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第74話 ツッコミ所多数

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「入ってきてくれ」

「はい」

その声はクラス中に響き渡る、凛とした美しさを有していた。

(ほぅ……こいつはこいつは)

教室に入って来た留学生に、イシュドも例外ではなく……全員がその凛とした美しさに目を奪われた。

「初めまして。私の名前はイブキ・アカツキ。大陸、大和から来た。この大陸ではまだ不慣れなことが多く、色々と手助けしてくれると助かる」

麗しい黒髪ポニーテール、雰囲気と同じく凛とした目つき。
どれをとっても、鋭い美しさがあるイブキ・アカツキだが……イシュドのパイ・スカウターはそれを見逃していなかった。

(……ちょっと、胸の形が不自然、か?)

イブキのバストは、平均以上であるのは間違いないが、イシュドがデカパイと認めるミシェラやフルーラと比べると二歩足りない。

しかし、胸の形から……イシュドは実家の女性騎士、戦士たちがさらしで胸を小さくしている形と似ていると感じた。

(ひょっとして、あの二人に迫るデカパイなのかもな………………と、いうか。普通に強いな、あいつ)

先にパイ・スカウターが発動してしまって気付くのが遅れたが、高等部一年という縛りの中ではトップクラスの強さを有していることに気付く。

(もしかしなくても、刀を使う……よな? であれば、一撃の威力だけを考えれば……闘気を使えるガルフ以上か?)

色々と面白い留学生の登場に口端を吊り上げるイシュド。
しかし……その興奮は、ほんの序章に過ぎなかった。

「バイロン先生、そろそろ俺も中に入って良いかな」

「えぇ、どうぞ」

(ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)

バイロンに促され、中に入って来た人物に……イシュドは過去一の衝撃を受けた。

「彼はイブキ・アカツキと同じ国からやって来た、臨時教師だ」

「イブキの兄であるシドウ・アカツキっ!!!!!?????」

まだ自己紹介の途中……まだ名前を言い終えたところである。
というか授業中。

だが……イシュドの熱は、シドウの姿を見た瞬間、爆発を止められなかった。

「侍っ!!!!!! 俺と戦ってくれ!!!!!!!!」

「……??????????」

イシュドは熱の爆発を抑えられず、その場から飛び出し……シドウの前に着地。

手には刀と……もう片方の手には、二つの小瓶が握られていた。

「こいつはエリクサーだ。仮にどっちが死にかけても……いや、仮に死んだとしても、体の部位が弾け飛んだりしてなければなんとか出来る!!!!! だから、俺と死合っ!!!!!!!!????????」

頭部に強烈な痛みが走り、うっかりエリクサーが入った小瓶を落しそうになったイシュド。

「~~~~~~~~~~~~っ!!!!!!!!! な、何するんすか先生!!!!!!!」

「それはこっちのセリフだアホ生徒」

「い、今絶対に魔力を纏ってたでしょ!!!!!」

「お前の頭部にタメージを与えるには、魔力を纏わなければ意味がないだろ。強化系のスキルを使わなかっただけ、有難く思え」

臨時教師として赴任してきた先生に対し、いきなり試合……死合いを申し込むなど正気の沙汰ではない。

友人であるガルフですら、イシュドの突然の行動に若干引いていた。

「すまない、シドウ先生」

「い、いえ。その……ちょっと驚きましたけど、学生なんですから元気があって良いんじゃないですか」

元気が有り余っている、どころの話ではない。

ただ……イシュドとしては、生の侍を見るのは今回が初。
刀を使う、刀を扱う職業の人物とは出会ったことはあれど、刀が生まれた国の……正真正銘の侍と出会うのは今回が初めて。

一度はその国の侍と戦ってみたいという思いをずっと持っており、目の前にザ・サムライが現れたとなっては……初っ端からブレーキが壊れてアクセル全開になるのも無理はなかった。

「…………うん、そうですね。俺や妹がどういった戦いをするか知ってもらう為にも、実際に戦ってみるのもありでしょう」

「っ!!! シドウ先生、こいつは……生徒の中でも、かなりぶっ飛んだ生徒です」

「先生~~~、褒めたって何も奢らないっすよ~~~」

「褒めてなどいない」

冷静におバカなイシュドにツッコミながらも、シドウに対して説明を続ける。

「加えて、こいつが申し込んでいるのは、模擬戦ではありません。ましてや、通常の試合でもありません」

「バイロン先生、それは彼の眼を見れば解りますよ。ただ……彼が持っている小瓶。あれが、彼の言葉通りのクスリであることも解ります」

「むっ………………はぁ~~~~~~~~。イシュド、そもそもお前はなんでそんな物を持ってるんだ」

「万が一の為にって感じで買ってたんですよ。いやぁ~~~~、使い道に巡り合えてマジで感謝っす」

マジで感謝っす、ではない。

そもそもエリクサーというポーションの中でも最上位クラスの回復アイテムは、金を出したからといって買えるアイテムではない。

生徒たちはイシュドがいきなり臨時教師に死合いを申し込んだことにドン引いたが、何故エリクサーを持っているのか……そこに関しても同等の衝撃を受けていた。

「……分かった。シドウ先生も了承している。諸々の挨拶を抜きにして、訓練場に移動する」

イシュドを除く生徒は自習を行うか、それとも見学するかという選択肢があったが……当然、彼らに自習という選択肢はなかった。

「~~~~~♬」

「ず、随分とご機嫌だね、イシュド」

「ったり前だろ。マジの侍と戦えるんだぜ!!!!」

「僕は少しだけしか知識がないけど……イシュドにとっては、憧れの存在なのかな」

「憧れ………………まっ、そういう部分は確かにあるな」

前世が日本人であるイシュドにとって、侍は決して無縁の存在ではない。

「だからこそ……これから戦えると思うと、闘争心が燃え滾るってもんだ」

激闘祭の特別試合を観客席から見ていたガルフは、断言出来た。

今のイシュドはあの時とは違い……心の底から笑みを浮かべていると。
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