921 / 1,019
九百十九話 何も、知らないだろ
しおりを挟む
「フッフッフ」
「…………」
黒色のハーピィと対峙しているファル。
当然の事ながら、互いに空中戦に慣れている……空中こそが主戦場。
普段は地上の敵と戦うことが比較的多いファルにとって、珍しく半分黒色のワイバーンと続いて、空中戦が大得意なモンスターとの戦いが続いていた。
「キィィイイエエエエエッ!!!!」
「ッ!!!!」
互いに宙を飛び、羽を持ち……基本的に風による攻撃が得意。
ただ、黒色ハーピィはただのハーピィではなく、リザードマンやハードメタルゴーレム、オルトロス亜種たちと同じように、闇の力を得ている。
ハーピィのランクはDと、全身が黒くなり、完全に闇の力が馴染んでいる個体の中では、一番ランクが低い。
故に、自分が対応すべきだと思いはしたものの、ファルは黒色ハーピィのランクを測りかねていた。
だが、実際に自身が放った旋風とハーピィが起こした闇風の衝突した結果などから、目の前のハーピィは間違いなく自身の命に刃を届かせる攻撃力を持っていると把握。
油断出来ない。
それがファルの黒色ハーピィに対する感想だった。
「フッフッフ」
笑う……とにかくよく笑う。
その笑みはファルの主人の友人たちが、純粋に戦闘が楽しいと感じているからこそ零す笑みではなく、他者を見下す……嗤い。
そんな嗤いを零す黒色ハーピィに対し……ファルはただただ、冷静に見極めようとしていた。
思考力があるファルは、その他大勢が持ってない力を自分が持っている、同族の中で自分は間違いなく特別だと……そう思った個体は傲慢になる傾向にあると理解していた。
普段から冷静に戦っているファルは嗤われようとも、そんな事はどうでも良かった。
問題なのは、自分の力に酔っているから、あそこまで自信過剰な態度を取れるのか……それとも、完全に自分を攻略……もしくは仕留められる手札を有しているからこそ、嗤っているのか。
それが今のファルにとって最優先事項だった。
「ッ!!」
「キィイエエエアアアッ!!!!」
だからこそ、小手調べの時間を長くする。
奥の手を有しているなら、それを引っ張り出したい。
最悪……自分が黒色ハーピィを殺せずとも、誰かが隙を突いて殺してくれても構わない。
自分の一番の仕事は、なるべく空中で戦っている自分たちの攻撃が、うっかりスティームたちの方へ向かい、戦いの邪魔にならない事。
強力な力を持っている……それは変わりない。
ただ、パーティーの中では一番の仕事人。それがファル。
「…………フッフッフ。キッキッキ、キェッキェ」
「…………」
小手調べが続くこと数分、戦意はある……戦う意志は感じられるものの、自分を仕留めるという殺意が薄いことに気付いた黒色ハーピィ。
当然、煽りだす。
私の力に怖気づいたのかと、それでもBランクのモンスターなのかと。
元がDランクの自分に押されているなど、とんだ弱者だったと……お前の主人も、お前と似て臆病者なのでしょう、と。
黒色ハーピィは思い付く限りの罵倒を並べる。
しかし、ファルの冷静な表情は変わらず、淡々と黒色ハーピィを削ろうと……持っている手札を無理矢理引き出そうとする。
主人をバカにする言葉など、本来であれば怒りを露にしてもおかしくないのだが、ファルは思考力があるモンスター。
元々黒色ハーピィが性格の悪い個体であることを見抜いていたこともあり、今自分に向けられている言葉単なる挑発や煽りという可能性もあれば、大きな隙を見せれば必ず攻撃をぶち込もうと考えている可能性もあると考えていた。
そして……何より、スティームの凄さを誰より理解しているスティーム。
自分に似て、主人も臆病? 今現在、黒い鋼鉄の巨人を相手に笑みを浮かべて戦っている白毛ボス猿と一対一で戦い、ギリギリとはいえ勝利した主人にそんな言葉は当てはらない。
ファルは……正直、初めてスティームがヴァジュラと戦う時、それなりに心配していた。
スティームと共に冒険する中で、Bランクモンスターとは何度か遭遇してきた。
アラッドという強者とスティームが友人となり、パーティーを組んで共に活動するようになってから、更に多くの強敵と出会うようになった。
その中でも、ハヌマーンことヴァジュラの存在感は、これまで遭遇してきた他のBランクモンスターとは、どこか違った。
本能がこいつは危ないと呼びかけてくる。
そんな存在を相手に、スティームは挑み……勝利を収めた。
解っていない……何も、お前は何も解っていない。
パーティーメンバーであるアラッドやガルーレの様な戦闘大好き人間ではない。
それでも、一度踏み入った戦いからは絶対に逃げない。
「…………フッ」
そんな優しく、それでいて最高の主人の強さを知らず、スティームを利用して自分の怒りを買おうとする黒色ハーピィの姿は……なんとも愚かで、滑稽だった。
だからこそ、ファルにしては珍しく失笑を零した。
「ッ!!!!!! ギィイイイイイイェアアアアアアアアアアア」
怒らせ、動きを単調にさせようとしていた側が、意図したわけではないが……ファルの失笑により、逆に感情が怒りに支配されることになった。
「…………」
黒色のハーピィと対峙しているファル。
当然の事ながら、互いに空中戦に慣れている……空中こそが主戦場。
普段は地上の敵と戦うことが比較的多いファルにとって、珍しく半分黒色のワイバーンと続いて、空中戦が大得意なモンスターとの戦いが続いていた。
「キィィイイエエエエエッ!!!!」
「ッ!!!!」
互いに宙を飛び、羽を持ち……基本的に風による攻撃が得意。
ただ、黒色ハーピィはただのハーピィではなく、リザードマンやハードメタルゴーレム、オルトロス亜種たちと同じように、闇の力を得ている。
ハーピィのランクはDと、全身が黒くなり、完全に闇の力が馴染んでいる個体の中では、一番ランクが低い。
故に、自分が対応すべきだと思いはしたものの、ファルは黒色ハーピィのランクを測りかねていた。
だが、実際に自身が放った旋風とハーピィが起こした闇風の衝突した結果などから、目の前のハーピィは間違いなく自身の命に刃を届かせる攻撃力を持っていると把握。
油断出来ない。
それがファルの黒色ハーピィに対する感想だった。
「フッフッフ」
笑う……とにかくよく笑う。
その笑みはファルの主人の友人たちが、純粋に戦闘が楽しいと感じているからこそ零す笑みではなく、他者を見下す……嗤い。
そんな嗤いを零す黒色ハーピィに対し……ファルはただただ、冷静に見極めようとしていた。
思考力があるファルは、その他大勢が持ってない力を自分が持っている、同族の中で自分は間違いなく特別だと……そう思った個体は傲慢になる傾向にあると理解していた。
普段から冷静に戦っているファルは嗤われようとも、そんな事はどうでも良かった。
問題なのは、自分の力に酔っているから、あそこまで自信過剰な態度を取れるのか……それとも、完全に自分を攻略……もしくは仕留められる手札を有しているからこそ、嗤っているのか。
それが今のファルにとって最優先事項だった。
「ッ!!」
「キィイエエエアアアッ!!!!」
だからこそ、小手調べの時間を長くする。
奥の手を有しているなら、それを引っ張り出したい。
最悪……自分が黒色ハーピィを殺せずとも、誰かが隙を突いて殺してくれても構わない。
自分の一番の仕事は、なるべく空中で戦っている自分たちの攻撃が、うっかりスティームたちの方へ向かい、戦いの邪魔にならない事。
強力な力を持っている……それは変わりない。
ただ、パーティーの中では一番の仕事人。それがファル。
「…………フッフッフ。キッキッキ、キェッキェ」
「…………」
小手調べが続くこと数分、戦意はある……戦う意志は感じられるものの、自分を仕留めるという殺意が薄いことに気付いた黒色ハーピィ。
当然、煽りだす。
私の力に怖気づいたのかと、それでもBランクのモンスターなのかと。
元がDランクの自分に押されているなど、とんだ弱者だったと……お前の主人も、お前と似て臆病者なのでしょう、と。
黒色ハーピィは思い付く限りの罵倒を並べる。
しかし、ファルの冷静な表情は変わらず、淡々と黒色ハーピィを削ろうと……持っている手札を無理矢理引き出そうとする。
主人をバカにする言葉など、本来であれば怒りを露にしてもおかしくないのだが、ファルは思考力があるモンスター。
元々黒色ハーピィが性格の悪い個体であることを見抜いていたこともあり、今自分に向けられている言葉単なる挑発や煽りという可能性もあれば、大きな隙を見せれば必ず攻撃をぶち込もうと考えている可能性もあると考えていた。
そして……何より、スティームの凄さを誰より理解しているスティーム。
自分に似て、主人も臆病? 今現在、黒い鋼鉄の巨人を相手に笑みを浮かべて戦っている白毛ボス猿と一対一で戦い、ギリギリとはいえ勝利した主人にそんな言葉は当てはらない。
ファルは……正直、初めてスティームがヴァジュラと戦う時、それなりに心配していた。
スティームと共に冒険する中で、Bランクモンスターとは何度か遭遇してきた。
アラッドという強者とスティームが友人となり、パーティーを組んで共に活動するようになってから、更に多くの強敵と出会うようになった。
その中でも、ハヌマーンことヴァジュラの存在感は、これまで遭遇してきた他のBランクモンスターとは、どこか違った。
本能がこいつは危ないと呼びかけてくる。
そんな存在を相手に、スティームは挑み……勝利を収めた。
解っていない……何も、お前は何も解っていない。
パーティーメンバーであるアラッドやガルーレの様な戦闘大好き人間ではない。
それでも、一度踏み入った戦いからは絶対に逃げない。
「…………フッ」
そんな優しく、それでいて最高の主人の強さを知らず、スティームを利用して自分の怒りを買おうとする黒色ハーピィの姿は……なんとも愚かで、滑稽だった。
だからこそ、ファルにしては珍しく失笑を零した。
「ッ!!!!!! ギィイイイイイイェアアアアアアアアアアア」
怒らせ、動きを単調にさせようとしていた側が、意図したわけではないが……ファルの失笑により、逆に感情が怒りに支配されることになった。
473
お気に入りに追加
6,107
あなたにおすすめの小説
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
殿下、恋はデスゲームの後でお願いします
真鳥カノ
ファンタジー
気付けば乙女ゲームの悪役令嬢「レア=ハイラ子爵令嬢」に転生していた!
いずれゲーム本編である王位継承権争いに巻き込まれ、破滅しかない未来へと突き進むことがわかっていたレア。
自らの持つ『祝福の手』によって人々に幸運を分け与え、どうにか破滅の未来を回避しようと奮闘していた。
そんな彼女の元ヘ、聞いたこともない名の王子がやってきて、求婚した――!!
王位継承権争いを勝ち抜くには、レアの『幸運』が必要だと言っていて……!?
短編なのでさらっと読んで頂けます!
いつか長編にリメイクします!
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる