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七百二話 ツンじゃないよ

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「では、行きましょう」

「……随分とあっさり説得できたんだな」

ガルーレがアラッドとスティームが散策に付いて行く条件を伝えると、フローレンスは直ぐにソルとルーナに対し、自分とは別行動をするようにと伝えた。

当然、二人は反発。
適当な理由ではなく納得出来ず、フローレンスは隠すことなくアラッドが提示した条件だからと伝えた。

その瞬間に二人はアラッドが居るであろう部屋の方に強烈な眼光を飛ばすが、フローレンスはそれを見た瞬間「そう言ったところが問題の原因になるから、アラッドはあなた達とは別行動すべきと考えたのですよ」と、見事に利用した。

普通に考えれば……納得する理由には、やや足りない。
それでもルーナの方はまだ頭が回るため、奥歯を食いしばりながらも了承し、相方であるソルを説得した。

「そうですね。ソルの方は少しあれですが、ルーナは考える頭を有していますので」

「……確かに。考える力に関しては、魔法使いの方が優秀だったな」

一対二で行った模擬戦の内容を思い出し、ルーナがソルを説得したことに納得するアラッド。

(とはいえ、視線は集まるな。四割ぐらいはクロとファルだが、残りの六割は完全にガルーレとフローレンスがいるからだろうな)

クソ面倒くさいと思いながらも、もうなるべく顔に出さないように心がける。

フローレンスが自分が提示した条件を飲んでくれたのであれば、さすがに気だるげな表情を表に出し続け、空気を下げる訳にはいかなかった。

「やっぱり王都はどこも賑やかよね~~~」

「国の象徴の一つでもあるからね。ん、向こうから良い匂いがするね」

「……ちょっと小腹も空いてるし、何か買うか」

良い匂いがする屋台へと向かい、小腹を満たしながら五人が向かう場所は……武器や防具が売られている店。

(俺としては有難いが、公爵家の令嬢なんだからもっと服とか香水に興味があると思ってたんだが、割とそうでもないのか?)

アラッドとしては、退屈な時間を過ごさずに済むので、素直に嬉しかった。
スティームは割とそういった女性の買い物に付き合う耐性を持っているが、アラッドとアッシュはあまりない。

「フローレンスさんは、あまり服とかハンカチとか売ってる店に行かなくても良かったの?」

「興味がないわけではありません。ただ、ほどほどにしか興味がなく……今は完全に、武器や防具……マジックアイテムなどへの興味が勝っています」

騎士の道に進むと決めた時から他の令嬢よりも武器やマジックアイテムなどに対する興味が強くなっていたが、実際に騎士として働くようになってから、更にその度合いが強くなった。

「へぇ~~~。でも、興味がそういうのに偏ると、面倒事が起きたりしないの?」

「ガルーレ、忘れたのか? フローレンスは公爵家の令嬢だぞ。そういった点に関して身内、仲間内しかいない場所で陰口を零すならまだしも、社交界で……ましてや目の前であれこれ言えると思うか? そんなことすれば、これもんだ」

首を手刀で叩くジェスチャーをするアラッド。

「アラッド、私はそこまで冷酷ではありませんよ」

「そうか? けど、周りがどうなるか……騎士になって、黒狼騎士団に入団したとしても、社交界に出席することは
あるだろ。余計なお世話かもしれないが、あのバカどもをどうにかしとかないと、お前の体面を傷付けることになるぞ」

別にお前の為に言ってるんじゃないからね!!!!!! といった、野郎のツンデレなど全く需要がない意図が困った言葉……ではない。

アラッドから見て、ソルとルーナのフローレンスに対する敬意、信仰心は見ていて……ネット上の暴走して推しの評価を逆に下げてしまうクソ厄介なファンにしか思えず、やや吐き気がする。

(冒険者にもあぁいった人はいるだろうが、それでも……あの二人もフローレンスが公爵家の令嬢だという事を解ってるのか?)

冒険者だから、公爵家の令嬢だからと比べるのは良くないことぐらいは解っている。

しかし、それでも実際問題として、そこに差はある。

「…………ふふ、ふふふ」

「……何がおかしいんだ」

「いえ、アラッドが私の事を心配するのは非常に珍しいと思いまして」

「心配してるってのは、少し表現が違うが……まぁいい。好きに捉えてくれ」

ちょっと存在が気持ち悪く思えてきたから、とはさすがに言えない。

「アラッドって本当に冷静に物事を見れるよね~~」

「褒めてくれるのは嬉しいが、別にわざわざ冷静にならなくても、少し考えれば解らなくもないだろ」

「ガルーレ、アラッドも侯爵家の令息ってこと忘れてない?」

「あっ」

別に構わないと思っている。
あまり貴族らしくない正確であり、世間一般的な貴族令息像から離れていることは、アラッド自身も自覚している。

だが……あまりにも綺麗に「あっ」と発言し、アラッドが侯爵家の令息だということを本気で忘れていたガルーレを見て、さすがに少しはそれらしい雰囲気を持つようにした方が良いのかと悩むアラッドだった。
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