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七百十九話 無自覚?
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「せっかく勝利したのに、随分と浮かない顔ですね」
「フローレンスか……なんとなく、解るだろ」
リングへ向かう途中で顔を合わせたアラッドフローレンス。
「代表戦に参加したという時点で、話題性は十分だと思いますが」
「かもしれないな。ただ…………あれは、駄目だろ。お前で例えるなら、契約してる光の精霊が浮気しそうになったもんだぞ」
「浮気、ですか……それは、嫌ですね」
「そういうのじゃない……いや、それはそうなんだろうけどよ」
「また変な面倒事が舞い込んで来た、という事ですね」
解っていた。
フローレンスは、人によっては少々のんびりしてる様に思われるが、そういった事が解らない程のんびりふわふわはしてない。
「そうだ。ったく……お前、あれ解ってたのか?」
「いえ、知りませんでした。精霊剣を持つ者が代表に参加すること。精霊剣の使用者があそこまで強力な力を発揮出来ること。そして、精霊剣が主を変えようとすることがあると……全て、知りませんでした」
「そうか」
ここでアラッドは、フローレンスが特に自分に対して何かを隠している、とは思わない。
信用しているのか、と問われればアラッドは否定するものの、本人が自覚してないだけ。
「…………どういう面倒に発展すると思う」
「何かしらの理由を付けて、アラッドに接近してくるかもしれませんね」
「接近、ねぇ……クソ怠いな。まぁ良い……満足する戦いは出来たんだ。多少の面倒ぐらい自力でなんとかしないとな」
満足する戦いが出来た。
その言葉を本人の口から聞いたフローレンスは、観客席から見ていた時と同じく……対戦相手である、ラディア・クレスターに嫉妬した。
(いけませんね。私もこれから強敵と戦うというのに)
アッシュは……結果としてあっという間に勝負を終わらせたが、実際のところ両者の間に圧倒的な差があったわけではない。
自力で肉体の限界を越えるという切り札がなければ、アッシュの方が劣っていたのは間違いない。
アラッドも最後はアッシュの言う通り、ややズルでは? と言いたくなる方法で動き出したが、それでもアラッドを満足させることが出来た。
「それじゃあ、俺は観客席に戻る。あんたに必要ねぇとは思うが、頑張れよ」
「っ…………えぇ、ありがとう」
不意に伝えられた言葉は、フローレンスにとって……貰うことがないと思っていた人物からのエール。
嬉しくないわけがなかった。
「ただいま」
「おかえり、アラッド」
「おかえり~~~。超ヤバかったね、アラッド!!」
「ガルーレさんの言う通り、ヤバかったですね、アラッド兄さん」
スティームたちに労われ、更に疲れが押し寄せたのか……力なく椅子に腰を下ろす。
「あぁ……そうだな。正直、ヤバかったな」
「本当に強かったよね。致命傷を与えられたと思ったら、いきなり復活? したし」
「だな。俺もあの一刀で終わったと思ったんだが、まさか精霊剣に封印されている精霊に乗っ取られて復活するとはな……おそらく、君肉を引き締めて無理矢理止血した。もしくは、おそらく封印されているのは水の精霊なら、血も液体ということで出血を抑えていたのかもしれないな」
アラッドの考察に、三人とも納得した表情を浮かべるも、ふとアッシュは気になっていたことを尋ねた。
「アラッド兄さん。精霊剣に封印されていた精霊が使用者の意識を乗っ取って復活するのは、反則だと思いませんか」
「ん? それは………………そうかもなしれないな。つっても、基本的にあり得ない、例にない状況だったはずだ。それに、外部の連中が何かをして自身の意識をあの人に移して復活したとかならともかく、乗っ取った精霊は装備していた精霊剣に封印されてる奴だからな。一応ルール違反ではないとは思う、かな」
ぶっちゃけなところ、アラッドは「虎〇と宿〇かよ!!」とツッコミたいところだが、やはりもう一度状況を振り返っても、反則だとは思わない。
ただ……他の対戦相手であれば、クレームという名の怒号が飛んでもおかしくないという考えはあった。
「そうですか……アラッド兄さんがそう言うなら、僕はもう何も言うことはありません。ただ、アラッド兄さん。最後……何かしましたか」
「何か、っていうのはどういう事だ?」
「最後の最後、速くて全てを把握出来たわけではないですけど、これまで見てきたアラッド兄さんとは、少し違う様に見えて」
「ふむ…………」
試合を終わらせる為に放った最後の攻撃。
その攻撃を放つ際、アラッドは……躊躇っていた一歩を踏み込んだ。
だが、その際に使用していた強化系のスキルや狂化。
纏っていた魔力の属性は雷であり、それらの何かが変化した感覚はなかった。
(狂化のスキルも……何か新しいスキルに変わってはいない。躊躇っていた一歩を踏み込んだ感覚はあったが……身体能力が上がった、それだけではないのか?)
