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七百二十七話 男も女も関係無い

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「だが、最後……あの岩男の斬撃に拳をかますのは、漢気があって良かったと思うぞ」

「っ……ふふ、そうですか」

「アラッド、解ってるとは思うけど、フローレンスさんは女性だよ」

「バカだな~、スティーム。漢気ってのに、性別は関係無いんだよ」

漢気に性別は関係無い。
そんな友人の言葉に……スティームは解る様な解らないような顔になる。
アッシュもいまいち解っておらず、三人の中ではガルーレだけがアラッドの言葉を理解しており、何度もうんうんと頷いていた。

「何はともあれ、良い試合だった」

「……あなたにそう言われるのは、騎士として……一人の戦いを生業とする者として、心の底から嬉しいと感じますね」

「…………アホか、大袈裟過ぎだ。そういうのは、陛下から言われたりした場合の話だろ」

フローレンスが心の底から嬉しいと思っていると、本心を顔に出していることで、アラッドは顔を背けながらそれは違うだろと否定した。

「そうですね。しかしそれはそれ、これはこれというものです。アラッド、あなたは自身が騎士の爵位を得ていることを忘れてしまっていませんか」

「……確かに忘れていたな。だが、それがどうした」

「同じ騎士として、上に居る者に褒められるのは、誰だって嬉しいものですよ」

フローレンスが序列、地位ではなく実力を指しているのは解る。
それは解るが、アラッドとしては色々と勘弁してほしいという思いが顔に表れていた。

「看板してくれ。お前がどう思うが、それはお前の自由だが、あまり大きな声で口に出すなよ」

「えぇ、解っていますよ」

古い友人、腐れ縁。
そんな雰囲気を醸し出す二人を見て……ソルとルーナは嫉妬の視線を向けることしか出来なかった。

(……やっぱり、割と合ってるのかな)

アッシュは基本的に恋愛云々に興味はない。
自分の恋愛にも、他人の恋愛にも興味がない。

唯一興味があるとすれば、一番身近な人物である双子のシルフィーぐらいなもの。

だが、自分が敬意を持つ兄、アラッドがいったい誰と結ばれるのか……それはそれで気になる恋愛だった。
パッと見ではアラッドが一方的に避けている、好いていないように見えるが、外から観ていると、決して悪い雰囲気とは思えない。

「三人とも、見事であった!!!!!!」

「「「「「「「っ!!??」」」」」」

いつの間にか特別観客席から移動していたアルバース国王。

直ぐにアラッドたちは膝を付こうとするが、直ぐに立ったままで構わないと制する。

「よいよい、今はただお前たちの活躍を祝いたいだけだ。三人とも……良く戦ってくれた」

アッシュが先程口にした通り、結果だけ見れば三戦三勝……完勝と言える結果である。
しかし、アッシュはリエラが騎士としてのプライドを捨て、負けを認めなければ破れた可能性は十分あり得る。

アラッドとフローレンスも……死の危機を感じた瞬間はあった。
内容を見れば、とても完勝とは言えず、それをアルバース国王も解っていたからこそ、心の底から三人を労いたかった。

「アラッド兄さんとフローレンスさんは圧倒に近かったですが、僕なんかは本当にギリギリでしたが」

「何を言うか、アッシュよ。お前はまだ十三だったか。対戦相手のリエラ・カルバトラは十八。通常、その差は才に溢れる者であっても容易に埋められるものではない。だが、お前はその差を粉砕した……思うところはあるだろう。しかし、紛れもない偉業を果たしたことに変わりはない」

「……有難きお言葉です」

国王という、国のトップからここまで褒められては、素直に受け入れるしかない。
それが解らない程、アッシュは一般常識が抜けてはいなかった。

(本当に、素晴らしき偉業を果たした…………この少年は、おそらくその価値を解っていないだろう。それはそれでアラッドの弟らしくはあるが)

アルバース国王が思う通り、アッシュは国王からの褒め言葉を受け入れるも、とりあえず高価なモンスターの素材を手に入れることが出来て嬉しい!! としか思っていなかった。

中等部の二年生が、他国の学生最強である高等部の三年生をタイマン勝負で倒した。
その価値を、衝撃を……正確に理解出来ていなかった。

仮にアッシュがアラッドの弟であり、フールの息子でなければ……各騎士団が、なんとしてでも自分の団に入団してもらおうと動く。
それほどの価値が……アッシュの才に、力にはある。
だが、よほどのバカでなければ、無理矢理動こうとすればAランクモンスターという怪物をほぼソロで倒したスーパーユーティリティーファイターのアラッドと、烈火の剣豪であるフールが本気で潰しに来ると解る。

「これより数時間後には祝勝会を開く。それまでゆっくり休んでいてくれ」

勝者たちにそう伝えると、アルバース国王は何処かに行ってしまった。

「休む、ねぇ……どうする、お前ら」

「アラッド兄さん、僕はもう少し王都のマジックアイテムが売っている店が見たいです」

「そうか。なら、少しだけ出掛けるか」

激闘を終えた後だというのに、怪物兄弟は驚くほど元気だった。
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