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八百六十話 今更気付く恐ろしさ
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(……まぁ、そう簡単に都合よくないか)
次の目的地はアンドーラ山岳の最寄り街、ゴルドスに決まった。
もしかしたら、ゴルドスまでの護衛依頼などがないかと、冒険者ギルドのクエストボードを見に来たアラッドだが、運良くお望みの依頼は張られていなかった。
とはいえ、本来の目的を考えれば、時間を掛けずにゴルドスへ向かうという選択肢はあり……というより、寧ろそちらの方が良かった。
「アラッドじゃないか。気になる依頼でもあるのか?」
「シクラスさん……いや、次に向かう目的地への護衛依頼があればと思って見てたんですよ」
アラッドに声を掛けてきた人物は、先日ガルーレがヴァジュラを従魔にした件に関して、その前にハヌマーン率いる大量のハヌーマにボコられ、撤退に追い込まれたパーティーのリーダーとして怒りを抱いたエルフの細剣士。
結果として不満を持つ同業者たちと挑み、アラッドにもボコられ……その後は特にいがみ合う様な関係にはならずに接していた。
「もう別の街に行くのか? お前たち、カルトロッサに来てからそんなに経ってないだろ」
シクラスはアラッドたち三人がカルトロッサに訪れた正確な日時は知らないが、まだ訪れてから半年も経ってないことは知っている。
街から街へ旅をするタイプの冒険者であっても、目的の街に到着してから数か月はその街に滞在することが多い。
「そうですね。でも、一応カルトロッサに訪れた目的は達成したので」
「それで、直ぐに別の目的地を見つけたということか」
「まぁ、そんなところですね」
「…………そうか」
シクラスは、アラッドの言葉が半分本当で、半分嘘であることを見抜いた。
今のアラッドの顔は、何かしらの目的を……成し遂げなければならない目標を持っている者が浮かべる表情をしていた。
「アラッドは、いずれはアルバース王国以外の場所にも向かうのか?」
「一応、いずれは別の国も冒険したいと思ってます。可能であれば、別の大陸にも行ってみたいですね」
「別の大陸か……怖くないのか?」
正直なところ、故郷の森の外に憧れて飛び出し、冒険者として活動を始めたシクラスとしては、確かに自分が生まれた大陸以外の大陸も気になる。
しかし、別の大陸に向かうということは、海という未知が過ぎる場所を越えていかなければならない。
「そうですね………………ふふふ。今更ながら、確かに恐ろしい場所なのだと思いました」
大陸から大陸へ移動するのであれば、当然船に乗って移動しなければならない。
クロならもしや水面を……といった考えは一旦置いておき、基本的に船に乗って行動しなければならないのだ。
アラッドは並の戦闘者以上の戦闘経験を持っているが、船の上での経験はゼロ。
海上、水中での戦闘経験も殆どない。
一応、その時が訪れたらと、色々と考えてはいるが、それでも実際に船上、海上、水中での戦闘を行い……イメージ通りに動けるとは限らない。
「それでも、どんな場所なのか気になるので、是非行ってみたいです」
「……恐れ知らずだな」
「恐ろしいとは思ってますよ。でも、それより好奇心が勝るので」
「確かに、私たちの背中を未知へと押してくれるのは、その感情だな……もし良かったら、出発前にもう一度手合せしてくれないか」
「良いですよ。今日は特に予定はありませんし、今から戦りましょう」
二人は訓練場に移動し、刃引きなしの細剣とロングソードを手に取り、審判ナシの状態で手合せを始めた。
「ッ!!! 相変わらず、速い、なッ!!」
「シクラスさんこそ、突きのスピード、速くなりました、か?」
「かもしれない、なッ!!」
シクラスはヴァジュラの一件アラッドたちにバカな絡み方をしてしまったのは、本当に自分が熱く……自己中心的な考えになり過ぎていたと反省した。
だが、それとハヌマーン率いる大量のハヌーマにボコされ、敗走に追いやられた悔しさを別。
後……当然と言えば当然だが、アラッドに自分と同じ考えを持った十人以上の同業者たちと挑み、完敗したことに関しても悔しさを感じていた。
それから今一度鍛え直し、いずれ再度ロッサの密林でハヌマーンと遭遇した際、今度は敗走せず、どうせ浮かべてるであろうニヤけ面をぶち抜くと決めている。
とはいえ、短期間でその差が埋まることはなく、手合せを始めてから約五分後、シクラスの細剣が弾かれ、アラッドのロングソードの刃が首元に添えられて終了。
「はぁ、はぁ……ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございました」
「……アラッドは、その歳で読みの力が半端ではないな。何か、特別な鍛え方でもあるのか」
「読みの力に関しては、多くの方と模擬戦をするしかないかと」
基本的にアラッドの相手の動きを読む力は人が聞けば、アホだろバカだろと言いたくなる経験と実戦を繰り返した末に得た力。
なので、本当にそこに関してアドバイス出来ることはない。
「そうか…………そうだな。エルフらしく、長くしぶとく生きて身に付けよう……いや、それでは駄目だな」
「? どうしてですか」
エルフという種族の寿命が長いという特徴を活かし、諦めずに高めようとする。
全くもって悪いところが見えなかった。
「今の仲間たちと、これから先……いつまで冒険出来るかは解らない。だからこそ、のんびりと歩む訳にはいかない」
仲間を失いたくない。
別れる時が来ても、それは仲間たちが引退する時にしたい。
