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第38話 それだけには敬意を持つ

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「ようやく私の番が回ってきましたわね」

「待機室からだけど、応援してます。ミシェラさん」

「泥仕合はすんじゃね~ぞ」

「……ありがとうですわ、ガルフ。フィリップ、言われなくとも解っていますわ」

ミシェラは元々交友関係が広かったこともあり、待機室に居る顔見知りたちから応援の言葉をたくさんもらった。

「…………」

「…………では、勝利を持ち帰ってきます」

姉の様に慕う人物、クリスティールから応援の言葉はなかった。

ただ、それは言葉に出していなかっただけ。
クリスティールはその眼であなたの勝利を確信していると伝え、ミシェラはその期待に全身全霊で応えると返した。

(ガルフも、フィリップも勝利を持ち帰って来た……ここで、私がこけるわけにはいきませんわ!!!)

決勝、準決勝などで負けるのであればともかく…………そもそも全員蹴散らして優勝するつもりではあるが、仮に初戦で負けるようなことがあれば……間違いなくイシュドとフィリップは慰めるどころか爆笑する。

(…………絶対に負けられませんわ!!!!!)

初戦で負ければ、少なからずロベルト学園の評価を……実家の評価を落すことに繋がる。
応援してくれているクリスティールの期待を裏切ってしまう。

だが……だが、それよりも今のミシェラにとって一番の屈辱は……あの二人に爆笑されること。

「あら、お久しぶりですね、ミシェラさん」

「そうですわね、エステルさん」

ミシェラの初戦の相手はエルフェラス学園の女子生徒、エステル・トレイシー。

髪は金髪にポニーテールであり、目つきなどもミシェルと似た……ザ・高貴なお嬢様系見た目をしている。
イシュドが見れば「ミシェラの胸がないバージョンか」と、超デリカシーがない感想をうっかり零してしまう見た目。

「最近、どうやら蛮族とお友達になったようですね?」

(……このやり取り、何度目でしょうか)

ミシェラは自身を負かした相手、イシュドと共に行動し、平日……休みの日なども含め、訓練に費やすことが殆ど。

あまり関りが無かった令嬢から……それほどまでにマウントを取りたいのか、無意味に絡まれることが学園内でも数回ほどあった。

ミシェラとしては少しでも強くなるために、憧れの存在に近づくために選んだ道。
特に後悔など無く……イシュドは気が向けば堂々と……ちょっとボロカスに欠点を指摘してくれることもあり、目標に対しては着実に近づけているという実感があった。

「もう、その手の挑発は結構ですわ。ただ……あの男は私よりも強かった。だからこそ、いつか越える為に険しい道へ進んだ。それだけですわ」

「ふん……淑女としてのプライドは捨てたということですね」

そんなつもりはない、と言いたいところではあるが、学園の外に出てとある森で実戦訓練を行ってる時など……偶に疲労が溜まった影響でどうでも良いバカな話に付き合うことがある。

(……今より強くなる為ですわ)

決して淑女として、令嬢としてのプライドを捨てたわけではない。
そう自分に言い聞かせながら得物へ手を伸ばす。

「死に関わる攻撃は極力避けるように。いいな」

「えぇ、勿論」

「了承していますわ」

「なら良い。それでは……始め!!!!!」

一次職が剣士、二次職が双剣士であるミシェラに対して、初戦の相手であるエステル・トレイシーの一次職は見習い魔法使い、二次職は魔術師。

魔法使いとしてオーソドックスなルートを辿っているエステル。
その実力はフェルノやジェスタと同じく、激闘祭に参加するには十分な戦闘力を有している。

ただ……今回の戦いは接近職と接近職、遠距離職と遠距離職の戦いではなく、接近職と遠距離職の戦い。
普通に考えれば肉体の強さで勝るミシェラが有利ではあるが……その理屈を踏まえた上で、エステルはこの激闘祭の舞台に立っている。

つまり、それが答えである。

「どうしたの? あなたの武器はその双剣でしょ。来なさいよ」

「あら、エステルさんこそ。まだこの距離があるのに攻めようとしないのですか?」

それはそうと……ミシェラはエステルに対して少々苛立ちを感じていた。

あなたは蛮族と友人となったのか…………それはミシェラを下に見てるだけではなく、確実にイシュドという人間も見下している。

確かに、イシュドという男は本当に辺境伯出身の貴族なのかと疑問を持ちたくなる程、貴族としての品格がない。
デリカシーがなく、ミシェラから見れば人を思いやる心もやや欠けている。

どういつもこいつもイシュドを野蛮な蛮族、乱暴者、生きてるだけで貴族の恥。
そういった感じであれこれ言いたくなるのは……解らなくもない。

しかし、実際に本気で戦って敗れたミシェラだからこそ……彼の強さが身に染みて解っている。
他の部分が残念、クソったれで罵倒したくなるような内容であったとしても、彼は……イシュド・レグラといった青年は、強さに関しては自分が……自分たちが及ばない領域に辿り着いている。

強さ…………その一点に限り、イシュドという青年に対して敬意を持たなければならない。

そんな……知人か友人と呼ぶか迷う存在を、顔見知りの令嬢は馬鹿にした。
それがミシェラの怒りに触れた。

「良いですわ……恨まないでくださいね!!!!!」

喉から出かけた「死んでも」という言葉をギリギリで飲み込み、エステルは三つの火球を即座に展開し、発射。

それらをミシェラは冷静に対応し、無傷で……済みはしたが、それだけで攻撃が止まる訳がない。

(以前、手合わせした時より魔法の発動が僅かにではありますが、早くなっていますわね)

接近職の方が、近づいてしまえばあっという間に遠距離職を圧倒出来る。
それは、確かに一理ある考えかもしれない。

しかし、それは遠距離職の人間を相手に……近づけたらの話。

「ほらほら、どうしました? 逃げてばかりでは、勝利は掴めませんよ!!!!」

火だけではなく土属性の攻撃魔法も混ぜ、火の玉……石の弾丸、火槍、石刃が多数飛んでくる。

(……やはり、それなりの腕でですわね………………はぁ~~~~~。本当に、あの男は何なのでしょうね。蛮族ではなく、変質者……は、違いますわね。ある意味変態、というべきでしょうか)

次々正確に自分の体に狙いを定めて飛来する攻撃にそれなりの称賛は送るが、それでも……知人か友人なのか決めかねる同級生の男の攻撃に比べれば、些か迫力に欠けた。
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