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六百八十八話 いずれ、その時に
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「お疲れ様、アラッド。楽しかった?」
「そうだな。その場から動かない、糸しか使わないっていう縛りで戦ったが……正直、ヒヤッとした場面はいくつかあった」
「……物凄く正直な感想だね」
アラッドとしては若干ソルとルーナをフォローしているつもりだが、スティームからすれば全くフォローになっていなかった。
「なんて言うか、またえげつない戦い方したね~~~」
「かもしれないな。けど、向こうから売ってきた喧嘩……試合だ。向こうが望む通りの方法で戦う必要はないだろ」
「まっ、それもそうだね~~」
ガルーレから視て、ソルとルーナは決して弱くなかった。
片方が相手であれば自分でも勝つ自信はあるが、一対二という状況だと……素直に自分の方が不利だと認める。
「アラッド、改めて彼女たちの我儘を受けてくれたありがとうございます」
「別に構わない。あんたから受ける対価を貰えるわけだしな」
「王都に居る間が、それとも終わった後か、後日連絡をください」
「あぁ、解った」
用事は終った。
予定通り母校に向かおうとするアラッドの背に、フローレンスからある提案が飛ばされた。
「ところで、久しぶりに手合わせしてみますか? 勿論、試合の範囲内で、です」
「「「「「「「「っ!!!???」」」」」」」」
「…………」
訓練場に居る殆どの者たちに緊張が走る。
アラッド対フローレンス。
トーナメントの決勝戦で二人が戦う試合を観た者たちは……これまで何度も学生同士がしのぎを削る戦いを観てきた者たちは、こう語る。
あれ以上の決勝戦は……試合は今後起こりえないと。
天才という枠に収まらない生徒が全試合を圧勝していく。
そういったケースは……一応、試合記録として僅かに残っている。
だが、天才という枠に収まらない生徒が二人も現れ、観客たち全員の記憶に残り続ける試合は……滅多に起こりえない。
その決勝戦を観た騎士はこの場にもおり、再び二人の試合が観れると思うと……自然と拳を握る力が強まり、口端が上がってしまう。
「どうでしょう」
「…………遠慮させてもらう」
お断り。
この対応に、フローレンスはアラッドが逃げたとは思わなかった。
ただ、試合の範囲内であればアラッドは受けてくれると思っていたところがあり、何故断ったのかが気になった。
「何故断るのか、聞いても」
「単純な話だ。何も懸かってない状況で、場所で……俺とお前が試合を行う? フローレンス・カルロスト。俺とお前が戦った場合、本当に試合の範疇で終わると思ってるのか」
零れ出る……戦意、殺意、怒気? どれも違う。
敢えて言うならば…………覇気。
「俺は、お前に負けたくない。勝負となれば、それはお前も同じだろ」
「……そうですね」
負けても良いと思う戦闘者は殆どいない。
当然だが、この二人も戦うとなれば負けたくないという強い闘志がある。
クロ、ウィリスの召喚をなしにして戦えば良い?
最初にそういった縛りを設けたとしても、二人の予想は同じく……いざという場面になれば、縛りを守れる気がしない。
「だから、こんなところでは戦わない。けど、そうだな…………体を動かしたいなら、スティームとガルーレに頼めばいい」
「へっ!!!???」
いきなり話を振られたスティームは仰天。
ガルーレとしては望むところなため、ワクワクしていた。
「俺と戦るなら、それ相応の場所で……覚悟が決まった状態で、だ」
「……ふふ、そうですね。私も、まだやりたい事が残っています」
「俺もだ。まだまだこの世界を冒険したりない。けど、フローレンス・カルロスト。お前にその気があるなら、いつか本気で戦ろう」
「えぇ…………約束ですよ」
「あぁ」
言いたい事を言い終えたアラッドは訓練場の責任者に軽く頭を下げ、今度こそ訓練場から去った。
「…………」
「フローレンスさん、本当に良かったんですか?」
「……正直に言うと、ちょっぴり残念に思ってます。互いに本気でなくとも……今の彼と手合わせするのは楽しみだったので」
本音だった。
若手騎士枠として、国の代表として戦って欲しいという内容が記された手紙には、他にも若手冒険者枠と学生枠があると書かれてあった。
それを見た瞬間、若手冒険者枠には必ずアラッドが来ると……確信があった。
確信を持ってから、楽しみにしていた。
互いに代表として戦うことを考えれば、その前に全力で戦うのはあり得ない選択。
それでも、互いにあの頃よりも成長した今、手合わせしたかった。
「ですが……彼が、本当に私に負けたくないのだと……勝ちたいのだと、そう思う熱を感じました」
ライバルと認識されている……そう思うのは、傲慢ではないだろう。
「真剣に戦えば、ただの試合では終われない。彼がそう思っていることに、嬉しさすら感じました」
「なるほど…………それは、とても嬉しいやつですね」
自身が認めている相手から認められる。
