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七百二十八話 どうせ後で

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「ふ、二人とも本気?」

「数時間ってことは、三時間ぐらいはかかるってことだろ。なら、行って帰ってを二時間以内ぐらいで済ませれば問題無いだろ」

アラッドは母から誕生日プレゼントに貰った懐中時計がある。
それを持ち歩いていれば、うっかり店を周り過ぎて祝勝会に送れるといったことは起こらない。

「んじゃ、行くかアッシュ」

「はい!」

リエラ・カルバトラとの試合に勝利した時よりもテンションが高いアッシュ。

スティームはまだ共に行動し始めて短期間ではあるが、その様子を見てアッシュらしいな……と思うと同時に、慌てて二人に付いて行った。

「ブレないね~~~。フローレンスさんはどうするの?」

「そうですね……特にすることもありませんし、彼らに付いて行きましょうか」

ソルやルーナからすれば、先程の戦闘で消耗した体力をしっかり回復してほしい。
頭部から血を流していたのだから、祝勝会までゆっくり休んでいて欲しかったが……次、いつナルターク王国を訪れるか解らない、という気持ちは理解出来るた、大人しく付いて行った。


「っ!!?? か、彼らは何処に行きましたの!!!」

数分後、ラディアやライホルトと共にアラッドたちが観戦していた場所を訪れたリエラ。

「そのようだな」

「そうみたいですね」

「お二人とも、どうしてそんな冷静なの!!」

ライホルトは……少々、用がある人物はいた。
しかし、そこまで焦る必要はない。

ラディアは特に重要な用があるわけでもない。

ただ……まだ、全くアッシュの事を諦めていないリエラだけが、焦る必要があった。

「そう言われてもな。この場に居なくとも、後で行われる祝勝会で彼らと会えるではないか」

「…………そ、そうでしたね」

数時間後になれば、再び会うことが出来る。
基本的に、その祝勝会にアラッドたちが参加しないという選択肢はない。

故に、必然的に数時間後には再び顔を合わせることになる。

一応……その祝勝会に関して、リエラたちは出席か欠席を選ぶことができるが、リエラは一ミリも欠席しようとは考えていなかった。
それはラディアやライホルトも同じだった。

「リエラ、それまでに祝勝会に着ていくドレスをどれにするか考えていればいいのではないか?」

「っ! そうですね。非常に良い考えですわ!!! では、また後で!!!!!」

予定が決まったリエラは速足で何処かに行ってしまった。

「……まだ学生だから、といったところか。まっ、元気なのは良い事だ」

「そうですね。ところで、ライホルトさんもライホルトさんで、あの中の誰かに用があったのではないですか?」

「あぁ、そうだな。しかし、それも祝勝会で会えば済む話だ。そう言うお前は、彼らに用はないのか、ラディア」

ラディアは対戦相手であるアラッドや、その弟であるアッシュ……ライホルトと戦ったフローレンスに特別強い関心はなかった。

ただ……強いて言えば、アラッドと少し話してみたい気持ちはある。

「……実際に戦ったあの人、アラッドでしたか。彼とは少し話してみたいですね」

「それは、精霊剣が彼を選ぼうとしたからか?」

「はい、その通りです」

リエラの様に、自分を倒した相手に恋心が芽生えることはなかったラディア。

ただ……自分を倒しただけではなく、精霊剣が彼を選ぼうとした。
結局精霊剣、ウィルビアはラディアのところに戻ってはきたが、ラディアにとって自身の相棒である精霊剣が別の人物を主人として選ぼうとした……それは、彼女の人生の中で一番の衝撃だった。

(知りたい……彼は、どの様な道を進み、あれほどの力を手に入れたのか)

ラディア・クレスターは力に囚われた冒険者、というわけではない。

それでも、他国の人物とはいえ、本当に自分と渡り合える冒険者がいるのか……そんな見方によっては傲りとも言える考えを持っていた。
アラッドの情報を知り、恐ろしい人物だとは思いはしたものの、闘志が揺らぐことはなかった。

それでも結果として、アラッドと戦い……その差を思い知らされた。

「彼には、クロという従魔がいるようですが、私との戦闘では一切出しませんでした」

「そういえばそうだったな。一対一の勝負に、従魔を連れ込むのは卑怯だと思ったのではないか?」

「……確かに、形としては一対二になるでしょう。しかし、私はそれにとやかく言うつもりはありませんでした」

「ふっふっふ、そうだろうな」

ライホルトとラディアは友人……と言えるほど距離が近いわけではないが、同じ貴族界を生きていた者であり、共に実家が武家といえることもあって、それなりに面識があった。

「おそらくだが、彼はこういった場での戦闘に従魔を連れ込むことを良しとしないタイプなのだろう」

「私と同じ冒険者ではあるけど、騎士道精神も持ち合わせていると?」

「ふむ……………彼の事をバカにするつもりではないが、おそらくそういった考えは持ち合わせていないと思う。ただ、純粋に強き相手と戦う時は……相手が同じく従魔を従えていない限り、一人で戦いたいのだろう」

「……言い方が少しあれですけど、戦闘狂ということでしょうか」

「随分と性格が良い戦闘狂、という事だな」

性格が良い戦闘狂。

言葉として少しおかしくないかと思うも、解らなくもないラディアは小さな笑みを零した。
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