979 / 1,019
九百七十七話 選んだ選択
しおりを挟む
「……大丈夫、だよね」
決して戦況が有利ではない状況で相変わらず笑みを浮かべているガルーレ。
だが……これまでスティームたちが見てきた笑みと比べて、現在ガルーレが浮かべている笑みは少し違っていた。
「多分大丈夫だと思うぞ。あれは、楽し過ぎてあそこまで珍しい笑みが零れてるんだと思う」
「楽し過ぎて、か…………アラッドも経験があるの?」
「さぁ、どうだっただろうな。ないとは、言えないな」
自分がガルーレと同じく、戦闘好きな部類に入る人間であると自覚しているからこそ、絶対になかったとは断言出来ない。
「とはいえ、あの笑い方……虫系モンスターには感情がないからいまいち解らないが、多分圧がさっきまでと比べて強くなっただろうな」
「あっ、やっぱりそうだよね。なんか僕も、ガルーレの笑みが少し変わってから、ちょっとぞくっとした」
「そうか……まぁ、だからって、あっさり勝負が決まるってことはなさそうだがな」
アラッドの言う通り、楽しさが頂点に達したガルーレから零れる笑みの質が変化。
その変化によって、対峙者に対して与える圧がより重厚なものになったが……そこは虫系モンスター。
危険だと、早く始末した方が良いと、本能が訴えかけてくるも、焦って攻め方が雑になることはなかった。
「あはっ!! いきなり、激しくなるじゃん!!!!」
「ッ!!!!!!」
焦ってはいない。
しかし、目の前の人間を早く殺した方が良いという本能に従い、グレーターマンティスは鎌を振り回すだけではなく、至近距離からも斬撃波を何度も放つようになった。
鎌による斬撃はガルーレにとって絶対にまともにくらいたくない攻撃ではあるが、鎌から放たれる魔力の斬撃波も、可能であればくらいたくない。
(時折跳んで浮くの、結構、厄介ねっ!!!!!)
蜂やカブト虫、トンボ系のモンスターなどと比べれば飛行能力は落ちるものの、グレーターマンティスも一応飛行性能を持っているため、ガルーレと違って宙を飛ぶことが可能。
宙に跳び、ガルーレに向けて多数の斬撃波を放つこともあり、既に周囲の地面は幾つも斬り裂かれた跡がある。
(でも、本当に…………最・高ね!!!!!!!!)
相変わらず戦況は自分の方に傾いておらず、鎌をロングソードの斬撃で弾き返すことは上手くなってきたが、まだ斬撃による目立ったダメージは与えられていないガルーレ。
それでも尚……彼女は笑うことは止めない。
「ッ!!!!!!!!!」
そんな人間を見て、更に本能が強くグレーターマンティスに訴えかける。
目の前の女は直ぐに殺すべきだと。
グレーターマンティスは迷うことなくその本能に従い、更に戦いを加速させる。
振るい、振るい、振るって振るって振るって振るって振るって振るって振るい続ける。
基本的に人間よりもスタミナが多いモンスターの中でも、虫系モンスターは疲れ知らずな個体。
まず、この斬撃の嵐が止まることはない。
相手の攻撃が止まらないという事は、対峙者もまた止まることを許されない状況を強いられる。
「あは、あはは!!! 本当に、速くて、苛烈ね!!!!」
だが、本日出会った人間は、まだ笑っている。
虫系モンスターには感情というものがないに等しいが、それでも何度か人間……他のモンスターと戦闘を繰り返していれば、おおよそ何を思っているのか解るようになる。
グレーターマンティスがこれまで戦ってきた相手の中に、笑っているモンスターも……笑っている人間もいた。
全戦全勝、苦戦などあり得ない……といった華々しい戦歴を重ねてきた訳ではないが、今日までそういった対峙者を全て倒してきた。
しかし……現在、目の前にいる人間の様な笑みを浮かべて戦う人間を……生物を、グレーターマンティスは知らなかった。
だからこそ、生物としての本能がグレーターマンティスに強く訴えかける。
知らないからこそ、直ぐに殺せと。
その本能は正しく、仮にグレーターマンティスの立場に人間が立っていたとしても、まず行うべきは生き残ること。
倒して生き残っても良し、逃げて生き残っても良し。
知らない笑みを浮かべていた理由を考える、知るのはその後で良い。
そしてグレーターマンティスは倒して生き残る道を選んだ。
目の前の人間を倒しても、更に奥の人間たちを相手にしなければならない?
