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第65話 恥を気にせず、ただ前へ
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「貴族の中じゃ、お前やフィリップ、会長先輩とかが珍しい部類だろ」
「……おそらく、そうでしょうね」
自分の意見は一般的ではあるが、物事を深く考えていなかった失言だと認め、ミシェラはそれ以上はガルフの為にどうこうした方が良いのではと言わなかった。
「そういうこった。それに、これから何度も負けることになるってのを考えたら、本当に真正面から仲良くなるってのは無理だろ」
「い、イシュド。あんまり、その……け、喧嘩を売る様な言葉は」
「ん? あぁ……オーケー、オーケー。解ったよ」
さすがにぶっちゃけ過ぎだと思っていると、岩男のような男がイシュドたちの元を訪れた。
「先程ぶりだな、イシュドよ」
「おぉ~~、筋肉パイセン。厳つくて似合ってるっすね」
「……ダスティンで構わない」
「うっす、ダスティンぱい先」
こいつもフィリップに似た様なタイプなのだと思い、それ以上呼び名について言及はしなかった。
「して、面白そうな話を聞いた。俺は最後まで控室に居たから観ることが敵わなかったが、そちらの平民の一年生は、それほど素晴らしい試合をしたのか」
じろりと興味を含む視線を向けられ、ダスティンにそのつもりはないが、びくりと肩を震わせるガルフ。
「一試合目は相手が馬鹿だったから速攻で終わって、二試合目は相手の動きを読んで試合を決めて、三試合目はあのクソ生意気面した……誰だっけ」
「ディムナ。ディムナ・カイスですわ」
「そうそう、そんな名前だったな。ディムナって奴にダブルノックアウトまで持ち込んだんっすよ」
「ほぅ。あのディムナを相手に……」
「因みに、もう知ってるかもしれないっすけど、ガルフはあの試合で闘気を会得しました」
もう周知の事実であるため、イシュドは特に隠すことなく伝えた。
「っ!!!」
だが、その情報はまだダスティンの耳には入っていないかった。
「なるほど……はっはっは!! 確かにお前の言う通り、これで一年生たちの大半はこの一年に、ガルフに勝つのが難しくなったな」
彼はサンバル学園の生徒。
二年生ではあるが、他学園の生徒たちを蹴散らしてトップに君臨した重戦士。
つまり、これからのサンバル学園の未来を担う存在と言える。
そんな存在が……この場に同じサンバル学園の生徒、一年生たちがいるにもかかわらず、士気を下げるような発言をした。
他の二年生や三年生は呆れた顔、憎たらしい顔など、良い顔をしてる者は殆どいなかった。
ただ……対話しているイシュドは、ダスティン・ワビルの事を高く評価し、良い筋肉戦士だと改めて認めた。
「ところでイシュド。来年はどうするのだ?」
「……もしかして、特別試合のことですか?」
「勿論だ」
「ミシェラたちにも話したんですけど、俺が学園に入学した目的の一つみたいなのをあれで達成出来たんで、来年どうしようかとかは全く考えてないっすね」
「そうか、まだ未定か」
再度戦ったとしても、また恥を晒すだけかもしれない。
生徒たちの中には、学年の天辺まで進んだとしても、その恐怖におびえる者がそれなりにいた。
ダスティンも一年……全ての気力、時間を強くなることだけに使ったとしても、必ずイシュドを越えられるとは思っていない。
ただ……また負ける未来が濃厚だったとしても、強者に挑む心は常に持ち続けており、恥を晒す云々といった考えは全くなかった。
「もし、来年も戦えるのであれば、今度は得物を使わせたいものだ」
「……来年も決まって、ダスティンぱい先が上がってくれば、使うかもしれないっすね」
自分に挑むことに関して、全く恐れてはいない。
まさに前に進むことだけしか考えていない。
猪突猛進タイプとは少し違うが、イシュドは自分より歳下の相手にここまで素直になれる人物を気に入った。
「ふふ。仮に来年、お前と戦えずとも、これからも精進することに変わりはない。二連覇を目指してな」
この場に居る全二年生対しての宣戦布告である。
同じサンバル学園の二年生であったとしても、彼らの最終目標も激闘祭のトーナメントで優勝すること。
ダスティンと学園が同じだからと言って、仲間とは言えない。
(うんうん。やっぱり戦闘者たるもの、こういう性格じゃねぇとな)
納得しながら頷いていると、今度は一人の令嬢がイシュドたちに……正確にはミシェラに近づいてきた。
「ミシェラさん、惜しかったですね」
「フルーラ……そんな慰め、必要ありませんわ」
「ですが、観客席で観ていた限り、本当に後一手の差だったかと」
訪れた令嬢の名はミシェラと第二回戦で戦ったニコニコ笑顔が特徴のフルーラ・ストーレ。
「……それでも、負けは負けですわ。正直、フィリップがあそこまで根性を魅せるのは意外でしたが」
「なっはっは!!! 確かにな~~~~。ぶっちゃけ、ありゃ俺自身も驚いてた」
「相変わらずイラつく笑顔ですわね」
「…………あぁ~~~、あれか。水と氷魔法を使ってた令嬢か」
突然の来客に、イシュドは顔と万乳を見ながらフルーラを思い出し……同時にある
光景を思い出した。
「……ぶはっはっは!!!!!」
「っ!!?? い、いきなりなんですのよ」
「い、いや……は、はっはっは!!!! お前が、氷の床に、激突したの……思い出して」
「っ!!!!!!」
勝利まで持っていった流れ、形は称賛を送るべき内容であるのは間違いないが、それでも不完全なエアステップを行い、上手く着地出来ずにアイスフロアに激突した際のミシェラの顔は……思い出すだけでも爆笑が止まらなくなる。
「や、やべぇ。は、腹痛く、なってきた」
「そんなに面白かったのか?」
「な、なんつーか、まさに令嬢にあるまじき顔? って感じだった」
「……ぶふっ!! な、なんでか分かんねぇけどそ、想像出来ちまった」
ノット紳士、二人揃って笑いを堪えるのに必死になるが、すかさずミシェラがフォローを行う。
「それだけミシェラは必死に戦っていた、と捉えられませんか」
「会長先輩、あれっすよ。そ、それはそれ、これはこれってやつっす。だっはっはっは!!!!!」
「……便利な言葉ですね」
勿論、クリスティールはその光景を観たわけではない。
ただ……ミシェラが必死に勝利を捥ぎ取ろうとした。それだけ解るため、再びマグマと煙が噴き出しそうになるミシェラの頭をそっと撫でた。
「……おそらく、そうでしょうね」
自分の意見は一般的ではあるが、物事を深く考えていなかった失言だと認め、ミシェラはそれ以上はガルフの為にどうこうした方が良いのではと言わなかった。
「そういうこった。それに、これから何度も負けることになるってのを考えたら、本当に真正面から仲良くなるってのは無理だろ」
「い、イシュド。あんまり、その……け、喧嘩を売る様な言葉は」
「ん? あぁ……オーケー、オーケー。解ったよ」
さすがにぶっちゃけ過ぎだと思っていると、岩男のような男がイシュドたちの元を訪れた。
「先程ぶりだな、イシュドよ」
「おぉ~~、筋肉パイセン。厳つくて似合ってるっすね」
「……ダスティンで構わない」
「うっす、ダスティンぱい先」
こいつもフィリップに似た様なタイプなのだと思い、それ以上呼び名について言及はしなかった。
「して、面白そうな話を聞いた。俺は最後まで控室に居たから観ることが敵わなかったが、そちらの平民の一年生は、それほど素晴らしい試合をしたのか」
じろりと興味を含む視線を向けられ、ダスティンにそのつもりはないが、びくりと肩を震わせるガルフ。
「一試合目は相手が馬鹿だったから速攻で終わって、二試合目は相手の動きを読んで試合を決めて、三試合目はあのクソ生意気面した……誰だっけ」
「ディムナ。ディムナ・カイスですわ」
「そうそう、そんな名前だったな。ディムナって奴にダブルノックアウトまで持ち込んだんっすよ」
「ほぅ。あのディムナを相手に……」
「因みに、もう知ってるかもしれないっすけど、ガルフはあの試合で闘気を会得しました」
もう周知の事実であるため、イシュドは特に隠すことなく伝えた。
「っ!!!」
だが、その情報はまだダスティンの耳には入っていないかった。
「なるほど……はっはっは!! 確かにお前の言う通り、これで一年生たちの大半はこの一年に、ガルフに勝つのが難しくなったな」
彼はサンバル学園の生徒。
二年生ではあるが、他学園の生徒たちを蹴散らしてトップに君臨した重戦士。
つまり、これからのサンバル学園の未来を担う存在と言える。
そんな存在が……この場に同じサンバル学園の生徒、一年生たちがいるにもかかわらず、士気を下げるような発言をした。
他の二年生や三年生は呆れた顔、憎たらしい顔など、良い顔をしてる者は殆どいなかった。
ただ……対話しているイシュドは、ダスティン・ワビルの事を高く評価し、良い筋肉戦士だと改めて認めた。
「ところでイシュド。来年はどうするのだ?」
「……もしかして、特別試合のことですか?」
「勿論だ」
「ミシェラたちにも話したんですけど、俺が学園に入学した目的の一つみたいなのをあれで達成出来たんで、来年どうしようかとかは全く考えてないっすね」
「そうか、まだ未定か」
再度戦ったとしても、また恥を晒すだけかもしれない。
生徒たちの中には、学年の天辺まで進んだとしても、その恐怖におびえる者がそれなりにいた。
ダスティンも一年……全ての気力、時間を強くなることだけに使ったとしても、必ずイシュドを越えられるとは思っていない。
ただ……また負ける未来が濃厚だったとしても、強者に挑む心は常に持ち続けており、恥を晒す云々といった考えは全くなかった。
「もし、来年も戦えるのであれば、今度は得物を使わせたいものだ」
「……来年も決まって、ダスティンぱい先が上がってくれば、使うかもしれないっすね」
自分に挑むことに関して、全く恐れてはいない。
まさに前に進むことだけしか考えていない。
猪突猛進タイプとは少し違うが、イシュドは自分より歳下の相手にここまで素直になれる人物を気に入った。
「ふふ。仮に来年、お前と戦えずとも、これからも精進することに変わりはない。二連覇を目指してな」
この場に居る全二年生対しての宣戦布告である。
同じサンバル学園の二年生であったとしても、彼らの最終目標も激闘祭のトーナメントで優勝すること。
ダスティンと学園が同じだからと言って、仲間とは言えない。
(うんうん。やっぱり戦闘者たるもの、こういう性格じゃねぇとな)
納得しながら頷いていると、今度は一人の令嬢がイシュドたちに……正確にはミシェラに近づいてきた。
「ミシェラさん、惜しかったですね」
「フルーラ……そんな慰め、必要ありませんわ」
「ですが、観客席で観ていた限り、本当に後一手の差だったかと」
訪れた令嬢の名はミシェラと第二回戦で戦ったニコニコ笑顔が特徴のフルーラ・ストーレ。
「……それでも、負けは負けですわ。正直、フィリップがあそこまで根性を魅せるのは意外でしたが」
「なっはっは!!! 確かにな~~~~。ぶっちゃけ、ありゃ俺自身も驚いてた」
「相変わらずイラつく笑顔ですわね」
「…………あぁ~~~、あれか。水と氷魔法を使ってた令嬢か」
突然の来客に、イシュドは顔と万乳を見ながらフルーラを思い出し……同時にある
光景を思い出した。
「……ぶはっはっは!!!!!」
「っ!!?? い、いきなりなんですのよ」
「い、いや……は、はっはっは!!!! お前が、氷の床に、激突したの……思い出して」
「っ!!!!!!」
勝利まで持っていった流れ、形は称賛を送るべき内容であるのは間違いないが、それでも不完全なエアステップを行い、上手く着地出来ずにアイスフロアに激突した際のミシェラの顔は……思い出すだけでも爆笑が止まらなくなる。
「や、やべぇ。は、腹痛く、なってきた」
「そんなに面白かったのか?」
「な、なんつーか、まさに令嬢にあるまじき顔? って感じだった」
「……ぶふっ!! な、なんでか分かんねぇけどそ、想像出来ちまった」
ノット紳士、二人揃って笑いを堪えるのに必死になるが、すかさずミシェラがフォローを行う。
「それだけミシェラは必死に戦っていた、と捉えられませんか」
「会長先輩、あれっすよ。そ、それはそれ、これはこれってやつっす。だっはっはっは!!!!!」
「……便利な言葉ですね」
勿論、クリスティールはその光景を観たわけではない。
ただ……ミシェラが必死に勝利を捥ぎ取ろうとした。それだけ解るため、再びマグマと煙が噴き出しそうになるミシェラの頭をそっと撫でた。
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