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八百七十七話 いたって真剣
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SIDE アラッド
「アラッド、あれ……大丈夫なのかな」
「そう、だな…………大丈夫、だと思いたい」
離れた場所から観戦しているアラッドたち。
アラッドから見て、二人とも試合の範囲に収めなければならない……その為には何を使用してはいけないのか。
それが解ってない、もしくは忘れてしまっている様には見えない。
ただ……ただ、二人が限られた条件下の中で……試合か、それとも決闘と判断するか、ギリギリのラインで攻防を行っていた。
「っていうか、二人とも試合の気迫じゃなよね。いや、観てる分にはこう……直ぐにまた戦いたい!!! って感じで胸が熱くなるんだけどさ」
「確かに、闘争心に火を付けてくれる戦いだな」
先程まで単純にフローレンスの勝利を願っていたソルたちだが……今では、アラッドと同じく闘争心が燃え上がり、戦いたい……強くなりたい。
そんな思いで心が燃え滾っていた。
(……後、数分は続くかもしれないな)
二人とも体力、魔力ともに半分を切っていない。
大技を使用してない、切り札を切ってないということもあって、余力は残っている。
だが、次の瞬間……フローレンスが細剣に剣戟には不必要なほどの光の魔力を纏った。
「っ!?」
纏った光の魔力を一気に消費するかのように、刺突を放つと思わせて斬撃刃、物理的に刺すと見せかけて光の刺突を放出。
逆に近距離からの斬撃刃、光の針を放つと見せかけ、物理的な刺突を行うなどして、ほんの数秒間だけではあるが、スティームの双剣という手数によるアドバンテージをかき消す程の猛撃を行った。
(こん、のッ!!!!!!!)
被弾覚悟で進むしかない。
最悪、体のどこかを貫かれるかもしれないが、急所だけを気を付けていれば問題無い……飛び技で腕が切り飛ばされるということもないため、スティームの判断は実に合理的な特攻だった。
「なッ!? ッ…………」
「一本……ということで、良いですね」
しかし、それこそがフローレンスの狙っていた流れだった。
被弾覚悟で攻めようとすれば、どうしても雑さが生まれてしまう。
身に覚えがある経験を活かし、最初に振るわれた斬撃をいなしながら……そのまま流れを止めず刺突。
体が完全に前に伸びきっており、仮に躱されていれば、カウンターを食らうのは間違いなかった。
だが、結果としてスティームの二撃目が届く前に、剣先が喉元に届いた。
「はい。僕の負けです」
日和ったら負けだと思っていた。
それでも、この状況で負けを認めないのは、話が違う。
それが解らないほど、スティームはバカでも変なプライドを持つクレイジー野郎でもない。
素直に自分の負けだと認めた。
二人が拍手を躱すと、二人の試合を観ていた他の冒険者たちから拍手が送られた。
「お疲れ様、スティーム」
「お疲れ~~、スティーム~~」
当然、戻って来たスティームにアラッドとガルーレも拍手を送る。
「いやぁ~~、負けちゃったよ。やっぱりフローレンスさんは強いね」
「まぁ……そうだろうな」
心の中では当然の様にスティームを応援していたアラッド。
ただ、フローレンスが真の強者というのもまた事実であると認めており、今回の結果に対して異論は一切なかった。
(最後、焦っちゃったな……あそこは下手に突っ込まず、同じく小さな遠距離攻撃で対応すべきだったな)
フローレンスの思惑通り、焦って判断を間違った、雑な攻め方をしてしまったという自覚があり、水分補給をしながら反省点を振り返る。
「スティームはさぁ、うっかり赤雷を使っちゃいそうにならなかったの?」
「えっと……正直、何度かあったよ。今あそこで赤雷を使ってれば勝てたって何度も思った。でも、そういう条件下で試合をするって決めたんだから、自分からルールを破るのはちょっとね」
「あら、スティームさんも同じことを考えてたんですね」
「なんだ、お前も聖光雄化を使いそうになってたのか?」
呆れた奴だ……といった顔はせず、ただほんの少し驚いた表情を浮かべたアラッド。
「えぇ。使っていれば、力で押せた、躱して対応することが出来た。何度もそう思う場面がありました。本当に強かったです」
「ふふ、だろ」
なんでお前が得意気な顔を浮かべてるんだと、心の中でツッコむソルとルーナたち。
ただ、彼女たちもフローレンスが褒められれば得意気な顔を浮かべることがあるため、単純に自分のこと
が見えていないだけだった。
(……羨ましいですね)
フローレンスは自身がスティームの事を褒めた際、アラッドの表情を見て……ほんの少しスティームの事を羨ましく思った。
「それじゃあ、次は俺が戦ろうか……そうだな。良ければ、まだ参加してない三人の方々、俺と試合しませんか」
「……アラッド。それは三人と連続で一対一を繰り返すのか、それとも一対三の変則試合を行うのか……いったいどちらでしょうか」
「勿論、一対三の変則試合だ。後衛の方もいるんだから、そっちの方が良いだろ」
一応、言っている事は間違っていない。
理に適ってはいるが、その三人の闘争心に大量の油が注がれた。
「俺も、二人の戦いを観てたら……熱くなれる試合をしたくなってな」
アラッドの表情を、眼を見て本気で言っているのだと判断した三人は……僅かな苛立ちを口にすることなく、ゆっくりとその場から離れて開始場所へと向かった。
「アラッド、あれ……大丈夫なのかな」
「そう、だな…………大丈夫、だと思いたい」
離れた場所から観戦しているアラッドたち。
アラッドから見て、二人とも試合の範囲に収めなければならない……その為には何を使用してはいけないのか。
それが解ってない、もしくは忘れてしまっている様には見えない。
ただ……ただ、二人が限られた条件下の中で……試合か、それとも決闘と判断するか、ギリギリのラインで攻防を行っていた。
「っていうか、二人とも試合の気迫じゃなよね。いや、観てる分にはこう……直ぐにまた戦いたい!!! って感じで胸が熱くなるんだけどさ」
「確かに、闘争心に火を付けてくれる戦いだな」
先程まで単純にフローレンスの勝利を願っていたソルたちだが……今では、アラッドと同じく闘争心が燃え上がり、戦いたい……強くなりたい。
そんな思いで心が燃え滾っていた。
(……後、数分は続くかもしれないな)
二人とも体力、魔力ともに半分を切っていない。
大技を使用してない、切り札を切ってないということもあって、余力は残っている。
だが、次の瞬間……フローレンスが細剣に剣戟には不必要なほどの光の魔力を纏った。
「っ!?」
纏った光の魔力を一気に消費するかのように、刺突を放つと思わせて斬撃刃、物理的に刺すと見せかけて光の刺突を放出。
逆に近距離からの斬撃刃、光の針を放つと見せかけ、物理的な刺突を行うなどして、ほんの数秒間だけではあるが、スティームの双剣という手数によるアドバンテージをかき消す程の猛撃を行った。
(こん、のッ!!!!!!!)
被弾覚悟で進むしかない。
最悪、体のどこかを貫かれるかもしれないが、急所だけを気を付けていれば問題無い……飛び技で腕が切り飛ばされるということもないため、スティームの判断は実に合理的な特攻だった。
「なッ!? ッ…………」
「一本……ということで、良いですね」
しかし、それこそがフローレンスの狙っていた流れだった。
被弾覚悟で攻めようとすれば、どうしても雑さが生まれてしまう。
身に覚えがある経験を活かし、最初に振るわれた斬撃をいなしながら……そのまま流れを止めず刺突。
体が完全に前に伸びきっており、仮に躱されていれば、カウンターを食らうのは間違いなかった。
だが、結果としてスティームの二撃目が届く前に、剣先が喉元に届いた。
「はい。僕の負けです」
日和ったら負けだと思っていた。
それでも、この状況で負けを認めないのは、話が違う。
それが解らないほど、スティームはバカでも変なプライドを持つクレイジー野郎でもない。
素直に自分の負けだと認めた。
二人が拍手を躱すと、二人の試合を観ていた他の冒険者たちから拍手が送られた。
「お疲れ様、スティーム」
「お疲れ~~、スティーム~~」
当然、戻って来たスティームにアラッドとガルーレも拍手を送る。
「いやぁ~~、負けちゃったよ。やっぱりフローレンスさんは強いね」
「まぁ……そうだろうな」
心の中では当然の様にスティームを応援していたアラッド。
ただ、フローレンスが真の強者というのもまた事実であると認めており、今回の結果に対して異論は一切なかった。
(最後、焦っちゃったな……あそこは下手に突っ込まず、同じく小さな遠距離攻撃で対応すべきだったな)
フローレンスの思惑通り、焦って判断を間違った、雑な攻め方をしてしまったという自覚があり、水分補給をしながら反省点を振り返る。
「スティームはさぁ、うっかり赤雷を使っちゃいそうにならなかったの?」
「えっと……正直、何度かあったよ。今あそこで赤雷を使ってれば勝てたって何度も思った。でも、そういう条件下で試合をするって決めたんだから、自分からルールを破るのはちょっとね」
「あら、スティームさんも同じことを考えてたんですね」
「なんだ、お前も聖光雄化を使いそうになってたのか?」
呆れた奴だ……といった顔はせず、ただほんの少し驚いた表情を浮かべたアラッド。
「えぇ。使っていれば、力で押せた、躱して対応することが出来た。何度もそう思う場面がありました。本当に強かったです」
「ふふ、だろ」
なんでお前が得意気な顔を浮かべてるんだと、心の中でツッコむソルとルーナたち。
ただ、彼女たちもフローレンスが褒められれば得意気な顔を浮かべることがあるため、単純に自分のこと
が見えていないだけだった。
(……羨ましいですね)
フローレンスは自身がスティームの事を褒めた際、アラッドの表情を見て……ほんの少しスティームの事を羨ましく思った。
「それじゃあ、次は俺が戦ろうか……そうだな。良ければ、まだ参加してない三人の方々、俺と試合しませんか」
「……アラッド。それは三人と連続で一対一を繰り返すのか、それとも一対三の変則試合を行うのか……いったいどちらでしょうか」
「勿論、一対三の変則試合だ。後衛の方もいるんだから、そっちの方が良いだろ」
一応、言っている事は間違っていない。
理に適ってはいるが、その三人の闘争心に大量の油が注がれた。
「俺も、二人の戦いを観てたら……熱くなれる試合をしたくなってな」
アラッドの表情を、眼を見て本気で言っているのだと判断した三人は……僅かな苛立ちを口にすることなく、ゆっくりとその場から離れて開始場所へと向かった。
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