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八百五十四話 どうやって死にたい?

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(……誰か、覗いてるよな)

「? アラッド、どうかした?」

「………………」

「オッケー」

「了解」

何かを感じ取ったアラッドは、手のジェスチャーで考えを伝えた。

「「「ッ!!!!!!!!!!!!!!」」」

次の瞬間、ある方向に向かって、三人は本気の殺意を放った。

「ッ!!!!!」

(やはりかッ!!!!!!!)

本当に直感、本能が自分に視線を向けられているのを察知。
視線に殺意や戦意が籠ってない分、気付くのにかなり遅れた。

ただ、殺意がなく、戦意がない。
そんな視線を向けてくる存在とはいったい何なのか…………答えは、結果として例のワイバーンを生み出した風竜であった。

「逃がすか!!!!!!!!」

最悪、無音で飛び上がり、去って行くかもしれないという懸念から、アラッドはスティームとガルーレにも、自分と一緒にある方向に全力で殺気を飛ばしてほしいと頼んだ。

すると目論見通りある方向の木影から風竜が飛び上がった。
しかし、自分の存在がバレたからといって、立ち向かうことはなく、逃走一択。

「ッ!!!???」

アラッドは風竜の存在を感知した瞬間、全力ダッシュ……そして、左手の指先からオリハルコンの糸を超高速で伸ばした。
風の魔力を利用して空気抵抗を受けることなく伸びていき、極細の意図が風の片翼を貫いた。

「ぬぅうううぉりゃあああああああああッ!!!!!!!!」

貫いた糸を折り返して反対側から刺し、一瞬で解けないようにした後、アラッドは全力で引き戻しながら一本背負いを決めた。

「っ!!!!!?????」

風竜も必死に抵抗したが、ちょっとよそっと暴れただけで切れるほどオリハルコンの糸はやわではなく、結果的に思いっきり地面へと叩きつけられた。

「さてと……あっ、そういえば、結局風竜と誰が戦うか決めてなかったな」

じゃんけんで決めるにしても、今から行うには遅すぎる。

「ワゥ!!」

「ん? もしかして……こいつと戦りたいのか、クロ」

「ワゥ!!!」

「オッケー、良いぞ。ただ……その前に、ちょっと話したいことがある」

「…………」

維持し続けるには大量の魔力を消費するため、既にオリハルコンの糸は解除されている。

一応、逃走することは出来なくもない風竜だが、周囲にはスティームやガルーレ、ファルとヴァジュラもいるため、この包囲網を突破するのはスピード自慢のモンスターでもリスクが高過ぎた。

加えて、先程のオリハルコンの糸を利用した一本背負いによって地面に叩きつけられ、決して小さくないダメージを負っていたこともあり、風竜の思考から逃走という選択肢は既に消えていた。

「お前、話せるだろ」

「えぇ……そうですね。一応、あなたたち人間の言葉は喋れますよ」

「それは良かった。早速訊きたいんだが、ワイバーンたちに冒険者……戦闘者の狩り方を教えたのはお前だな」

「彼らが試行錯誤の末に思い付いた、とは思わないのですか」

絶対にあり得ない、とは言えない。
世の中そういった厄介過ぎる狩猟方法を思い付き、実行に至るモンスターも稀にいる。

ただ、それは稀も稀の話。

「ワイバーンとはいえ、ドラゴンの端くれだ。そんな連中が四体も、ドラゴンとしての誇りを捨てるような戦い方をするか?」

「それは、人間の世界で言う差別にあたるのではないですか」

「随分と頭が回るみたいだな。ストールの上位互換……は、言い過ぎか。それでも、全ての面で一回り上なのは確かか」

「ッ、ストールを知っているのですか」

風竜にとって、予想外の名前が人間の口から出てきた。

「……その反応、やっぱりストールの兄弟で、ボレアスの息子か」

「ッ、その口ぶり…………あなたは、親を殺した人間の子供か」

「その認識で合ってる。さて、話しの続きだが、お前はあのワイバーンたちを使って、何をするつもりだった」

「そこまで答える義理があると思いで?」

「ないだろうな。ただ……ないならないで、やれることはある」

クロと戦わせてやると約束した。
ただ、やはり情報は得ておきたい。

当然……クロもなんとなくではあるが、事情は理解している。

「お前の翼を貫いたのは、俺が生み出した糸だ。細さも調整することが出来る……頭が回るお前なら、場合によっては俺が何をしようとするか、理解出来るだろ」

「…………あなた、本当に人間ですか」

「人間の皮を被った鬼、悪魔にでも見えるか? ドラゴンにそう思われるっていうのは、ある意味光栄かもしれないな。それで、どういうつもりであいつらを育成した」

「……あなたたちが考えていることと、殆ど変わりませんよ」

(殆ど変わらない、か…………この感じだと、まだゴリディア帝国の連中はこいつに接触してないみたいだな)

アラッドの予想では、仮に目の前の風竜とゴリディア帝国の者が接触していれば、万が一拘束……もしくは瀕死に追い込まれた際に状況を打破出来る劇薬を渡されると考えていた。

だが、風竜は一向にそういった素振りを見せず、寧ろ死を受け入れてる様にすら見える。

「まぁ、これ以上は無駄か……それじゃあ風竜、これからクロと……俺の従魔と戦ってもらうぞ」

「? あなたたちは、私を殺したいのではないのですか?」

「そうだな。普通のワイバーンをあんな厄介な形に育成したお前は、是が非でもここでぶっ殺しておきたい。ただ、お前との戦いはクロに任せると今さっき約束したからな……それで、どうする。仮に拒否するなら、地獄を味わってもらってから死んでもらう」

「……あなた、人間以外の生物に生まれるべき存在だったのではないですか」

「文句があるなら、生命と魂の誕生に関わった者たちに伝えてくれ」

渋々受け入れた。
そう判断し、アラッドは風竜から離れ、変わりにクロがワクワク笑顔を……ある意味怖い笑顔を浮かべながら歩を進めた。
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