そんなシクラスの思いを察し、アラッドは何故長くしぶとく生きて身に付けるというスタンスでは駄目なのか解った。
次の目的地はアンドーラ山岳の最寄り街、ゴルドスに決まった。
もしかしたら、ゴルドスまでの護衛依頼などがないかと、冒険者ギルドのクエストボードを見に来たアラッドだが、運良くお望みの依頼は張られていなかった。
とはいえ、本来の目的を考えれば、時間を掛けずにゴルドスへ向かうという選択肢はあり……というより、寧ろそちらの方が良かった。
「アラッドじゃないか。気になる依頼でもあるのか?」
「シクラスさん……いや、次に向かう目的地への護衛依頼があればと思って見てたんですよ」
アラッドに声を掛けてきた人物は、先日ガルーレがヴァジュラを従魔にした件に関して、その前にハヌマーン率いる大量のハヌーマにボコられ、撤退に追い込まれたパーティーのリーダーとして怒りを抱いたエルフの細剣士。
結果として不満を持つ同業者たちと挑み、アラッドにもボコられ……その後は特にいがみ合う様な関係にはならずに接していた。
「もう別の街に行くのか? お前たち、カルトロッサに来てからそんなに経ってないだろ」
シクラスはアラッドたち三人がカルトロッサに訪れた正確な日時は知らないが、まだ訪れてから半年も経ってないことは知っている。
街から街へ旅をするタイプの冒険者であっても、目的の街に到着してから数か月はその街に滞在することが多い。
「そうですね。でも、一応カルトロッサに訪れた目的は達成したので」
「それで、直ぐに別の目的地を見つけたということか」
「まぁ、そんなところですね」
「…………そうか」
シクラスは、アラッドの言葉が半分本当で、半分嘘であることを見抜いた。
今のアラッドの顔は、何かしらの目的を……成し遂げなければならない目標を持っている者が浮かべる表情をしていた。
「アラッドは、いずれはアルバース王国以外の場所にも向かうのか?」
「一応、いずれは別の国も冒険したいと思ってます。可能であれば、別の大陸にも行ってみたいですね」
「別の大陸か……怖くないのか?」
正直なところ、故郷の森の外に憧れて飛び出し、冒険者として活動を始めたシクラスとしては、確かに自分が生まれた大陸以外の大陸も気になる。
しかし、別の大陸に向かうということは、海という未知が過ぎる場所を越えていかなければならない。
「そうですね………………ふふふ。今更ながら、確かに恐ろしい場所なのだと思いました」
大陸から大陸へ移動するのであれば、当然船に乗って移動しなければならない。
クロならもしや水面を……といった考えは一旦置いておき、基本的に船に乗って行動しなければならないのだ。
アラッドは並の戦闘者以上の戦闘経験を持っているが、船の上での経験はゼロ。
海上、水中での戦闘経験も殆どない。
一応、その時が訪れたらと、色々と考えてはいるが、それでも実際に船上、海上、水中での戦闘を行い……イメージ通りに動けるとは限らない。
「それでも、どんな場所なのか気になるので、是非行ってみたいです」
「……恐れ知らずだな」
「恐ろしいとは思ってますよ。でも、それより好奇心が勝るので」
「確かに、私たちの背中を未知へと押してくれるのは、その感情だな……もし良かったら、出発前にもう一度手合せしてくれないか」
「良いですよ。今日は特に予定はありませんし、今から戦りましょう」
二人は訓練場に移動し、刃引きなしの細剣とロングソードを手に取り、審判ナシの状態で手合せを始めた。
「ッ!!! 相変わらず、速い、なッ!!」
「シクラスさんこそ、突きのスピード、速くなりました、か?」
「かもしれない、なッ!!」
シクラスはヴァジュラの一件アラッドたちにバカな絡み方をしてしまったのは、本当に自分が熱く……自己中心的な考えになり過ぎていたと反省した。
だが、それとハヌマーン率いる大量のハヌーマにボコされ、敗走に追いやられた悔しさを別。
後……当然と言えば当然だが、アラッドに自分と同じ考えを持った十人以上の同業者たちと挑み、完敗したことに関しても悔しさを感じていた。
それから今一度鍛え直し、いずれ再度ロッサの密林でハヌマーンと遭遇した際、今度は敗走せず、どうせ浮かべてるであろうニヤけ面をぶち抜くと決めている。
とはいえ、短期間でその差が埋まることはなく、手合せを始めてから約五分後、シクラスの細剣が弾かれ、アラッドのロングソードの刃が首元に添えられて終了。
「はぁ、はぁ……ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございました」
「……アラッドは、その歳で読みの力が半端ではないな。何か、特別な鍛え方でもあるのか」
「読みの力に関しては、多くの方と模擬戦をするしかないかと」
基本的にアラッドの相手の動きを読む力は人が聞けば、アホだろバカだろと言いたくなる経験と実戦を繰り返した末に得た力。
なので、本当にそこに関してアドバイス出来ることはない。
「そうか…………そうだな。エルフらしく、長くしぶとく生きて身に付けよう……いや、それでは駄目だな」
「? どうしてですか」
エルフという種族の寿命が長いという特徴を活かし、諦めずに高めようとする。
全くもって悪いところが見えなかった。
「今の仲間たちと、これから先……いつまで冒険出来るかは解らない。だからこそ、のんびりと歩む訳にはいかない」
仲間を失いたくない。
別れる時が来ても、それは仲間たちが引退する時にしたい。
そんなシクラスの思いを察し、アラッドは何故長くしぶとく生きて身に付けるというスタンスでは駄目なのか解った。
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