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第54話 結果と実力は別

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フィリップは第三試合が始まった直後、相手の様子を見る……ことなくいきなり対戦相手との距離を詰めた。

幼い頃はともかく、思春期に入ってからは完全に熱意が消えていたフィリップが激闘祭に参加していること自体に驚きを隠せないのに、試合開始直後から果敢に攻めてくるなど、少しでもフィリップの事を知っている人物からすれば、非常に考えられない行動内容。

短剣と五体を使い果敢に攻める……寧ろ攻め急いでいる?

そんな雰囲気を醸し出し、ところどころに見える隙に対戦相手を飛びつかせ、試合が始まって一分経たずに心臓に剣先を添えて決着。

「なっ!!!???」

「そこまで!!! 勝者、フィリップ・ゲルギオス!!!!」

「まっ……~~~~~~~~~~~ッ!!!!!!」

やり直させろ、とは言えなかった。

どう考えても……どう振り返っても、負けは負け。
剣先が心臓に添えられ、二次職がファランクス……槍を扱うのがメインである男子生徒は完全にクロスレンジの内側に入られた状態。

殆ど攻撃を食らっていない。
体力と魔力もまだまだこれからという状態であるにもかかわらず、敗北という結果を突き付けられたことに……到底納得出来ない。

納得は出来ないが、それでもここまで勝ち上がってきた生徒だけあり、結果を飲み込めることはできた。


「あら、お早いお帰りですわね」

「偶々だ」

変わらず飄々とした態度で答えるフィリップ。

(偶々、ですか)

嘘を言っている様には思えない。

ただ、上手く嘘を付いている可能性もある。
本心を相手に覚られないように生きる。

貴族社会で生き抜くために必要なスキルだが……ミシェラがこれまで出会って来た同性代の中で、フィリップはダントツでそれが上手い。

偶に実はこいつ自分より歳上なのではと思ったり思わなかったり。

「相手の圧力にビビッて、勝負を焦りましたの?」

「強かったのは間違いねぇな」

嘘ではない。

フィリップは今回、まともに戦おうとはしなかった。
二次職がファランクスの男子学生は、流石第三試合まで上がってきただけの事はある、と思われる実力が本来はあった。

しかし、この第一試合と第二試合を終え……二年生と三年生の試合を挟んだ状態とはいえ、全く疲労がないとは言えない。
そして第三試合が終わったとしても、その後に準決勝、決勝が残っている。

この後の試合を想定しているのであれば、試合を早く終わらせて体力と魔力を温存させたい気持ちは良く解る。
加えてフィリップは普段からだらしない雰囲気、恰好を隠そうとしないダル男だが、それでも公爵家の令息。

ここで焦りが前に出たのだと……判断してしまい、実力の半分も出すことなく敗北。

「お前がこれから戦う奴も、それなりに強いんじゃねぇの」

「でしょうね。」

激闘祭に参加出来る。
それだけで同学年の中でも強者に部類される存在であることに変わりはない。

そんな強者たちの中でも、第一試合と第二試合……同じ強者を二人も倒してきた。
特に深く考えずとも、強いことは解っている。

だが、ミシェラもこれまでの学生生活で、何度も同じ強者を倒してきた逸材。
今更同じ強者との戦いで怖気づくことなど……あり得なかった。

「首を洗って待ってなさい」

「毎日風呂には入ってるから安心しろって」

相変わらず減らず口を……と思いながらも、ミシェラの表情には不機嫌の色は一切無く、案内人の指示通りにリングへと向かった。

(準決はミシェラで決定だろうな……あぁ~~~、ダルいダリぃ、面倒、めんどくせぇ~~~~)

対して、ミシェラが待機室から出た後、フィリップは自分の感情を全く隠そうとしなかった。

「貴族の令息としては、あまり相応しくない表情ですよ、フィリップ」

「それ、物凄い今更な話だと思いません、生徒会長先輩」

待機室も随分と寂しくなり、既に十人もいない。

ただ、そんな中でもフラベルト学園の学園長であるクリスティール・アルバレシアは当然の様に生き残っていた。

「……そうかもしれませんね。それにしても、あなたがここまで価値残るとは……正直言って、意外でした」

「それ、自分でも思ってますよ」

もっと正直なところ、クリスティールは第三試合でフィリップは適当に試合を操作して負けるのかと思っていた。

「あなたが怠けている時を知ってる私としては、嬉しい成長ぶりです」

(おいおい止めろ。止めろ止めろ止めてくれぇ~~~~~。そんな微笑を俺に向ないでくださいよ~~。ほらほら、待機室にはまだ生き残ってる男子生徒がいるんすよ)

数は減ったが、それでもまだ待機室にはフィリップ以外の男子生徒がいる。

クリスティールは無意識にラブに近い雰囲気をフィリップに向けている訳ではないが、やんちゃな弟の成長を喜ぶ姉の様な微笑は……男子生徒に関わらず、女性生徒であってもその微笑を自分に向け、褒めてほしかった。

その微笑が今……フィリップという決して優等生ではない生徒に向けられている。
嫉妬の視線が彼に向けられるのは必然だった。

「面白いダチができた。それだけですよ」

「……私には、出来ないことですね」

「そりゃ避けてたんで、出来る出来ないの以前の話じゃないっすか」

「かもしれませんね……ところで、次の準決勝。フィリップは、本気で戦うのですか?」

言葉そのままの意味である。

準決勝……つまり、参加するだけでベストフォーが確定する。
公爵家の人間が激闘祭に参加した場合……最低ラインは突破した形となる。

熱くなり過ぎることがないフィリップからすれば、十分なライン。

フラベルト学園の生徒会長としては最後まで全力で戦い尽くしてほしいところだが、フィリップは他人からそうした方が良いと伝えたところで、簡単に了承してくれる相手ではない。

「……さぁ、どうっすかね。あんまりガチでやるのも面倒っすけど、ガチでやらなかったからって理由で、卒業までずっとグチグチ言われ続けるのも、それはそれで面倒っすからねぇ~~~」

「ミシェラはそういうところを気にしますからね……手を抜けば、これから先ずっと根に持たれるかもしれませんね」

「…………気が休まらねぇ日々になりそうっすね」

フィリップは模擬戦でミシェラに勝つことは全く珍しくなく、寧ろトータルではややフィリップの方が勝率が勝っている。

(まぁ、元より今回はつまねぇ戦いをする気はねぇし……後でグチグチ言われることはねぇだろ)

「フィリップ、次はあなたで、す……ち、近いですわ!!!! クリスティールお姉様から離れなさい!!!!!」

試合を終え、勝利を捥ぎ取って待機室に帰還した第一声がそれであった。

(……チっ!! やっぱクソうぜぇ。あれこれ関係無しにぶっ潰すか)

心の中で舌打ちしたフィリップだったが……ウザいという感情が抑えきれず、無意識に思いっきり舌打ちしてしまい、再度ミシェラの怒りが爆発してしまった。
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