今、そんな事はどうでも良かった。
ここで背を向けて逃げようとすれば、それこそ確実に死んでしまう。
だからこそ、全身全霊で倒そうとした。
「あっはっは! あっはっは!!!!! ……はっ?」
狂気的な笑い声が続く中……その声は急に途切れ、次には疑問の声が零れた。
「あっ」
(あちゃぁ~~~…………仕方ない、と言えば仕方ないんだろうな)
何故、ガルーレから狂気的な笑い声が途切れ、疑問の声が零れたのか……少し離れた場所で観ていたスティームとアラッドは直ぐに気付いた。
経験値不足による落とし穴……と言うほど、グレーターマンティスの戦歴は浅くない。
浅くはないが、ただ……足りなかった。
「………………はっ?」
「っ!!!!!!!」
再度、ガルーレの口から疑問形の声が零れた瞬間、グレーターマンティスに……初めて感情というものが生まれた。
それは……喜びや悲しみなどではなく…………恐怖だった。
決して戦況が有利ではない状況で相変わらず笑みを浮かべているガルーレ。
だが……これまでスティームたちが見てきた笑みと比べて、現在ガルーレが浮かべている笑みは少し違っていた。
「多分大丈夫だと思うぞ。あれは、楽し過ぎてあそこまで珍しい笑みが零れてるんだと思う」
「楽し過ぎて、か…………アラッドも経験があるの?」
「さぁ、どうだっただろうな。ないとは、言えないな」
自分がガルーレと同じく、戦闘好きな部類に入る人間であると自覚しているからこそ、絶対になかったとは断言出来ない。
「とはいえ、あの笑い方……虫系モンスターには感情がないからいまいち解らないが、多分圧がさっきまでと比べて強くなっただろうな」
「あっ、やっぱりそうだよね。なんか僕も、ガルーレの笑みが少し変わってから、ちょっとぞくっとした」
「そうか……まぁ、だからって、あっさり勝負が決まるってことはなさそうだがな」
アラッドの言う通り、楽しさが頂点に達したガルーレから零れる笑みの質が変化。
その変化によって、対峙者に対して与える圧がより重厚なものになったが……そこは虫系モンスター。
危険だと、早く始末した方が良いと、本能が訴えかけてくるも、焦って攻め方が雑になることはなかった。
「あはっ!! いきなり、激しくなるじゃん!!!!」
「ッ!!!!!!」
焦ってはいない。
しかし、目の前の人間を早く殺した方が良いという本能に従い、グレーターマンティスは鎌を振り回すだけではなく、至近距離からも斬撃波を何度も放つようになった。
鎌による斬撃はガルーレにとって絶対にまともにくらいたくない攻撃ではあるが、鎌から放たれる魔力の斬撃波も、可能であればくらいたくない。
(時折跳んで浮くの、結構、厄介ねっ!!!!!)
蜂やカブト虫、トンボ系のモンスターなどと比べれば飛行能力は落ちるものの、グレーターマンティスも一応飛行性能を持っているため、ガルーレと違って宙を飛ぶことが可能。
宙に跳び、ガルーレに向けて多数の斬撃波を放つこともあり、既に周囲の地面は幾つも斬り裂かれた跡がある。
(でも、本当に…………最・高ね!!!!!!!!)
相変わらず戦況は自分の方に傾いておらず、鎌をロングソードの斬撃で弾き返すことは上手くなってきたが、まだ斬撃による目立ったダメージは与えられていないガルーレ。
それでも尚……彼女は笑うことは止めない。
「ッ!!!!!!!!!」
そんな人間を見て、更に本能が強くグレーターマンティスに訴えかける。
目の前の女は直ぐに殺すべきだと。
グレーターマンティスは迷うことなくその本能に従い、更に戦いを加速させる。
振るい、振るい、振るって振るって振るって振るって振るって振るって振るい続ける。
基本的に人間よりもスタミナが多いモンスターの中でも、虫系モンスターは疲れ知らずな個体。
まず、この斬撃の嵐が止まることはない。
相手の攻撃が止まらないという事は、対峙者もまた止まることを許されない状況を強いられる。
「あは、あはは!!! 本当に、速くて、苛烈ね!!!!」
だが、本日出会った人間は、まだ笑っている。
虫系モンスターには感情というものがないに等しいが、それでも何度か人間……他のモンスターと戦闘を繰り返していれば、おおよそ何を思っているのか解るようになる。
グレーターマンティスがこれまで戦ってきた相手の中に、笑っているモンスターも……笑っている人間もいた。
全戦全勝、苦戦などあり得ない……といった華々しい戦歴を重ねてきた訳ではないが、今日までそういった対峙者を全て倒してきた。
しかし……現在、目の前にいる人間の様な笑みを浮かべて戦う人間を……生物を、グレーターマンティスは知らなかった。
だからこそ、生物としての本能がグレーターマンティスに強く訴えかける。
知らないからこそ、直ぐに殺せと。
その本能は正しく、仮にグレーターマンティスの立場に人間が立っていたとしても、まず行うべきは生き残ること。
倒して生き残っても良し、逃げて生き残っても良し。
知らない笑みを浮かべていた理由を考える、知るのはその後で良い。
そしてグレーターマンティスは倒して生き残る道を選んだ。
目の前の人間を倒しても、更に奥の人間たちを相手にしなければならない?
今、そんな事はどうでも良かった。
ここで背を向けて逃げようとすれば、それこそ確実に死んでしまう。
だからこそ、全身全霊で倒そうとした。
「あっはっは! あっはっは!!!!! ……はっ?」
狂気的な笑い声が続く中……その声は急に途切れ、次には疑問の声が零れた。
「あっ」
(あちゃぁ~~~…………仕方ない、と言えば仕方ないんだろうな)
何故、ガルーレから狂気的な笑い声が途切れ、疑問の声が零れたのか……少し離れた場所で観ていたスティームとアラッドは直ぐに気付いた。
経験値不足による落とし穴……と言うほど、グレーターマンティスの戦歴は浅くない。
浅くはないが、ただ……足りなかった。
「………………はっ?」
「っ!!!!!!!」
再度、ガルーレの口から疑問形の声が零れた瞬間、グレーターマンティスに……初めて感情というものが生まれた。
それは……喜びや悲しみなどではなく…………恐怖だった。
429
お気に入りに追加
6,107
あなたにおすすめの小説
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
殿下、恋はデスゲームの後でお願いします
真鳥カノ
ファンタジー
気付けば乙女ゲームの悪役令嬢「レア=ハイラ子爵令嬢」に転生していた!
いずれゲーム本編である王位継承権争いに巻き込まれ、破滅しかない未来へと突き進むことがわかっていたレア。
自らの持つ『祝福の手』によって人々に幸運を分け与え、どうにか破滅の未来を回避しようと奮闘していた。
そんな彼女の元ヘ、聞いたこともない名の王子がやってきて、求婚した――!!
王位継承権争いを勝ち抜くには、レアの『幸運』が必要だと言っていて……!?
短編なのでさらっと読んで頂けます!
いつか長編にリメイクします!
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる