827 / 1,019
八百二十六話 仮に被ったら
しおりを挟む
「はぁ~~~~、今日も遭遇出来なかったわね」
「それなりに移動してるんだけどね」
基本的に昼食を食べる時しか休憩しないアラッドたちだが、結局探索二日目も風竜、ハヌマーン共に遭遇出来なかった。
「知能が高い個体なら、俺たち……というより、クロとファルにビビッて襲って来ないって可能性もあるな」
探索中、クロとファルにはなるべく強者オーラを零さない様にと頼んでいる二人の主人。
Aランクモンスターであるクロは言わずもがな、ストームファルコンのファルも多くのモンスターより格上の存在。
同じBランクモンスターと戦っても、これまで多くのモンスターと戦ってきた経験値の差で戦況を覆すことが可能。
「ちょっと賢いDランクとかCランクのモンスターがビビるなら解るけど、Bランクモンスターがビビったりする?」
「……個体による、としか言えないな。風竜はともかく、今俺たちが狙ってるもう一体はハヌマーン。ハヌーマの
上位種で、群れをつくるタイプだ。群れの長は強さや……カリスマ性? も大事だとは思うが、危機察知能力の高さが重要だ」
「群れを、同族を危機に晒さない為だね」
「そうだ。ハヌマーンがどれだけ同族に対して情を持って動いてるのかは知らないけどな」
「よくよく考えてみれば、確かにそれも群れのリーダーの仕事かぁ……けど、あのエルフの細剣士には襲い掛かったんだよね」
三人の脳裏に思い浮かぶは、ハヌマーンという存在を知る切っ掛けとなったパーティーのリーダーである、エルフの細剣士。
スティームは一目で実力者だと判断し、アラッドとガルーレは手合せ出来るなら手合せしてみたいと思うほどの強者。
加えて、エルフの細剣士がリーダーを務めるパーティーは計五人。
アラッドたちも三人と二体ではあるが、数は同じである。
「あのエルフの細剣士のパーティーを敗走に追い込んだ。それは解ってるけど、どういった状況でハヌマーンたちから襲撃を受けたかまでは解らないでしょ」
「他のモンスターとの戦闘を終えたタイミングを狙われたのかもしれない、可能性もあるってことか~~~……まっ、それも戦略の一つではあるよね~~」
かもしれないという可能性の話ではあるが、ガルーレは漁夫の利を狙う様な戦略を否定するつもりはなかった。
ガルーレは戦闘の、実戦の中で戦いの喜びを感じたいタイプではあるが、冒険者としては安全に……低リスクで標的を討伐して金を稼げた方が良いのは解っている。
「……あのエルフの細剣士に、どういう状況だったか詳しく聞いてみる?」
「それは止めといた方が良いよ。あれほど自分の不甲斐なさに怒りを感じてたんだ。こっちは情報収集のつもりでも、向こうからすれば喧嘩を売られてると捉えられるかもしれない」
「面倒ね~~~~……っ…………そうね。止めときましょうか」
あのエルフの細剣士と喧嘩が出来るなら、それはそれでラッキーじゃない? と思ったガルーレだったが、スティームの顔から苦笑いが消え……スンっとした表情で制止される流れが容易に頭の中に浮かんだ。
「情報がなくとも、探してればその内遭遇できるはずだ。ハヌマーンはあれだが、ハヌーマの匂いに関してはクロが覚えてる。クロの嗅覚が届く範囲であれば、直ぐに気付くはずだ」
「助かるわ~~。私も多少は感じ取られるけど、細かくは解らないからね」
「…………ねぇ、アラッド。仮にさ、被ったらどうするの」
他の同業者たちと運悪く被ってしまったらどうするのか。
パーティーの冷静さ担当であるスティームはそこが少し心配だった。
「そうだな…………基本的には、先に攻撃を仕掛けた、もしくは当てたパーティーの獲物になる。ハヌマーンの探索はクロに任せて、俺たちは周囲に同業者がいないかを確認しないとな」
「存在を感知した次第、遠距離攻撃を放つと」
「そうだ。まっ、それは俺がやるよ」
アラッドは攻撃魔法による遠距離攻撃がそれなりに出来るだけではなく、糸を使った遠距離攻撃も可能。
(もしかしたら、あのエルフの細剣士がリーダーのパーティーと被ってしまうかもしれないが、悪いが譲るつもりはない)
ハヌマーンに襲撃され、敗走してギルドに戻って来たエルフの細剣士たち。
その際、悔しさと怒りが爆発しかけていたが、知人である同業者からの言葉で、冷静さを取り戻した。
だが、アラッドはなんとなく解っていた。
あの悔しさが、怒りが……そう簡単に消える訳がないと。
敗走という選択肢を選んでしまった、仲間達が必要以上に負傷してしまった。
リーダーだけにそれらの責任があるとは言えない。
誰かだけの責任にしない為に、パーティーメンバーたちがお互いをカバーし合う。
ただ…………それでも責任を感じるのが、パーティーメンバーの命を預かる立場にいるリーダーである。
ガキ大将、暴君の様なリーダーであればひとまず自分が無事であることを喜ぶかもしれないが、エルフの細剣士は違う。
多少のプライドの高さはあれど、パーティーメンバーが大きな怪我を終えた、冷静さを保ちながらも無茶をして確実に標的を仕留めにいく。
「……恨みっこなしの世界だからな」
今回ハヌマーンと戦うのはスティームではあるが、それでも他のパーティーに譲るつもりはなかった。
「それなりに移動してるんだけどね」
基本的に昼食を食べる時しか休憩しないアラッドたちだが、結局探索二日目も風竜、ハヌマーン共に遭遇出来なかった。
「知能が高い個体なら、俺たち……というより、クロとファルにビビッて襲って来ないって可能性もあるな」
探索中、クロとファルにはなるべく強者オーラを零さない様にと頼んでいる二人の主人。
