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六百八十話 絡めば魅せる
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「ところで陛下、一つ質問してもよろしいでしょうか」
「構わんぞ。あっ、待て。先に言っておこう。お主は今、冒険者だ。今回の件に関しては、しっかりと報酬を払うぞ」
国と国の喧嘩……ではなく、自慢大会に出場できる。
これは冒険者として大きな名声を得られる機会であり、光栄なことなので報酬など……と考える貴族は決してゼロではない。
ただ、国王はアラッドに対して、面倒な事を頼んでしまったという自覚があった。
国王と侯爵家の令息では立場的に大きな差があるのは間違いないが、国王はアラッドに対して少なからず敬意を感じていた。
それ故に、名誉だろ光栄だろ。だから別に報酬とか要らないよね、何て態度を取るわけにはいかなかった。
「ありがとうございます」
しかしアラッドが質問したかったことは、代表戦の冒険者枠として参加する報酬に関してではなかった。
「それでですね、話を聞いた限り自分の弟であるアッシュが、学生代表として選ばれたとお聞きしました」
「なるほど、その件に関してか」
何故弟が学生代表に選ばれたのか。
アッシュは高等部の三年どころか、高等部ですらない。
弟が、あまり興味がない戦闘に関する才やセンスがずば抜けている、それは前々から解っていた。
なので、実は弟が今年の中等部のトーナメントに参加して優勝していた、ぐらいであればまだ理解が追い付く。
ただ……最初にアッシュが国の学生代表として戦うというのは、色々と理解が追い付かなかった。
「アラッドがまだ王都に来ていない時に行われた試合だ。知らないのも当然だな」
「もしや、現役の騎士と試合を行ったのですか」
「うむ、その通りだ……アラッドよ、逆に私から一つ尋ねても良いか」
「なんなりと」
「あの子は、本当に戦闘に興味が薄いのか」
国の学生代表を決めるということもあって、国王はアッシュと新米騎士との試合を両者にプレッシャーを与えないように、こっそり観ていた。
その時観た光景からは、とてもアッシュが戦闘に興味がないタイプとは思えなかった。
「そ、そうですね。昔の話ですが、そういった話題で妹……シルフィーとぶつかったことがあります」
「模擬戦、もしくは試合を行ったのであろう。結果は……やはり、アッシュの勝ちか」
「はい。あの時、自分はアッシュが初めて本気で戦う姿を見ましたが…………十にもなっていない子供が、あそこまで戦えるのかと、心底驚きました」
「ッ!! アラッドにそこまで言わせるか」
「…………正直なところ、他者にとっては残酷な才かとも、思いました」
そのつもりはアッシュに一切なくとも「君と僕とでは格が違うんだよ」そう言われてる様な差を感じさせてしまう。
(アレク先生から、アッシュが学園内で孤立してる様な話は聞いていない。本当にアッシュが戦闘に対して興味がなく、他者を嗤うようなタイプではないからか…………それでも、強くなることだけに心血を注いでない人物があれだけ強いと……一部の者からは嫌われているのかもな)
アラッドがそうであるように、どれだけ強く……ある程度正しくとも、全員から好かれることはない。
一番近い身内から嫌われることも当然ある。
「ふむ……では、あれも思い付きかもしれぬな、宰相よ」
「あれが、思い付きですか。普通は考えられませんが、兄であるアラッド君がここまで称賛するとなると……あり得ないと断言は出来ませんね」
(あ、アッシュ。いったい騎士との戦いで、何をしたんだ?)
アレクは楽しみにしていたら良いと伝えた。
アッシュもそうしてくれると嬉しいと言っていた。
「……アッシュには、中等部に在籍していながら新米とはいえ、現役の騎士を上回る力がある、という事なのですね」
「纏めるとそういう事になるな。アラッドの弟であれば、そうであってもおかしくはない……と言っても、簡単に納得出来ることではないか」
「正直、まだ納得よりも驚きの方が勝っています。ただ…………錬金術に使える素材という餌に釣られたのであれば、それはそれで納得出来なくはないかなと」
戦闘に対して興味が薄いと同時に、錬金術には強い興味を抱いていることは知っている。
錬金術に繋がる、自身の経験になる何かが手に入る。
そうなれば、予想外の頑張りを魅せてもおかしくない……と、兄であるアラッドは予想した。
「何はともあれ、アラッド……そしてアッシュが出る。これだけで二勝は固い。いや…………正直なところ、騎士枠で戦う相手の方が可哀想かもしれぬな」
(……とても良い笑みになってますよ、国王陛下)
人によっては恐ろしいと感じる国王の笑み。
多くの圧を受けていたアラッドであっても、無意識に零れている笑みから……王たる強さを感じ取れるほどの圧を感じていた。
「げっ!!!!!」
「お久しぶりですね、アラッド」
参加するという意思を面と向かって伝え、その後弟の出場に関して少し尋ね終え……ベルたちの授業が終わるまでは二人と王都を観光しようと思っていたアラッド。
だが、人生に面倒は付きものであった。
「構わんぞ。あっ、待て。先に言っておこう。お主は今、冒険者だ。今回の件に関しては、しっかりと報酬を払うぞ」
国と国の喧嘩……ではなく、自慢大会に出場できる。
これは冒険者として大きな名声を得られる機会であり、光栄なことなので報酬など……と考える貴族は決してゼロではない。
ただ、国王はアラッドに対して、面倒な事を頼んでしまったという自覚があった。
国王と侯爵家の令息では立場的に大きな差があるのは間違いないが、国王はアラッドに対して少なからず敬意を感じていた。
それ故に、名誉だろ光栄だろ。だから別に報酬とか要らないよね、何て態度を取るわけにはいかなかった。
「ありがとうございます」
しかしアラッドが質問したかったことは、代表戦の冒険者枠として参加する報酬に関してではなかった。
「それでですね、話を聞いた限り自分の弟であるアッシュが、学生代表として選ばれたとお聞きしました」
「なるほど、その件に関してか」
何故弟が学生代表に選ばれたのか。
アッシュは高等部の三年どころか、高等部ですらない。
弟が、あまり興味がない戦闘に関する才やセンスがずば抜けている、それは前々から解っていた。
なので、実は弟が今年の中等部のトーナメントに参加して優勝していた、ぐらいであればまだ理解が追い付く。
ただ……最初にアッシュが国の学生代表として戦うというのは、色々と理解が追い付かなかった。
「アラッドがまだ王都に来ていない時に行われた試合だ。知らないのも当然だな」
「もしや、現役の騎士と試合を行ったのですか」
「うむ、その通りだ……アラッドよ、逆に私から一つ尋ねても良いか」
「なんなりと」
「あの子は、本当に戦闘に興味が薄いのか」
国の学生代表を決めるということもあって、国王はアッシュと新米騎士との試合を両者にプレッシャーを与えないように、こっそり観ていた。
その時観た光景からは、とてもアッシュが戦闘に興味がないタイプとは思えなかった。
「そ、そうですね。昔の話ですが、そういった話題で妹……シルフィーとぶつかったことがあります」
「模擬戦、もしくは試合を行ったのであろう。結果は……やはり、アッシュの勝ちか」
「はい。あの時、自分はアッシュが初めて本気で戦う姿を見ましたが…………十にもなっていない子供が、あそこまで戦えるのかと、心底驚きました」
「ッ!! アラッドにそこまで言わせるか」
「…………正直なところ、他者にとっては残酷な才かとも、思いました」
そのつもりはアッシュに一切なくとも「君と僕とでは格が違うんだよ」そう言われてる様な差を感じさせてしまう。
(アレク先生から、アッシュが学園内で孤立してる様な話は聞いていない。本当にアッシュが戦闘に対して興味がなく、他者を嗤うようなタイプではないからか…………それでも、強くなることだけに心血を注いでない人物があれだけ強いと……一部の者からは嫌われているのかもな)
アラッドがそうであるように、どれだけ強く……ある程度正しくとも、全員から好かれることはない。
一番近い身内から嫌われることも当然ある。
「ふむ……では、あれも思い付きかもしれぬな、宰相よ」
「あれが、思い付きですか。普通は考えられませんが、兄であるアラッド君がここまで称賛するとなると……あり得ないと断言は出来ませんね」
(あ、アッシュ。いったい騎士との戦いで、何をしたんだ?)
アレクは楽しみにしていたら良いと伝えた。
アッシュもそうしてくれると嬉しいと言っていた。
「……アッシュには、中等部に在籍していながら新米とはいえ、現役の騎士を上回る力がある、という事なのですね」
「纏めるとそういう事になるな。アラッドの弟であれば、そうであってもおかしくはない……と言っても、簡単に納得出来ることではないか」
「正直、まだ納得よりも驚きの方が勝っています。ただ…………錬金術に使える素材という餌に釣られたのであれば、それはそれで納得出来なくはないかなと」
戦闘に対して興味が薄いと同時に、錬金術には強い興味を抱いていることは知っている。
錬金術に繋がる、自身の経験になる何かが手に入る。
そうなれば、予想外の頑張りを魅せてもおかしくない……と、兄であるアラッドは予想した。
「何はともあれ、アラッド……そしてアッシュが出る。これだけで二勝は固い。いや…………正直なところ、騎士枠で戦う相手の方が可哀想かもしれぬな」
(……とても良い笑みになってますよ、国王陛下)
人によっては恐ろしいと感じる国王の笑み。
多くの圧を受けていたアラッドであっても、無意識に零れている笑みから……王たる強さを感じ取れるほどの圧を感じていた。
「げっ!!!!!」
「お久しぶりですね、アラッド」
参加するという意思を面と向かって伝え、その後弟の出場に関して少し尋ね終え……ベルたちの授業が終わるまでは二人と王都を観光しようと思っていたアラッド。
だが、人生に面倒は付きものであった。
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