と称して各学年の優勝者三人と戦ったそうだな」

「普通に参加したところでって思ったんで、そっちの方が良いかなって。俺が学園に入学した目的? みたいなのを考えれば、それが一番かと。それに、加減ありとはいえそれなりに楽しかったからですからね」

「はっはっは!!!! そうかそうか。加減ありとはいえお前が楽しめたのであれば、他の地域の未来も明るいと言えるな。そういえば……金髪を束ねた君は、確かアルバレシアの娘だったね」

「はい。クリスティール・アルバレシアと申します、レグラ辺境伯様」

「ふふ、そんな仰々しく呼ばないでくれ。ところで、あいつは元気か?」

「今でも訓練場で体を動かしていますか」

「そうかそうか……あいつにまだその気があるなら、勝負を受けてやるのもありか」

言葉、態度から滲み出る……上から目線。

クリスティールはそれに対し、何も思うところはなかった。

(イシュド君は、曾お爺さんは殺しても殺せない人だと言っていた。それは……この方も、同じなのでは?)

ある程度の視る眼は有しているクリスティール。
実際に手合わせなどせずとも、レグラの現当主であるアルバが自身の父親を見下ろすほどの実力を持っている事は直ぐに解っていた。

「それにしても、イシュドが友人を連れてくるとはなぁ」

「父さん、俺をなんだと思ってるんですか?」

「子供たちの方でも、社交性がある方だとは思っている。口が上手くて、問題事を問題事にしないように運べる。だからこそ、より自分に理不尽に絡んで来た者たちのプライドを粉々に砕くと。だから、学園で友人なんかできないと思ってた」

「ひっどいな……つっても、大半が面倒な連中だから、父さんがそう思うのも間違ってはないか」

「私としては、お前が女の友人を連れてきたことに一番驚いたよ」

当主アルバの妻であるヴァレリアの言葉に、イシュドは露骨に顔を歪める。

「母さん、それはもう良いって。もう騎士や従者たちから、視線で同じ様な事を言われ続けたから」

「はは、そうだったか。それはすまないね。けど、あんたはデリカシーってもんがないだろ。だから、学園に入学してもそういう出会いが一切ないと思ってたんだよ」

これまでに何人もの子供産んできた女傑、ヴァレリア。
既にアルバと共に歳は五十を越えているが……見た目的には三十代にしか見えない美貌と今尚……イシュド以上の実力を持つ女戦士。

並みの男であれば思わず後退る眼光を持っているが、子供たち……全員に幸せになって欲しいという思いがある。

人によって幸せの基準は様々ではあるが、家族を持つというのは一つの幸せだと、自分の体験から自身を持って語れる。

「うぐっ…………はぁ~~~。そうですか。つっても、友人? になった切っ掛けは、別に俺がどうこうしたわけじゃないですよ。そっちのデカパイ……ミシェラ・マクセランが俺に喧嘩を売ってきたことが始まりです」

「ちょ、ちょっと待ちなさい!!!!」

レグラ家のシェフたちが作った料理にこれまた衝撃を覚えていると、いきなり自分の話題になり……イシュドの言葉に引っ掛かかり、思わず食事の手を止めた。

「あれはあなたが原因ですわ!!!!」

「ば~~~~~か。ありゃお前が勝手に暴走しただけだろ。俺が会長パイセンと一緒に飯を食ったのは、あの…………忘れた。とりあえずあの輩二人が原因だ。二人の内、一人がガルフに対してバカなことしてなきゃ、そもそも俺が入学初日から戦うことはなかったんだよ」

「そ、それは……」

「んで、会長パイセンはあの輩二人が支払えない代償を支払っただけ。その後、お前が勝手に嫉妬して勝手に暴走して、んであっさり負けたんじゃねぇか」

「………………も、申し訳ありませんでしたわ」

フラベルト学園では、ある意味アンタッチャブルな存在であるクリスティール。

一般生徒が声を掛けてはならない……そんなどこぞのワ〇ソンの様な独自のルールなどはない。
しかし、共に食事を食べる……デートに誘うという行為を行った者は、彼女のファンたちから眼を付けられてもおかしくない。

「はっはっは!!!!! イシュドにそこまで噛みつく子がいるとはな。どうやら、爺さんの代と比べてイシュドの代は活きの良い子が多いみたいだな」

「……そうですね」

この場にいるイシュドが釣れてきたガルフたち……その他に、イシュドの頭にはとある学生が浮かんでいた。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」  待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。 「え……あの、どうし……て?」  あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。  彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。 ーーーーーーーーーーーーー  侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。  吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。  自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。  だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。  婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。 ※基本的にゆるふわ設定です。 ※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます ※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。 ※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。

万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?

Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。 貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。 貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。 ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。 「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」 基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。 さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・ タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。 なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【完結】ふしだらな母親の娘は、私なのでしょうか?

イチモンジ・ルル
恋愛
奪われ続けた少女に届いた未知の熱が、すべてを変える―― 「ふしだら」と汚名を着せられた母。 その罪を背負わされ、虐げられてきた少女ノンナ。幼い頃から政略結婚に縛られ、美貌も才能も奪われ、父の愛すら失った彼女。だが、ある日奪われた魔法の力を取り戻し、信じられる仲間と共に立ち上がる。 歪められた世界で、隠された真実を暴き、奪われた人生を新たな未来に変えていく。 ――これは、過去の呪縛に立ち向かい、愛と希望を掴み、自らの手で未来を切り開く少女の戦いと成長の物語―― 旧タイトル ふしだらと言われた母親の娘は、実は私ではありません 他サイトにも投稿。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

処理中です...