Aランクモンスターであるクロは言わずもがな、ストームファルコンのファルも多くのモンスターより格上の存在。
同じBランクモンスターと戦っても、これまで多くのモンスターと戦ってきた経験値の差で戦況を覆すことが可能。
「ちょっと賢いDランクとかCランクのモンスターがビビるなら解るけど、Bランクモンスターがビビったりする?」
「……個体による、としか言えないな。風竜はともかく、今俺たちが狙ってるもう一体はハヌマーン。ハヌーマの
上位種で、群れをつくるタイプだ。群れの長は強さや……カリスマ性? も大事だとは思うが、危機察知能力の高さが重要だ」
「群れを、同族を危機に晒さない為だね」
「そうだ。ハヌマーンがどれだけ同族に対して情を持って動いてるのかは知らないけどな」
「よくよく考えてみれば、確かにそれも群れのリーダーの仕事かぁ……けど、あのエルフの細剣士には襲い掛かったんだよね」
三人の脳裏に思い浮かぶは、ハヌマーンという存在を知る切っ掛けとなったパーティーのリーダーである、エルフの細剣士。
スティームは一目で実力者だと判断し、アラッドとガルーレは手合せ出来るなら手合せしてみたいと思うほどの強者。
加えて、エルフの細剣士がリーダーを務めるパーティーは計五人。
アラッドたちも三人と二体ではあるが、数は同じである。
「あのエルフの細剣士のパーティーを敗走に追い込んだ。それは解ってるけど、どういった状況でハヌマーンたちから襲撃を受けたかまでは解らないでしょ」
「他のモンスターとの戦闘を終えたタイミングを狙われたのかもしれない、可能性もあるってことか~~~……まっ、それも戦略の一つではあるよね~~」
かもしれないという可能性の話ではあるが、ガルーレは漁夫の利を狙う様な戦略を否定するつもりはなかった。
ガルーレは戦闘の、実戦の中で戦いの喜びを感じたいタイプではあるが、冒険者としては安全に……低リスクで標的を討伐して金を稼げた方が良いのは解っている。
「……あのエルフの細剣士に、どういう状況だったか詳しく聞いてみる?」
「それは止めといた方が良いよ。あれほど自分の不甲斐なさに怒りを感じてたんだ。こっちは情報収集のつもりでも、向こうからすれば喧嘩を売られてると捉えられるかもしれない」
「面倒ね~~~~……っ…………そうね。止めときましょうか」
あのエルフの細剣士と喧嘩が出来るなら、それはそれでラッキーじゃない? と思ったガルーレだったが、スティームの顔から苦笑いが消え……スンっとした表情で制止される流れが容易に頭の中に浮かんだ。
「情報がなくとも、探してればその内遭遇できるはずだ。ハヌマーンはあれだが、ハヌーマの匂いに関してはクロが覚えてる。クロの嗅覚が届く範囲であれば、直ぐに気付くはずだ」
「助かるわ~~。私も多少は感じ取られるけど、細かくは解らないからね」
「…………ねぇ、アラッド。仮にさ、被ったらどうするの」
他の同業者たちと運悪く被ってしまったらどうするのか。
パーティーの冷静さ担当であるスティームはそこが少し心配だった。
「そうだな…………基本的には、先に攻撃を仕掛けた、もしくは当てたパーティーの獲物になる。ハヌマーンの探索はクロに任せて、俺たちは周囲に同業者がいないかを確認しないとな」
「存在を感知した次第、遠距離攻撃を放つと」
「そうだ。まっ、それは俺がやるよ」
アラッドは攻撃魔法による遠距離攻撃がそれなりに出来るだけではなく、糸を使った遠距離攻撃も可能。
(もしかしたら、あのエルフの細剣士がリーダーのパーティーと被ってしまうかもしれないが、悪いが譲るつもりはない)
ハヌマーンに襲撃され、敗走してギルドに戻って来たエルフの細剣士たち。
その際、悔しさと怒りが爆発しかけていたが、知人である同業者からの言葉で、冷静さを取り戻した。
だが、アラッドはなんとなく解っていた。
あの悔しさが、怒りが……そう簡単に消える訳がないと。
敗走という選択肢を選んでしまった、仲間達が必要以上に負傷してしまった。
リーダーだけにそれらの責任があるとは言えない。
誰かだけの責任にしない為に、パーティーメンバーたちがお互いをカバーし合う。
ただ…………それでも責任を感じるのが、パーティーメンバーの命を預かる立場にいるリーダーである。
ガキ大将、暴君の様なリーダーであればひとまず自分が無事であることを喜ぶかもしれないが、エルフの細剣士は違う。
多少のプライドの高さはあれど、パーティーメンバーが大きな怪我を終えた、冷静さを保ちながらも無茶をして確実に標的を仕留めにいく。
「……恨みっこなしの世界だからな」
今回ハヌマーンと戦うのはスティームではあるが、それでも他のパーティーに譲るつもりはなかった。
603
お気に入りに追加
6,107
あなたにおすすめの小説
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~
樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。
無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。
そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。
そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。
色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。
※この作品はカクヨム様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる