上 下
58 / 251

第58話 理解不能な怪物

しおりを挟む
「……武器を使わないつもりか」

ダスティンはあまりイシュドの事を良く知らない。
ただ者ではないという事は本能的に解るが、どういった武器を使って戦うタイプなのか、そういった詳しい部分までは知らない。

なので、何も得物を持たずに戦おうとするイシュドが、自分たちのことを完全に嘗めているとのだと判断。

「そういうの気にする感じ? 安心してくれって。俺は狂戦士……全身狂気だからな」

構えた。

それだけでイシュドから放たれていた圧に重厚さが増加。

「ッ!!! 噂以上、ということか……では、俺が先陣を切ろう」

そう告げると、ダスティンは口にした通り、真っすぐ駆け出し……正面から自慢の大斧を振り下ろした。

「おぅおぅ、良いんじゃねぇの? その筋肉恥じない、良い一撃だぜ」

「ぐっ!!!!」

スキルの技を使用した一撃ではない。
それでもダスティンは確かに魔力を全身に纏って強化し、腕力強化のスキルも同時に発動して大斧を振り下ろした。

そんな一撃をイシュドは……左腕だけで受け止めた。
衝撃は地面にまで伝わり、振り下ろされた一撃にどれほどの威力があったのか良く解るが……イシュドにダメージらしいダメージは全くなかった。

「フッ!!!」

激闘祭の優勝者三名、全員接近戦が得意なアタッカーではあるが、三人で攻めるとなれば、アタッカーの中でも役割分担を決めなければならない。

タンク、そして強烈な一撃を加えるのがダスティンの役目。
果敢に攻め、イシュドを自由に動かせないのがクリスティールの仕事。

「っと、流石会長。速い、ねっと。ナイス狙いじゃねぇの、フィリップ」

「あっさり避けながら言われても、って感じだな~」

そして魔力を纏った斬撃刃、突きの放出という遠距離攻撃をメインにし、主に嫌がらせをするのがフィリップの役目。

「ぬぅああああッ!!!!」

「ハッ!!!!!」

三人は事前に相談していたのではなく、今この場で自分の役割を把握し、初っ端かっらエンジンをかけて挑む。

「よっ、せいっ!!」

ダスティンの大斧を受け止め、迫る氷結の乱刃を左手の手刀で対応。

「ぃよい、っしょ!!!!!!!」

一瞬だけ短剣を宙に放り、両手が塞がってる? イシュドに向かって全力のスラッシュが放たれた。

「カッッッッッ!!!!!!!!!!」

「っ!!!!???? おいおいよいよい……ま、マジかよ」

気合咆哮。

何かしらのスキルによる技を使ったのではなく、ただ腹の底から全力で一喝を行ったイシュド。

その一喝により、フィリップの放ったスラッシュは霧散。
この光景にダスティンとクリスティールの顔に衝撃が走る。

「油断、厳禁!!!」

掴んだ大斧を引き付け、腹に蹴りを入れて飛ばし、背に向けて放たれた二つの氷刃を……背中に力を入れて弾いた。

(っ!!?? た、体技の一つ……でしょうか)

中国拳法の鉄山靠……とは違うのだが、背中で衝撃を放つ、攻撃するといった点は似ているだろう。

クリスティールとしては粉々に砕かれた氷刃を無視して突っ込み、自身の役割を全うしたいところだったが……あまりにも予想外過ぎる砕かれ方をしたため、一度後方に下がって呼吸を整えた。

「ったく、ちょっと人間越え過ぎじゃないっすかね」

「私も、左手一つで砕かれるのであればまだしも、背中を使って砕かれるとは思っていませんでした」

「あれが……辺境の狂戦士、か」

腹に蹴りを入れられたダスティンは反射的に腹に土を纏わせたことで、内臓がズタボロになることはなかった。

「良いね良いね、三人共元気一杯じゃねぇか。んじゃ……今度は、こっちから攻めさせてもらうぜ!!!!」

「「「ッ!!!!」」」

相変わらず素手のイシュドが地を蹴り、三人に急接近。

攻守が逆転した……と思われるかもしれないが、既に役割が決まっている三人は乱れることなく行動し、まずはダスティンが大斧を利用してイシュドの右ストレートを食らうが……リングサイドギリギリで耐え切った。

(はっはっは!!! 防御力も合格だな!!!!!)