それが解った時、どうしようもなく嬉しい気持ちが胸の中に溢れる。
声を掛けた騎士も同じ体験をしたことがあり、フローレンスがとても満足気な笑みを浮かべているのに納得出来た。
「そうだな。その場から動かない、糸しか使わないっていう縛りで戦ったが……正直、ヒヤッとした場面はいくつかあった」
「……物凄く正直な感想だね」
アラッドとしては若干ソルとルーナをフォローしているつもりだが、スティームからすれば全くフォローになっていなかった。
「なんて言うか、またえげつない戦い方したね~~~」
「かもしれないな。けど、向こうから売ってきた喧嘩……試合だ。向こうが望む通りの方法で戦う必要はないだろ」
「まっ、それもそうだね~~」
ガルーレから視て、ソルとルーナは決して弱くなかった。
片方が相手であれば自分でも勝つ自信はあるが、一対二という状況だと……素直に自分の方が不利だと認める。
「アラッド、改めて彼女たちの我儘を受けてくれたありがとうございます」
「別に構わない。あんたから受ける対価を貰えるわけだしな」
「王都に居る間が、それとも終わった後か、後日連絡をください」
「あぁ、解った」
用事は終った。
予定通り母校に向かおうとするアラッドの背に、フローレンスからある提案が飛ばされた。
「ところで、久しぶりに手合わせしてみますか? 勿論、試合の範囲内で、です」
「「「「「「「「っ!!!???」」」」」」」」
「…………」
訓練場に居る殆どの者たちに緊張が走る。
アラッド対フローレンス。
トーナメントの決勝戦で二人が戦う試合を観た者たちは……これまで何度も学生同士がしのぎを削る戦いを観てきた者たちは、こう語る。
あれ以上の決勝戦は……試合は今後起こりえないと。
天才という枠に収まらない生徒が全試合を圧勝していく。
そういったケースは……一応、試合記録として僅かに残っている。
だが、天才という枠に収まらない生徒が二人も現れ、観客たち全員の記憶に残り続ける試合は……滅多に起こりえない。
その決勝戦を観た騎士はこの場にもおり、再び二人の試合が観れると思うと……自然と拳を握る力が強まり、口端が上がってしまう。
「どうでしょう」
「…………遠慮させてもらう」
お断り。
この対応に、フローレンスはアラッドが逃げたとは思わなかった。
ただ、試合の範囲内であればアラッドは受けてくれると思っていたところがあり、何故断ったのかが気になった。
「何故断るのか、聞いても」
「単純な話だ。何も懸かってない状況で、場所で……俺とお前が試合を行う? フローレンス・カルロスト。俺とお前が戦った場合、本当に試合の範疇で終わると思ってるのか」
零れ出る……戦意、殺意、怒気? どれも違う。
敢えて言うならば…………覇気。
「俺は、お前に負けたくない。勝負となれば、それはお前も同じだろ」
「……そうですね」
負けても良いと思う戦闘者は殆どいない。
当然だが、この二人も戦うとなれば負けたくないという強い闘志がある。
クロ、ウィリスの召喚をなしにして戦えば良い?
最初にそういった縛りを設けたとしても、二人の予想は同じく……いざという場面になれば、縛りを守れる気がしない。
「だから、こんなところでは戦わない。けど、そうだな…………体を動かしたいなら、スティームとガルーレに頼めばいい」
「へっ!!!???」
いきなり話を振られたスティームは仰天。
ガルーレとしては望むところなため、ワクワクしていた。
「俺と戦るなら、それ相応の場所で……覚悟が決まった状態で、だ」
「……ふふ、そうですね。私も、まだやりたい事が残っています」
「俺もだ。まだまだこの世界を冒険したりない。けど、フローレンス・カルロスト。お前にその気があるなら、いつか本気で戦ろう」
「えぇ…………約束ですよ」
「あぁ」
言いたい事を言い終えたアラッドは訓練場の責任者に軽く頭を下げ、今度こそ訓練場から去った。
「…………」
「フローレンスさん、本当に良かったんですか?」
「……正直に言うと、ちょっぴり残念に思ってます。互いに本気でなくとも……今の彼と手合わせするのは楽しみだったので」
本音だった。
若手騎士枠として、国の代表として戦って欲しいという内容が記された手紙には、他にも若手冒険者枠と学生枠があると書かれてあった。
それを見た瞬間、若手冒険者枠には必ずアラッドが来ると……確信があった。
確信を持ってから、楽しみにしていた。
互いに代表として戦うことを考えれば、その前に全力で戦うのはあり得ない選択。
それでも、互いにあの頃よりも成長した今、手合わせしたかった。
「ですが……彼が、本当に私に負けたくないのだと……勝ちたいのだと、そう思う熱を感じました」
ライバルと認識されている……そう思うのは、傲慢ではないだろう。
「真剣に戦えば、ただの試合では終われない。彼がそう思っていることに、嬉しさすら感じました」
「なるほど…………それは、とても嬉しいやつですね」
自身が認めている相手から認められる。
それが解った時、どうしようもなく嬉しい気持ちが胸の中に溢れる。
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