上 下
20 / 251

第20話 筋肉スタンプ

しおりを挟む
(旋風を纏いながらスキル技を発動出来てるってのを考えると、普通に考えればそれなりにやれるレベルなんだろうけど……あれだな、今後に期待だな)

これ以上は戦う意味がない。
そう判断したイシュドは今回の戦闘でようやく前に出た。

「がっ!!??」

斬撃の嵐をあっさりと掻い潜り、掌底を腹に叩きこむ。
後方に吹き飛ばされるほどの吹っ飛ばし力はなく、ふわっと飛ぶ程度……とは侮れない。

逆に大きく吹っ飛ばない程度に威力をとどめた事で、体に深く鈍くダメージが残る。

(い、いきなり速く……何か、スキルを使った?)

残念ながら、イシュドはスキルを一切使用していない。

ただギアを上げて斬撃を躱しながら前に進み、攻撃を叩きこんだ……ただそれだけ。
何か特別な事をしたわけではなく、普通に攻撃しただけである。

「はぁ、はぁ……」

「なんだよ、諦めねぇのかよ」

「当たり前、ですわ。この程度諦めて、たまりますか!!!!!!」

必死……から鬼気迫る表情へと変わる。

彼女の友人二人も、ミシェラのその様な表情は見たことがない……だからこそ、更に声を張り上げて応援を続ける。

しかし、現実は非常。
既に双剣の軌道を見極め始めたイシュドは難無くカウンターを叩きこむ。

「っ!!!!???? ッ、はぁああああああああッ!!!!」

「はぁ~~~、さっさと諦めてくれよぉ」

腹の少し上に蹴りが叩きこまれてもギリギリのところで踏ん張り、再び前に出て双剣を振るう。

(そういう趣味はないから、さっさと諦めてくれねぇかな~)

美女を虐めることに性的興奮を覚える者は確かに存在するが、イシュドに抱くことに興味はあってもそういうプレイには興味がない。

「ぐっ!!?? はぁ、はぁ、はぁ……どう、しましたの? これで終わりかしら」

「何が策があるならまだしも、そういうのないだろ。だったらその強がりもダサいだけだから、止めとけ」

根性は嫌いじゃない。
実際に最後まで諦めずに闘志を燃やしたからこそ勝てた実戦はある。

だが……いざ目の前で意地でも倒れないといった姿勢を取られると、現在の状況もあって非常にめんどくさい。

(……強制的に終わらせるか)

勝負には負けたくないが、対戦相手を虐める趣味はない。
そうと決めたイシュドの行動は今回の試合で始めてファイティングポーズを取った。

その行動に何を勘違いしたのか、ミシェラの闘志は更に高まる。

「よっ、と」

「っ、へ……っ!?」

ミシェラが双剣を振るう前にイシュドのジャブが放たれた。

ファイティングポーズから最も予想出来る攻撃ではあったものの、放たれたジャブは見る者によっては……芸術的な一閃だった。

「そこまで!!!!!」

顎の先端を揺らされたミシェラの視界は大きく揺れ、いつの間にか目の前に地面が攻めり、体に触れる。
次の瞬間には強烈なスタンプが頭の前に叩きこまれた。

「ま、待って、ください!! 私は、まだ!!!!」

「お前、それを見てもまだ戦えるって言えんのか?」

「それ、って……っ!!!!????」

最後のダメ押しとして放たれたスタンプはミシェラに触れていない。
しかし……倒れた際に頭があった場所の少し先に……くっきりとした靴跡があった。

「俺はお前を殺そうと思えば殺せたんだよ。これでもう解っただろ、どれだけ足掻いてももう勝てないって」

最後のスタンプがもし自身の頭に叩きつけられていたら、というイメージは容易に想像出来てしまう。

「先生、俺の勝ちってことで良いっすよね」

「あぁ、勿論だ。最後の踏みは少し焦ったがな」

「安心してくださいよ。別にこいつのことは殺したいほど憎いとかじゃないんで」

やる事が終わり、観戦していたガルフの元へ戻ろうとしたところで、何かを思い出し、敗北と恐怖に崩れ、震えているミシェラの元へ向かう。

「? ……ぁ」

「んじゃ、これは約束通り貰ってくぞ」

イシュドは一切遠慮せず約束していた指輪を抜き取り、持ち去っていった。

(お姉様との、思い出が……)

