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第53話 断言は出来ないだろ

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(ぶった斬るッ!!!!!!!!!)

溢れんばかりの闘気を纏うガルフ。
ただ、ロングソードに纏われる闘気だけに関しては、非常に綺麗に纏われていた。

「ウォォオオオオオオオァアアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!!!!」

「セェェエエエエエエエァアアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!!!!」

無意識に……ここで全てを出し切る体勢に入ったディムナは全身に眩い光を纏い、まさに光矢の状態なとなって駆け出し、井の中の蛙である平民を貫く。

放たれるは細剣技、スキルレベル四……螺旋突き。

対して、同じく気合一閃と咆哮を上げながら駆けるガルフは……ただただ勝利を奪い取るために渾身の一撃を振り下ろす。

振り下ろすは剣技、スキルレベル四……剛刃瞬閃。

両者、全てを振り絞った渾身の一撃がぶつかり合った。
その結果…………拮抗することはなく、両者ともに弾き飛ばされた。

「「っ!? っは!!!!!!」」

ディムナはやや下の方に、ガルフは上の方に飛ばされながら壁に激突。
二人とも背中から激突した瞬間に吐血し、落下。

「一……二」

当然、カウントが始まる。

「げほっ! ごほ!! ごほっ!!!」

「っ……ッ!!!???」

何度も吐血するガルフに対し、ディムナは意地でも立ち上がってリングに戻ろうとするが、膝が揺れて思うように立ち上がれない。

(なんだ、これは…………ふ、ふざけるな!!!!!!!)

無意識のうちに行ってしまった魔力の解放。
それによってまだ魔力の残量に余裕があったディムナだったが、気付いたらすっからかん状態。

魔力切れによる倦怠感も同時に襲ってきたため、物理的大ダメージとのダブルパンチ。

あそこで全魔力を解放していなければ、吹っ飛んでいたのはディムナだけだったが……本人が思っている以上に消費しており、どれだけ力を入れても上手く立ち上がれない。

「三……四」

そしてどちらに対しても、平等にカウントは進んでいく。

(あ、あれ……ろ、ロングソードが、ない)

手元から得物がなくなっていた事に気付くガルフ。
どこかに転がっているのではなく、ガルフがいきなり纏った闘気……正確には本人が無意識に使用していた応用技に耐え切れなかった。

ディムナの強大な光を纏った螺旋突きとぶつかった影響もあるが、どちらにしろ寿命が来てしまったのは間違いない。

(……まだ、あるだろ。鍛えた、この体が、あるじゃないか!!!!!!)

因みに得物に関しては、ディムナの学生が扱う中では最高クラスの細剣も刀身が完全に砕けており、互いに得物が破壊された状態となっていた。

(あってはならない……こんな事、あってはならない!!!!!!!)

理由は、平民からすればどう見てもふざけんなと怒鳴り散らかしたい内容だが、それでも立ち上がろうとする根性に嘘はない。

これからまともに戦えるのか怪しい……というより、無理だろ断言されるであろう状態。

「ディムナ様ーーーーーー!!! 負けないでええええええええ!!!!!」

「リングに、リングに立ちさえすれば勝ちですわ!!!!!!!!!」

彼の同級生、ファンたちも懸命に応援するが、ディムナ本人は全くそれらに興味がなく、絶対にリングに上がって平民に蹴りを入れて完全な勝利を奪う。
それだけしか考えていなかった。

「ガルフぅううううううううう!!!!! 根性だ!!!! 気合いだッ!!!!! チャンスはまだあるぞぉおおおおおおおおおッ!!!!!!!!」

そんな変わらず周りの声など一切気にせず、己の意を通す為に立ち上がろうとするディムナに対し……耳に入ってくる友人の声、最初からイシュドと共に自分を応援し続けてくれていた人たちの声に、立ち上がる力を貰っていると感じていた。

その証拠に、ようやく膝が地面から離れ、立つことが出来た。

「五……六」

カウントが半分を切った。

ガルフだけではなくディムナもほぼ同時に立ち上がり、慎重に……慎重に歩を進める。
全力で駆け出し、リングに跳び上がりたいところだが、体がそれは無理だと断言しており、本人達もそんな無理をすれば再び地面に膝を付いてしまうと解っていた。

「七……八」

刻々とリミットが近づく。
まだ両者共に膝を付いておらず、本当に一歩ずつではあるがリングとの距離を縮め、手を伸ばしている。

そんな彼らの背を押す声援は更に高まり、今日一番の揺れが起きる。

(後少し……後、少し!!!!!)

(上がる、上がる。上がって……蹴り倒す!!!!!)

「「ッ!!??」」

両者の手がリングに届こうとした瞬間、二人とも同時に膝から崩れ落ちた。

「九……十。ガルフ、ディムナ・カイス。共にリング外ダウン。よって、勝者はなし!!!!!!」

まさかのダブルノックアウト。

よりリングに近い方が……といった基本使われることのないルールなどはなく、十カウント以内にリングに戻れなければ、問答無用で敗北確定。

この状況に、最後の最後まで声援を送っていた者たちはどうな反応したら良いか分からず戸惑っていると……一人の男が真っ先に拍手を送った。

その男はこの状況に全く動揺していなかった人物、イシュド・レグラだった。

(良く……良く戦った。最高だったぞ、ガルフ。それに……あのどう見てもクソったれな考えを持ってそうな対戦相手も、最後の根性、気合は悪くなかった)

最後まで戦った友にだけではなく、結果としてその友を新たなステージに押し上げる切っ掛けとなってくれた対戦相手にも勝算を送った。

そんな意味が込められた拍手は直ぐに波紋の様に広がり、会場中を包み込んだ。


「……帰ってこなかったな、ガルフの奴」

「あの男、ディムナ・カイスが順当に勝ち進んでいれば、こうなっても不思議ではありませんわ」

ガルフであっても、ディムナと激突したら寧ろ負ける可能性の方が高い。
待機室で友人? が戻ってこなかったことに対し、冷静に事実を口にするが……それでも顔には小さな悲しさが浮かんでいた。

「そいつは否定出来ねぇけど……ダブルノックアウト、共倒れって可能性もあるだろ」

「もうここ何年……いえ、十年以上記録に残っていない結果ですわ」

「そうなんか? けどよ、あり得ないって言いたくなる存在が、俺らの前に現れただろ」

「……だから、その可能性が起こるのはあり得ないと断言は出来ない。そう言いたいのですの?」

「そういうこった。まっ…………最後まで諦めずに前に進めてたんなら、どんな結果であろうと実質ガルフの勝ちだと思うけどな」

会場の揺れを感じたフィリップは珍しく……へらへらとした、だらしなくない笑みを浮かべながら立ち上がった。
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