上 下
717 / 1,019

七百十六話 勝つ意味がある

しおりを挟む
SIDE アラッド

(こいつが、精霊剣、か……話だけは、聞いたことが、あるが……なるほど、な。何かあると、思ってたが、思わず意識してしまう、訳だ)

心中、冷静なのは良い事だが、現実問題押され始めたアラッド。

「変わらず、余裕そうな顔、ね。でも、もう少しすれば、崩れるでしょう、ね」

「はっはっは。そいつは、どうだろう、な」

明らかにやせ我慢としか思えない言葉で口にするアラッド。

(ここまで身体能力が、上がるって事は、おそらく……渦雷より、ランクは上か?)

精霊剣とは、鍛冶師が造ろうと思って造れる武器ではなく、錬金術師が協力したとしても、特定の存在がいなければ造るのは不可能。

その特定の存在とは、名前から察せる通り、精霊である。
精霊を封じ込める……もしくは精霊が非常に好意的である場合、どういうの上で武器に憑いてもらうことで、ようやく造り上げることができる。

非常に造り上げることが困難な武器であるため、アラッドも実物を見るのは今回が初めて。

(まぁ、でも……駆ければ良いだけ、だ!!!)

ラディアとの試合が始まってから、アラッドはまだ渦雷が持つ能力を使用していなかった。

(っ!? スピードが、上がった?)

過ぎにアラッドの変化に気付くも、まだややラディアの方が有利な戦況だが……時間が経つにつれ、アラッドに向けて放つ攻撃が徐々に躱されていく。

動けば動き続けるほど加速する。
一歩間違えれば暴走列車になり、逆に良いカウンターを食らってしまいそうだが、アラッドはそんな失敗をしてしまうおっちょこちょいではない。

「随分と、面白い剣を使ってるのですね」

「っ……それはこっちのセリフ、ですよ」

戦況を盛り返せたと思った瞬間、ラディアが精霊剣に封印されている精霊の力を借りるだけではなく、開放して更に強化。

(この感じ、多分魔法使いとしても超強くなってるよな)

ラディアが扱う精霊剣の名はウィルビア。
水の精霊が封印されており、ラディアの得意な属性魔法も水であるため、クレスター家の家宝的な精霊剣を所有することを許された。

(つか、髪が若干逆立って……悟〇がスーパーサ〇ヤ人に変化したみたいな感じ、だな)

心の中であれこれ考えているアラッドだが、実際のところ……あまり余裕はなく、渦雷によって加速したアラッドのスピードに一気に追いつき、所々に切傷が増え始めた。

(っ……参加して、良かったな)

心の底からそう思い、笑みを零し………………狂化を発動した。

「ゥ゛ォォオオオアアアアアアア!!!!!!」

「っ、ハァアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

ほんの一瞬、ほんの一瞬ではあるがアラッドが冷静な剣士の表情から闘志を全開にさせて斬り掛かる戦士へと変貌した様子に圧されたものの、そのまま気圧されることなく前に踏み込み、斬り結ぶ。


「うわああぁ……これ、絶対にお金払ってでも観たい戦いってやつだよね」

「そう、だね…………うん、本当にその通りだと思う」

「観戦費、金貨五枚とかにしても、観客は満足しそうですね」

一つの試合を観るのに金貨五枚を払うなど……基本的に正気の沙汰ではない。

懐に余裕がある冒険者や騎士、傭兵であっても金貨五枚を消費するなら、その金で美味い飯を食べるか娼館で嬢を抱く。

しかし……二人の試合は、アッシュの言う通り観戦費が金貨五枚であっても、観る価値があると多くの者が断言する。

「「………………」」

そんな中、スティームとフローレンスの二人は、途中から口を閉じ……ジッとアラッドとラディアの試合を……羨ましそうな目で見始めた。

(…………っ、羨ましいと、思ってしまう)

(こんな事を考えるのは、非常にナンセンスだと解っていますが……やはり、今アラッドと戦っている方の事が……羨ましく思ってしまいますね)

二人とも、過去にアラッドと本気で戦ったことがある。
そういった過去があるからこそ、もう一度アラッドと本気で戦っていたい、あんな戦いを自分もしたいという気持ちがある。

だからこそ、本日初めて出会って、自国の代表として戦っているラディアに嫉妬するのはおかしい。
それはスティームとフローレンスも解っている、解ってはいるが……胸の内であれこれ考え、時に叫ぶのは二人の自由である。


(っ、本当に、速い!!! しかも雰囲気は荒々しく、なってるのに、振り下ろされる、斬撃は……どれも、的確!!!!)

(見た目で測れないことなんて、解ってるのに……どっから、その力が出てるんだって、ツッコみたく、なるなッ!!!!!!)

二人とも本気モードに入ってから、攻撃魔法による攻撃を一切止め、再び剣戟だけの戦闘スタイルになる。

アラッドは、本来ロングソードだけではなく体技や糸といった別の武器、攻撃方法も戦いに組み込める変態なのだが……あえて、渦雷という相棒だけで戦い続ける。

(使え、そうでは、あるけど……間違い、ない。そこまで差がある、わけではないが、あの時のフローレンスより、上だな)

純粋な剣技の腕、身体能力。

あの頃のフローレンスはまだ精霊同化が未完成ということもあったが、アラッドが本気になったのは間違いなかった。

(だからこそ、クロなしで勝つ意味があるッ!!!!!!)

更に荒ぶるアラッドの姿は……まさに戦鬼。
そんな好敵手に昂りに、ラディアも引かれ……戦いは更に加速。

だが、勝負を終わらせる一振りが…………肉を斬り裂いた。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

殿下、恋はデスゲームの後でお願いします

真鳥カノ
ファンタジー
気付けば乙女ゲームの悪役令嬢「レア=ハイラ子爵令嬢」に転生していた! いずれゲーム本編である王位継承権争いに巻き込まれ、破滅しかない未来へと突き進むことがわかっていたレア。 自らの持つ『祝福の手』によって人々に幸運を分け与え、どうにか破滅の未来を回避しようと奮闘していた。 そんな彼女の元ヘ、聞いたこともない名の王子がやってきて、求婚した――!! 王位継承権争いを勝ち抜くには、レアの『幸運』が必要だと言っていて……!? 短編なのでさらっと読んで頂けます! いつか長編にリメイクします!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

処理中です...