泣いてはダメだと……あの背中を追いかける者として、ここで泣き崩れている様では駄目だと、頭では解っていた。
それでも……どれだけ気丈に振舞おうと、立ち上がろうとしても、その涙は止められなかった。


「お待たせ」

「あ、うん。こ、今回も圧倒的だったね」

「学生の中では強いんだろうけど、うちの実家に所属している奴らと比べたらな……まっ、それなりに根性はあるみたいだし、一応強くはなれるんじゃないか?」

「…………」

「どうしたんですか、バイロン先生。そんな変な顔して」

「……お前はあれだな。容赦がないな」

試合を行うまでの流れで、イシュドが悪い部分は……一応ない。
加えて、試合の中では特に反則行為など行っていないため、非難される筋合いは一ミリもない。

「えぇ~~~、バイロン先生が優しすぎるだけじゃないですか? つか、顔を狙ってないだけまだ優しいと思うですけど」

「それもそうか……しかし、また明日から大量に申し込まれるだろうな」

「えっ、マジっすか?」

将来的には遊び相手になると思える素材であった。
本日の授業に戦闘訓練があったため、クラスメイトであればその実力の一端を間近で見ている。

そして今日の試合……内部進学生のエリートが倒されたとなれば、凡がいくら挑んだところで無意味だと悟るには十分。

「彼女を想う男子生徒は多いと聞く」

「……まさか、あいつに良いところを見せたいとか、そんな理由で俺に挑むつもりなんすか?」

「友人曰く、男が男を見せる理由としては十分らしいぞ」

「あぁ~~~………………一応、解らなくはないっすね」

今世では強さに対して学ぶことに時間を費やしていたため、これまで色恋に時間を使うことはなかったものの、前世では解らなくもない体験をしたことがあった。

(別に試合をするのは良いんだけど、そいつらは俺が満足する物を、対価を用意出来るのか? 死ぬ寸前まで追い詰められる恐怖に耐えられるなら別に用意しなくても良いけど……)

イシュドは自身に怒りをぶつける者たちに対し……とても冷めた視線を向けていた。

「……バイロン先生、ちょっとお願いしたい事があるんすけど、良いっすか」

小さな声で聞かされた提案を、バイロンは即座に了承。

後日……三十を超える男子生徒がイシュド一人に挑む、超変則的な試合が行われることとなった。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?

Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。 貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。 貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。 ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。 「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」 基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。 さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・ タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【完結】ふしだらな母親の娘は、私なのでしょうか?

イチモンジ・ルル
恋愛
奪われ続けた少女に届いた未知の熱が、すべてを変える―― 「ふしだら」と汚名を着せられた母。 その罪を背負わされ、虐げられてきた少女ノンナ。幼い頃から政略結婚に縛られ、美貌も才能も奪われ、父の愛すら失った彼女。だが、ある日奪われた魔法の力を取り戻し、信じられる仲間と共に立ち上がる。 歪められた世界で、隠された真実を暴き、奪われた人生を新たな未来に変えていく。 ――これは、過去の呪縛に立ち向かい、愛と希望を掴み、自らの手で未来を切り開く少女の戦いと成長の物語―― 旧タイトル ふしだらと言われた母親の娘は、実は私ではありません 他サイトにも投稿。

愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」  待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。 「え……あの、どうし……て?」  あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。  彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。 ーーーーーーーーーーーーー  侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。  吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。  自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。  だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。  婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。 ※基本的にゆるふわ設定です。 ※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます ※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。 ※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。 なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。

処理中です...