自身の体に全く変化がなかったとは思わない。
それでも、明確に何が変わったのかは、本人も理解出来ていなかった。
「正直、俺自身は何が変わったのかは、解らない」
その言葉に、声に、表情に……嘘はない。
ただ、アッシュと同じく、スティームも最後の一撃を放つ際に、アラッドに何かしらの変化があったと感じていた。
「フローレンスか……なんとなく、解るだろ」
リングへ向かう途中で顔を合わせたアラッドフローレンス。
「代表戦に参加したという時点で、話題性は十分だと思いますが」
「かもしれないな。ただ…………あれは、駄目だろ。お前で例えるなら、契約してる光の精霊が浮気しそうになったもんだぞ」
「浮気、ですか……それは、嫌ですね」
「そういうのじゃない……いや、それはそうなんだろうけどよ」
「また変な面倒事が舞い込んで来た、という事ですね」
解っていた。
フローレンスは、人によっては少々のんびりしてる様に思われるが、そういった事が解らない程のんびりふわふわはしてない。
「そうだ。ったく……お前、あれ解ってたのか?」
「いえ、知りませんでした。精霊剣を持つ者が代表に参加すること。精霊剣の使用者があそこまで強力な力を発揮出来ること。そして、精霊剣が主を変えようとすることがあると……全て、知りませんでした」
「そうか」
ここでアラッドは、フローレンスが特に自分に対して何かを隠している、とは思わない。
信用しているのか、と問われればアラッドは否定するものの、本人が自覚してないだけ。
「…………どういう面倒に発展すると思う」
「何かしらの理由を付けて、アラッドに接近してくるかもしれませんね」
「接近、ねぇ……クソ怠いな。まぁ良い……満足する戦いは出来たんだ。多少の面倒ぐらい自力でなんとかしないとな」
満足する戦いが出来た。
その言葉を本人の口から聞いたフローレンスは、観客席から見ていた時と同じく……対戦相手である、ラディア・クレスターに嫉妬した。
(いけませんね。私もこれから強敵と戦うというのに)
アッシュは……結果としてあっという間に勝負を終わらせたが、実際のところ両者の間に圧倒的な差があったわけではない。
自力で肉体の限界を越えるという切り札がなければ、アッシュの方が劣っていたのは間違いない。
アラッドも最後はアッシュの言う通り、ややズルでは? と言いたくなる方法で動き出したが、それでもアラッドを満足させることが出来た。
「それじゃあ、俺は観客席に戻る。あんたに必要ねぇとは思うが、頑張れよ」
「っ…………えぇ、ありがとう」
不意に伝えられた言葉は、フローレンスにとって……貰うことがないと思っていた人物からのエール。
嬉しくないわけがなかった。
「ただいま」
「おかえり、アラッド」
「おかえり~~~。超ヤバかったね、アラッド!!」
「ガルーレさんの言う通り、ヤバかったですね、アラッド兄さん」
スティームたちに労われ、更に疲れが押し寄せたのか……力なく椅子に腰を下ろす。
「あぁ……そうだな。正直、ヤバかったな」
「本当に強かったよね。致命傷を与えられたと思ったら、いきなり復活? したし」
「だな。俺もあの一刀で終わったと思ったんだが、まさか精霊剣に封印されている精霊に乗っ取られて復活するとはな……おそらく、君肉を引き締めて無理矢理止血した。もしくは、おそらく封印されているのは水の精霊なら、血も液体ということで出血を抑えていたのかもしれないな」
アラッドの考察に、三人とも納得した表情を浮かべるも、ふとアッシュは気になっていたことを尋ねた。
「アラッド兄さん。精霊剣に封印されていた精霊が使用者の意識を乗っ取って復活するのは、反則だと思いませんか」
「ん? それは………………そうかもなしれないな。つっても、基本的にあり得ない、例にない状況だったはずだ。それに、外部の連中が何かをして自身の意識をあの人に移して復活したとかならともかく、乗っ取った精霊は装備していた精霊剣に封印されてる奴だからな。一応ルール違反ではないとは思う、かな」
ぶっちゃけなところ、アラッドは「虎〇と宿〇かよ!!」とツッコミたいところだが、やはりもう一度状況を振り返っても、反則だとは思わない。
ただ……他の対戦相手であれば、クレームという名の怒号が飛んでもおかしくないという考えはあった。
「そうですか……アラッド兄さんがそう言うなら、僕はもう何も言うことはありません。ただ、アラッド兄さん。最後……何かしましたか」
「何か、っていうのはどういう事だ?」
「最後の最後、速くて全てを把握出来たわけではないですけど、これまで見てきたアラッド兄さんとは、少し違う様に見えて」
「ふむ…………」
試合を終わらせる為に放った最後の攻撃。
その攻撃を放つ際、アラッドは……躊躇っていた一歩を踏み込んだ。
だが、その際に使用していた強化系のスキルや狂化。
纏っていた魔力の属性は雷であり、それらの何かが変化した感覚はなかった。
(狂化のスキルも……何か新しいスキルに変わってはいない。躊躇っていた一歩を踏み込んだ感覚はあったが……身体能力が上がった、それだけではないのか?)
自身の体に全く変化がなかったとは思わない。
それでも、明確に何が変わったのかは、本人も理解出来ていなかった。
「正直、俺自身は何が変わったのかは、解らない」
その言葉に、声に、表情に……嘘はない。
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