上 下
861 / 1,006

八百六十話 今更気付く恐ろしさ

しおりを挟む
(……まぁ、そう簡単に都合よくないか)

次の目的地はアンドーラ山岳の最寄り街、ゴルドスに決まった。

もしかしたら、ゴルドスまでの護衛依頼などがないかと、冒険者ギルドのクエストボードを見に来たアラッドだが、運良くお望みの依頼は張られていなかった。

とはいえ、本来の目的を考えれば、時間を掛けずにゴルドスへ向かうという選択肢はあり……というより、寧ろそちらの方が良かった。

「アラッドじゃないか。気になる依頼でもあるのか?」

「シクラスさん……いや、次に向かう目的地への護衛依頼があればと思って見てたんですよ」

アラッドに声を掛けてきた人物は、先日ガルーレがヴァジュラを従魔にした件に関して、その前にハヌマーン率いる大量のハヌーマにボコられ、撤退に追い込まれたパーティーのリーダーとして怒りを抱いたエルフの細剣士。

結果として不満を持つ同業者たちと挑み、アラッドにもボコられ……その後は特にいがみ合う様な関係にはならずに接していた。

「もう別の街に行くのか? お前たち、カルトロッサに来てからそんなに経ってないだろ」

シクラスはアラッドたち三人がカルトロッサに訪れた正確な日時は知らないが、まだ訪れてから半年も経ってないことは知っている。

街から街へ旅をするタイプの冒険者であっても、目的の街に到着してから数か月はその街に滞在することが多い。

「そうですね。でも、一応カルトロッサに訪れた目的は達成したので」

「それで、直ぐに別の目的地を見つけたということか」

「まぁ、そんなところですね」

「…………そうか」

シクラスは、アラッドの言葉が半分本当で、半分嘘であることを見抜いた。

今のアラッドの顔は、何かしらの目的を……成し遂げなければならない目標を持っている者が浮かべる表情をしていた。

「アラッドは、いずれはアルバース王国以外の場所にも向かうのか?」

「一応、いずれは別の国も冒険したいと思ってます。可能であれば、別の大陸にも行ってみたいですね」

「別の大陸か……怖くないのか?」

正直なところ、故郷の森の外に憧れて飛び出し、冒険者として活動を始めたシクラスとしては、確かに自分が生まれた大陸以外の大陸も気になる。

しかし、別の大陸に向かうということは、海という未知が過ぎる場所を越えていかなければならない。

「そうですね………………ふふふ。今更ながら、確かに恐ろしい場所なのだと思いました」

大陸から大陸へ移動するのであれば、当然船に乗って移動しなければならない。

クロならもしや水面を……といった考えは一旦置いておき、基本的に船に乗って行動しなければならないのだ。
アラッドは並の戦闘者以上の戦闘経験を持っているが、船の上での経験はゼロ。
海上、水中での戦闘経験も殆どない。

一応、その時が訪れたらと、色々と考えてはいるが、それでも実際に船上、海上、水中での戦闘を行い……イメージ通りに動けるとは限らない。

「それでも、どんな場所なのか気になるので、是非行ってみたいです」

「……恐れ知らずだな」

「恐ろしいとは思ってますよ。でも、それより好奇心が勝るので」

「確かに、私たちの背中を未知へと押してくれるのは、その感情だな……もし良かったら、出発前にもう一度手合せしてくれないか」

「良いですよ。今日は特に予定はありませんし、今から戦りましょう」

二人は訓練場に移動し、刃引きなしの細剣とロングソードを手に取り、審判ナシの状態で手合せを始めた。

「ッ!!! 相変わらず、速い、なッ!!」

「シクラスさんこそ、突きのスピード、速くなりました、か?」

「かもしれない、なッ!!」

シクラスはヴァジュラの一件アラッドたちにバカな絡み方をしてしまったのは、本当に自分が熱く……自己中心的な考えになり過ぎていたと反省した。

だが、それとハヌマーン率いる大量のハヌーマにボコされ、敗走に追いやられた悔しさを別。
後……当然と言えば当然だが、アラッドに自分と同じ考えを持った十人以上の同業者たちと挑み、完敗したことに関しても悔しさを感じていた。

それから今一度鍛え直し、いずれ再度ロッサの密林でハヌマーンと遭遇した際、今度は敗走せず、どうせ浮かべてるであろうニヤけ面をぶち抜くと決めている。

とはいえ、短期間でその差が埋まることはなく、手合せを始めてから約五分後、シクラスの細剣が弾かれ、アラッドのロングソードの刃が首元に添えられて終了。

「はぁ、はぁ……ありがとう」

「こちらこそ、ありがとうございました」

「……アラッドは、その歳で読みの力が半端ではないな。何か、特別な鍛え方でもあるのか」

「読みの力に関しては、多くの方と模擬戦をするしかないかと」

基本的にアラッドの相手の動きを読む力は人が聞けば、アホだろバカだろと言いたくなる経験と実戦を繰り返した末に得た力。

なので、本当にそこに関してアドバイス出来ることはない。

「そうか…………そうだな。エルフらしく、長くしぶとく生きて身に付けよう……いや、それでは駄目だな」

「? どうしてですか」

エルフという種族の寿命が長いという特徴を活かし、諦めずに高めようとする。
全くもって悪いところが見えなかった。

「今の仲間たちと、これから先……いつまで冒険出来るかは解らない。だからこそ、のんびりと歩む訳にはいかない」

仲間を失いたくない。
別れる時が来ても、それは仲間たちが引退する時にしたい。

そんなシクラスの思いを察し、アラッドは何故長くしぶとく生きて身に付けるというスタンスでは駄目なのか解った。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。 もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。 そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。

地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。 だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!? 体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。

私のスキルが、クエストってどういうこと?

地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。 十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。 スキルによって、今後の人生が決まる。 当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。 聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。 少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。 一話辺りは約三千文字前後にしております。 更新は、毎週日曜日の十六時予定です。 『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

「守ることしかできない魔法は不要だ」と追放された結界師は幼なじみと共に最強になる~今更俺の結界が必要だと土下座したところでもう遅い~

平山和人
ファンタジー
主人公のカイトは、ラインハルト王太子率いる勇者パーティーの一員として参加していた。しかし、ラインハルトは彼の力を過小評価し、「結界魔法しか使えない欠陥品」と罵って、宮廷魔導師の資格を剥奪し、国外追放を命じる。 途方に暮れるカイトを救ったのは、同じ孤児院出身の幼馴染のフィーナだった。フィーナは「あなたが国を出るなら、私もついていきます」と決意し、カイトとともに故郷を後にする。 ところが、カイトが以前に張り巡らせていた強力な結界が解けたことで、国は大混乱に陥る。国民たちは、失われた最強の結界師であるカイトの力を必死に求めてやってくるようになる。 そんな中、弱体化したラインハルトがついにカイトの元に土下座して謝罪してくるが、カイトは申し出を断り、フィーナと共に新天地で新しい人生を切り開くことを決意する。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

処理中です...