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第56話 らしくない、勝ち方

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「や、やべぇな……二人共」

「ミシェラさんは解るんだけど、フィリップの奴……こんなに強かったのか?」

「ミシェラ様ぁあああああ、負けないで下さああああああいっ!!!!!」

「フィリップ!! ここまで来たら、公爵家の意地を見せるんだッ!!!!!」

どちらかに偏ることはなく、二人に向けられる会場の声援はおおよそ互角。

その二人は現在……超接近戦を繰り広げていた。

「ッ!? いい加減、負けを認めたら、どうですの!!」

「そっちこそ、そろそろ負けを認めてくれると、俺としては、嬉しいんだけど、なッ!!」

フィリップ、ミシェラはどちらも一歩踏み込んだ斬撃を繰り出すことで、序盤と比べてどちらの攻撃も当たるようになっていた。

まだ決定打と言える攻撃は当たっていないが、それでも二人の体には多数の切傷が刻まれていた。
その数は十を超えて二十……この瞬間にも更に刻まれ、制服はすっかり自身の血で赤く染まっていた。

それでもまだ皮に、肉に留まっているからこそ、両者の身体能力が激的に落ちることはなく、拮抗が保たれていた。

(体力では、負けないと言いたいところだけど、相手がこのおっぱいが相手だ……そうも、言ってられねぇ、か)

フィリップは短剣からスキル技、刺突を放ち……続いてもう片方の剣から剣技、スラッシュを放つ。

どちらも通常の突き、斬撃刃よりも威力は高まっており、スキルレベル一の技だからといって、油断は出来ない。

「ぐっ!!??」

刺突を交わすことに成功するが、スラッシュは双剣でガード。
威力を和らげるために後方に跳ぶ。

(チャン、すっ!!!???)

ほんの少しでも宙に浮いた。
千載一遇のチャンスだと思い、魔力を多く纏った斬撃刃を連続でぶっ放そうと考え付いた瞬間、パンチラを気にすることなくミシェラが体を後方に回転させながら、脚で風の斬撃刃を放ち、フィリップの行動を制限させた。

「……さすがに、当たりはしなかったようですわね」

「いやはや、恐れ入ったぜ? まさかお前がパンチラを気にせず大胆な攻撃を仕掛けてくるとはな」

「あなたに勝つなら、そういった攻撃もやむなし、ですわ」

(…………クソやり辛くなったもんだ。普段からちょいちょいイシュドの奴にボロクソに言われてるからか、メンタルが鍛えられたか)

トラッシュトークで少しでもミシェラの心を搔き乱せたらと考えていたフィリップだったが、もう完全に意味をなさないと把握。

(解っちゃぁ~、いたけど。こっからは……泥臭い戦い、か)

泥臭い、根性、気合。
今の自分には全くもって似合わない言葉だと思っていたフィリップ。

だが……不思議と、その感情……謎原理に頼る今のこの状況に嫌気はなかった。

「ふぅ…………つってもあれだな。ミシェラ、面倒だからさっさとぶっ倒れてくれ」

「それは、こちらのセリフですわ!!!!」

最終ラウンドへ突入。
既に第二準決勝が始まってから五分以上が経過している。

互いに接近戦を得意とする者同士の戦いにしては珍しい長試合。

これから、まだまだ熱く観てるだけで心の奥が燃え滾る戦いが続く。
そう思っていた観客たちだったが……最終ラウンドが始まってから数十妙、一気に試合が動いた。

「っ!!?? チッ!!!!!!」

短剣と剣のスイッチ。
その瞬間を完全に狩られた結果……短剣と剣、両方とも双剣によって弾き飛ばされてしまった。

(マジかよ! けど、これだけ大振りな動き、な、ら……ッ!!!!!!!!)

双剣によってフィリップの得物を全て弾き飛ばしたミシェラはここが勝負どころだと判断し……構え直すことなくそのまま体を動かし、右足で蹴りを腹に叩きこんだ。

再びパンチラしてしまうことなど一切気にせず……この一撃で仕留める。
その意志を込めて、全力の蹴りを叩き込んだ。

「っ!!??」

「ほん、と……俺、らしくねぇ、なッ!!!!!!!!!」

ヤマ勘だった。

武器を弾かれた。
だが、ミシェラも連撃行うには体勢が悪い。
そこから攻撃を与えられるのは蹴り……しかし、その蹴りがどこに飛んでくるか分からない。

この試合を終わらせるつもりで放とうと一歩踏み込めば、体の中心線……顔、喉、胸、腹、金的……どこでも狙う事が出来る。

そこでフィリップはあの令嬢パンチラに抵抗をなくしたとしても、自ら金的を蹴ることはないだろうと思い、残り四つの内……腹に攻撃が叩き込まれる勘を張った。

「しっかり、守れよ!!!!!!!」

口から血を零しながらもがっちりとミシェラの脚を掴み、後方へぶん投げる体勢へと入る。

脚により強い旋風を纏わせ、捻って離脱……という手段を取る前に視界が高速移動。

双剣を手放し、両手を後頭部に回して魔力も集中させて衝撃に備える。

「ッ!!!!!!!???????」

体験したことがない衝撃。
そうとしか言えないダメージが主に上半身に響き渡る。

「これで……俺の勝ち、で良いよな?」

「…………本当に、あなたらしくない勝ち方ですわね」

フィリップはミシェラを地面に叩きつけた瞬間、宙で手放された双剣の方振りを奪い、倒れかかる…………場合によっては、そういったシーンに見える様な体勢になりながら、ミシェラの頭の直ぐ隣に刃を突き立てた。

「私の、負けですわ」

「そこまで!!!!!! 勝者、フィリップ・ゲオルギウス!!!!!!!!!」

もう何度目になるか分からない地震が起きた。

友の称賛、伝えられる何百の拍手。
しかし……今のフィリップは、それらの感動の余韻に浸れる余裕はなかった。

(できれば上級生には長く戦って欲しいもんだけど……さてはて、どうなるだろうな)

激闘祭では試合で負った怪我は即治癒してもらえ、魔力もポーションを飲んで回復することが可能。
だが、体力の回復までは禁止されていた。

フィリップの頭に、一瞬だけ棄権という選択が浮かんだが……その選択を取れるわけがないと思い、首を振ってかき消す。



「……まっ、そういうことだよな」

「そうだね。それにしても、本当に以外だったよ。フィリップ」

「そっちは順当っちゃ順当、なのか」

激闘祭、一年生の戦い……決勝戦。

ぶつかり合う生徒はどちらもフラベルト学園の生徒。
先程ミシェラとの激闘を制したフィリップ。

そしてもう一人、ここまで勝ち上がってきた強者は……王族の五男、アドレアス。

「つっても、あれだな。特に喋ることはねぇ……ここまで来たら、あとは突っ走るだけだ」

「っ……君が、そんな視線を私に向けて構えてくれる。それだけでも、彼が学園に来てくれた価値があるというものだね」

実際問題、それは王族に向けて良い類の気迫ではなかった。

だが、アドレアスからすればそんな些細なこと、どうでも良かった。
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