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第14話 逃げられない地獄

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「ゴミ蛮族、遺書は用意したか?」

「学園内での試合では、基本的に意図して殺そうとする攻撃はアウトだったと思うんだけどな~」

「蛮族が一人や二人死のうと関係無いに決まってるだろ」

(無茶苦茶言うな~~~。これぞザ・お坊ちゃんだな。こういう連中に比べれば、お父さんの秘書になってちょっと調子に乗っちゃったお坊ちゃんなんて可愛いもんか)

自分の言葉が、行動が本当に正しいと思っている。
その正しい事の為ならば、人を殺すことさえ躊躇わない。

まさに甘やかされ過ぎて育ったザ・坊ちゃんと言える思考。

「過激だね~。まっ、その方が潰し甲斐があるから良いんだけどさ」

「ふん! 強がりだけは一人前という訳だな」

「俺からすれば、そりゃこっちのセリフって感じなんだけどな~~……ねぇ、審判役の先生。こっちのお坊ちゃん二人は完全に俺を殺る気満々みたいだからさ、俺もこいつらを殺さない程度には楽しんでも良いっすよね」

「……こっちとしては、そういう過激すぎる試合はしてほしくないんだが……両者とも好きにしろ」

審判から許可が下りたこともあり、口撃合戦は終了。

三人とも開始線に移り、構える。
もう試合が始まる……その雰囲気を察した観客の学生たちは非常に……いや、ある意味盛り上がっていた。

一人で戦う側の生徒があのレグラ家の人間であり……試験で一位を取った人物。
これまで貴族界で生き抜き、内部進学生として苛烈な競争を耐え抜いてきた学生たち……内部進学生たちに負けないよう、こちらはこちらで厳しい訓練や座学を乗り越えてきた外部入学者たち……その両者ともが、レグラ家の人間を……イシュド・レグラという学生を嫌っていた。

「互いに悔いが無いように戦え……始め!!!!」

第一の輩はロングソードを、第二の輩は長槍を構える。
互いにそれらの武器に適した職業に就いてる。

そんな二人に対し……イシュドは特に武器を取り出さず、素手の状態。
しかも全く二人から飛んでくるであろう攻撃に構える様子はなく、ダラッとした状態を崩さない。

「貴様……いったいなんの真似だ」

「なんの真似って、別に何か企んでる訳じゃねぇよ。俺にとって、別にお前らはわざわざ武器を取る相手でも本気で構える相手じゃねぇってだけだ」

「「ッ!!!!!」」

二人の沸点は一気に限界点に到達。

輩一がやや前に飛び出し、第二の矢として輩二が輩一の動きに合わせて刺突を放つ。

(一応第二次転職はしてるって動きだな……うん、本当にそれだけだな)

斬撃と刺突の攻撃回数が数十回を越えたところで、二人の腹に掌底が叩きこまれ、大きく後方へ吹き飛ばされてしまう。

「「「「「「「「「「………………え?」」」」」」」」」」

試合が始まった瞬間、二人を応援していた生徒たちの声がピタッと止まった。

「おいおい、ちょっと腹を押しただけだろ。そんないかにもダメージを受けましたってアピールはどうでも良いから、もう小手調べとかせずにさっさと本気で掛かって来いよ」

小手調べの段階でそれなりに程度が知れ、イシュドから遊び相手にすらならないという評価を下された二人。

「ッ!? 小手調べをやり過ごしただけで調子に乗るなよ!!!!」

「泣き叫んでも許しを乞うても止めんぞッ!!!!」

「御託はいいから、さっさと本気になれっての」

輩一、二は全身に……武器に魔力を纏い、それぞれの強化系スキルを使用。
飛躍的に身体能力を上昇させ、再度即席のコンビネーションで襲い掛かる。

「ん~~~~~…………一応、訓練はサボってない。そんな感じの剣と槍だな」

「「ッ!!! 嘗めるなッ!!!!!!」」

攻防数が百以上を越えたところで、ポツリと感想が零れた。

その感想をしっかり拾っていた二人は更に激怒。
顔の血管が浮き出るほどの怒りを燃やしながら己の得物を振るい、属性魔力を纏った。

(魔剣と魔槍……ってだけだろうな。スキルとして属性魔力を纏えるなら、そもそもの戦闘力がもっと高い筈だ。やっぱり、ただのボンボンだったか)

二人は得物の力を発揮するだけではなく、それぞれタイミングを狙って剣技と槍技のスキル技を放つ。
二人とも一応貴族出身であり、幼い頃から騎士に指導を受け続け……学園でも専門の教師から指導を受け続けてきた。

決して二人が弱すぎるわけではない。
今まで積み重ねてきた職業は、レベルは、スキルは張りぼてにはならない。

ただ……イシュドと二人には、あまりにも現時点で越えられない壁が存在していた。

それが今、戦況として現れ始めた。

イシュドはスキルは一切使わず、魔力だけを体に纏い……まずは素手で輩一の斬撃を受け止めた。

「なっ!? あがっ!!!???」

「しぃやッ!!!!!」

「ほいっと」

「ッ! おごぁ!!!???」

輩一は蹴りを食らって体勢を崩し、輩二は刺突を二つの指で受け止められ、こちらも腹に良い蹴りを食らってしまった。

「おら、寝るにはまだ早いぞ」

そこからは……まさに一方的な蹂躙と言える展開だった。

イシュドは敢えて数回の攻撃で輩一、二を沈めようとはせず、適度な攻撃を何発も何十発も叩きこんでいく。

「おらよっと」

「なぁああっ!!!???」

そして完全に二人の動きが鈍ったところで、得物であるロングソードと長槍を破壊。

得物が壊れた時点で、勝負あった……とはらなず、イシュドの連撃が再び輩一、二に襲い掛かる。

「まっ、あべ!? がっ!? いぎっ!?」

「こ、こうっ!? ぎゃっ!!?? おぇっ!?」

「おいおい、どうしたどうした!! あんだけイキってたんだ!!! さんざん人のこと辺境の蛮族だのゴミ蛮族だの好き勝手言ってたんだからよ、もっと頑張れやっ!!!!!」

止めてくれと言おうとしても、降参を宣言しようとしても……そう言ったと確実に確認出来ない速さでイシュドの拳が、蹴りが二人の顔に放たれ、最後まで言いきれない。

「自分たちが気高い貴族だと思ってたんだろ? なら、辺境の蛮族なんかに負けてられねぇだろ。ほら、もっと根性振り絞れよっ!!!!!」

「いぎゃ~~~~~ッ!!??」

打撲、内出血、罅を越えて輩一の右腕が完全に折れた。
それでもイシュドの攻撃は止まらず、二人に絶対逃れられない……逃げたくても宣言できない地獄が続く。

「ッ!?」

しかし、後少しで失神するかもしれないといったタイミングで一つの攻撃がイシュドの元へ飛来。

「やはり躱しますか。ですが、それまでです」

リングに現れた人物は……パッと見ただけでは、女神かと見間違う美しさを持つ女子生徒だった。
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