数的に有利……それだけで三人は誰かがイシュドの攻撃を抑えれば、それだけで他の誰かが攻撃に転じられる。

「うぉらっ!!!!!」

「「っ!!!???」」

両サイドから多数の魔力の刃、氷刃が迫る中、イシュドは裏拳で……拳に魔力を纏い、思いっきり宙を叩いた。

「どうしたぁあああっ!!!! まだまだ、んなもんじゃねぇだろ!!!!!!」

吼える怪獣。
それが観客たちから見たイシュドという存在である。

人学年上の優勝者が放つ大斧を軽々と受け止め、迫る氷刃を背中で破壊。
挙句の果てには気合裂帛でスラッシュを霧散させ、裏拳で宙を叩くことで魔力の刃や氷刃を粉砕。

やってることが……普通じゃない。
普通とは思えない、理解不能な存在。

(……ある意味、全力で戦ってるってことか、イシュド)

当然、全力ではない。
イシュドが全力を出して戦っていれば、今頃三人の体はボコボコのズタボロ……死んでいてもおかしくない。

ただフィリップの考えている通り、会う意味全力ではあった。
イシュドは強化系のスキルは使っていない。
先程は拳に魔力を纏ったが、それ以外の場面では体に魔力を纏わず戦っていた。

つまり、イシュドは素の状態の力を惜しまず出し、三人と戦っていた。

(ったく、こっちとしてはそういう状態で戦ってくれるのは嬉しいんだけど、観客たちの中に……どれだけ絶望した奴らがいることやら)

イシュドは相変わらずな様子で戦闘を続けており、イシュドが自分たちとの戦いで強化系のスキル、殆ど魔力を使って戦っていないという事実に全くショックを受けてない。

だがこの事実は、一般の生徒たちには……人生でトップクラスの衝撃を与えていた。

一年生の頂点に取った男の斬撃が気合裂帛だけで破壊され、二年生のトップを掴み取った大男の大斧による攻撃が素手で掴まれ、押し込めない。
三年生の……学生の頂へと上り詰めた麗しき令嬢の苛烈な斬撃を、左手一つで対応してしまう。

完成している学生たちは、一般市民たちと似た様な感想を抱いていた。

あれは、一体何なのだと。
そもそも各学年の優勝者を纏めて相手にする。
これですら、まず理解に苦しむ行為。

そして変則的な試合が始まってから既に一分以上が経過するまで……ずっと笑ったまま。

理解不能な怪物。
それが学生たちのイシュドに対する感想であった。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?

Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。 貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。 貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。 ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。 「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」 基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。 さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・ タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。

愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」  待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。 「え……あの、どうし……て?」  あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。  彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。 ーーーーーーーーーーーーー  侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。  吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。  自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。  だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。  婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。 ※基本的にゆるふわ設定です。 ※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます ※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。 ※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。 なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【完結】ふしだらな母親の娘は、私なのでしょうか?

イチモンジ・ルル
恋愛
奪われ続けた少女に届いた未知の熱が、すべてを変える―― 「ふしだら」と汚名を着せられた母。 その罪を背負わされ、虐げられてきた少女ノンナ。幼い頃から政略結婚に縛られ、美貌も才能も奪われ、父の愛すら失った彼女。だが、ある日奪われた魔法の力を取り戻し、信じられる仲間と共に立ち上がる。 歪められた世界で、隠された真実を暴き、奪われた人生を新たな未来に変えていく。 ――これは、過去の呪縛に立ち向かい、愛と希望を掴み、自らの手で未来を切り開く少女の戦いと成長の物語―― 旧タイトル ふしだらと言われた母親の娘は、実は私ではありません 他サイトにも投稿。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

処理中です...