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第4話 お前が適任だ……多分

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「今、なんと?」

「学園に入学してほしい」

「………………」

どうやらイシュドの聞き間違いではなかった。
しかし、本当に父が何を言っているのか理解出来ない。

「学園と言うのは……王都にある貴族が通う学園、ですよね?」

「あぁ、その通りだ」

「……一応聞きます。何故今更?」

イシュド兄、姉は誰一人として学園に通っていない。
弟や妹たちも学園に通う予定は一切ない。

因みに、アルバやその兄弟たち……加えて、祖父であるアルフレッドも学園には通っておらず、屋敷と戦場で育ったと言っても過言ではない。

「学園の方からそろそろ一人ぐらいが通って欲しいと言われてな」

「そういえば、以前学園に通ったのはロベルト爺ちゃんですよね」

正確な爺ちゃんと言う立場はアルフレッドなのだが、イシュドは面倒なので二人とも爺ちゃんと呼んでいる。

「そうなんだよ。ぶっちゃけ、もう何世代も前って話なんだよ」

「……そうですね。普通に考えればとんでもない話ではありますね」

「そうだろそうだろ。解ってくれてなによりだ。こういう話をアレックスやダンテにしたところで、正直聞く耳を持たない」

「でしょうね」

二人とも決して悪人ではなく、怠け者でもない。
レグラ家の人間としての責務を全うし続ける日々……つまり毎日の様にモンスターを相手にしているという事。

「俺としても、子供たちの中で一番社交性があるのはお前だと思ってるんだよ、イシュド」

「……褒めてくれるのは嬉しいですけど、別に俺……売られた喧嘩は買いますよ」

すっかり前世の常識は捨て去っており、身内をバカにする様な人間であれば……最悪殺しても良いかと考えている。

最悪の場合がこれなため、基本的にはやられた分だけやりかえすなどではなく、半殺しにしようと決めていた。

「そこはほら、お前論破したりするの得意だろ」

「論破というか……それらしい言葉を並べるのは得意ですけど……というか、そういうのだったら、ダンテ兄さんに任せればよかったんじゃないですか?」

もう学園に通うには規定年齢を越えてしまっているので過ぎた話ではあるが、それでもダンテという太そうな名前に反してスマートで知的なメガネイケメンである兄の方が適任だったのではと言いたくなるもの。

「あいつが仮に力で潰そうとせずに言葉を使えば、結局それは論破じゃなくて破壊になるんだよ」

「論破じゃなくて破壊…………まぁ、ダンテ兄さんが放つ威圧感も考えれば、イメージ出来なくもないですね」

イシュドとしては魔法や錬金術、モンスターの生態などに関して込み入った話が出来る、兄弟の中でもそれなりに仲が良く、馬も合う気の知れた人物。

だが、その紳士な見た目に反し、中身は非常にレグラ家の人間らしい鋭い狂気を持っている。

「学園、ですか…………面白そうという思いはあります。ただ、どう考えても問題は起こりますよ」

レグラ家という特殊な家の子供として育てられたからこそ、問題は起こさないに越したことはない、なんて考えはそこら辺の野良犬に食わせた。

「それはおそらく大丈夫だろう。喧嘩になった場合は……殺さなければおそらく大丈夫だ」

「殺したらダメなんですね……その学園の学園長? 的な人は俺がちゃんとレグラ家の人間というのは理解してるんですよね」

「あぁ、ちゃんと伝えてあるぞ。あの最強で最恐の戦士に気に入られた子供だとな」

「……だったら、大丈夫そうですね」

このまま自分は兄や姉たちと同じ道を辿るのだと思っていた。

イシュド的に、その人生には全く不満がなかった。
寧ろ前世の記憶があったため、学校なんて行かなくて済むに越したことはないとすら思っていた。

しかし……前世という記憶があるからこそ、もう一度学校に通うのも悪くない。
そんな思いが微かに芽生えた。

「というか、数世代ぶりに学園に通うのであれば、俺たちを野蛮な蛮族と呼んでいる連中に、その蛮族がどれだけ恐ろしいかを教えるのに丁度良さそうですね」

「はっはっは!!!! 流石レグラ家の人間だ。そうだなぁ……親は子の前で見栄を張りたがるものだからな……俺の世代は俺が何回かバカを見せしめにしたが、歴史は繰り返すだろうな」

「いい加減学べよとツッコみたいところですけど、それが貴族の治らない部分と納得しないとダメってことですね」

「残念ながらそういう事だ」

「……解りました。学ぶことがあるかは解りませんけど、とりあえず楽しく過ごさせてもらいます」

前世で人生の夏休みと言えば、大学生活。

イシュドとしては正直なところ、今世で退屈さを感じる日々はないため、ある意味毎日夏休みに近い。
ただ……学園生活という非日常は、イシュドにとって人生の夏休みになる経験……かもしれない。

基本的に他家との令息とも話したことがなく、正直なところ本当に社交性あるのかと、自分でも怪しいと思っている。

(学園に入学するってことは、入試……試験を受けるんだよな)

野蛮な蛮族と口にしていた家の人間よりも勉学面で下であれば…………いったいどんな顔をするのか。

「ふっふっふ……その為だけに勉強を頑張ってみるのも、ありっちゃありだな」

ほんの少し狂気を感じさせる笑みを浮かべながら、屋敷でそういった事情に詳しい従者の元へと向かった。


「よぅ、イシュド! 親父から面倒なことを頼まれたらしいな!!!」

「ミハイル兄さん……あんまりニコニコ顔で事実を言わないでくれよ」

ミハイル、という名が似合わない体格と豪気な性格を持つ男は、レグラ家の三男であり、イシュドの兄。

「だっはっはっは!!! すまんすまん! にしても、確か学園ってのは三年間通うんだろ……三年もあれば、お前を追い抜けそうだな」

現段階ではイシュドの成長があまりにも早過ぎたこともあり、全体的にイシュドが兄であるミハイルよりも上回っている。

だが、三年もあれば……上がり辛くなったレベルもほんの少しずつではあるが、着実に上がっていく。
逆に王都という周囲は基本的に安全な場所で生活することになれば……技術面はともかく、レベルが本当に遅々として上がらなくなるのは目に見えている。

「うげ……そうなってもおかしくなさそうっすね。はぁ~~~、その可能性は完全に忘れてたな~~」

兄弟の中で一番ではないと気が済まない!!! なんて考えは持っていないが、今まで勝っていた相手に負けると、それはそれで悔しさが爆発する。

そんな未来を危惧したイシュドは予定通り筆記試験対策にも励むが、より一層実戦に力が入り……結果として、王都に向かうまでに一年もない期間の間に普通ではないスピードでレベルを上げ、心の余裕をつくった。
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