上 下
648 / 1,019

六百四十七話 他にもいたような

しおりを挟む
(倒す倒す、絶対に倒す。殺す殺す殺すコロス、切る切る切る斬る、斬る……キルッ!!!!!!!!)

「ッ!!!!????」

完全にイってしまった雰囲気を醸し出しながら赤雷を纏った双剣を振るうスティーム。

その姿は、普段のスティームからは考えられない程荒々しく、鋭いが……間違いなく、強い。

それに対してソルヴァイパーは……半ダンジョン化したリバディス鉱山に誘惑され、ボスモンスターとなった。
よって、これまでのソルヴァイパーと違い、戦闘の際に回避や防御といった手段は取るものの、その場から逃亡しようとはしない。

それはどれだけ……ソルヴァイパーが目の前に迫る冒険者に対して恐怖心を持とうとも、それを上回る闘争心が溢れ出す。

(チッ!!! 嘗める、なッ!!!!!!!)

ただ、半ダンジョン化した地帯のボスモンスターとなり、好戦的な性格へと変更した筈のソルヴァイパーだが……正直なところ、まだ全力で攻めて攻めて攻めまくるという姿勢に慣れていなかった。

加えて、ソルヴァイパーが以前、スティームとの初戦で得た武器、白雷は防御に優れている。
一応攻撃にも使用出来るが、攻撃性能は言うまでもなくスティームが扱う武器、赤雷の方が優れている。

逃げたい……スティームとの攻防が行われるために、闘争心によって潰されたはずの恐怖心が蘇る。

もし、もし万が一ソルヴァイパーが半ダンジョンの摂理に反し、逃走することに全意識が振り切ったとしても……それはただ対戦相手に背を向けることになってしまう。

何故なら、まだまだアラッドが設置したオリハルコンの糸による牢獄が健在だからである。
白雷を纏って全力で突進したとしても、簡単に破れる代物ではない。

オリハルコンまで強度を高めたが故に、通常の糸と違って時間制限はあるが……すくなくとも、スティームが倒すまでは保たれる。
アラッドが大半の魔力を消費して展開したということもあり、スティームもその強度は信用している。
だからこそ……前回に関する不安、失敗は完全に頭の中から消えており、ただ前回……自分のせいで逃がしてしまった敵を斬り刻み殺す為だけに駆ける。

「疾ッ!!!!!!!」

「ジャッ!? ァ!!!!」

駆ける駆ける駆ける。

赤雷を纏うスティームは戦場を縦横無尽に駆け回る。
ソルヴァイパーは気配だけではなく、生物の熱を感知して敵の位置を把握することが出来る。
それもあって、人間という存在を見失うことはないが……ただ、ただただ速かった。

白雷を纏っている。
だからこそ、赤雷を纏った斬撃を食らっても、なんとか一撃でぶっ倒れることなく済んでいるが……全く反撃が出来ない。

オリハルコンの糸による牢獄によって行動範囲を縛られているから?
それは確かにあるだろうが……一番の要因は、赤雷を使用し続けられる短さを把握しているが故に、スティームが防御という意識を捨てて獣の如く攻めて攻めて攻め続けているから。

(今、ここッ!!!!!!)

既にソルヴァイパーの体には十を越える斬撃が刻まれており、臓腑までには達してないとはいえ、それでも血はダラダラと流れていた。
白雷を癒すことだけに集中して利用すれば治る傷も、こうまで相手の動きや繰り出される攻撃に集中しなければならないとなると、それだけに集中する訳にはいかない。

作戦による逃走すら行えない……それが完全にソルヴァイパーの行動を抑制し、一瞬にして死地へと追い込む。
失血による眩暈などの現象は人間だけの反応ではなく、モンスターも同様に起こる。

今のソルヴァイパーには…………それを囮にして反撃、という思考に至る事すらなく、持ち上げていた頭部が不自然に下がってしまった瞬間を狙われ、頭部を切断。

「はぁ、はぁ、はぁ………………ギリギリ、セーフ……かな」

時間にして、十数秒。
赤雷を会得してから、スティームもレベルアップしており、赤雷を常時纏い続けられる時間は現在も増加中。

それでも、白雷を会得したソルヴァイパーは……防御力などに関しては、Aランクに近い。
スティーム一人だけで討伐するというのは非常に危ない綱渡りとだったのだが……スティームはその中でも、回避二割りに攻撃八割。
それを意識して攻め続ける選択肢を選んだ。

結果、ソルヴァイパーがまだ全力で敵を倒すという事に慣れていなかったというハンデを差し引いても、見事な勝利だと言える。

(結構切り刻んじゃったけど……まっ、素材としては使えるよね)

戦闘中、スティームは全く素材のことなど考えられておらず、当然ながら心臓は傷付けないように戦わないといけない……なんて考えは全くなかった。

「っと、はは。やっぱり……かなり無茶したみたい、だね」

ソルヴァイパーを回収しておこうと思って動くと、膝が地面に付いてしまった。

「そういえば…………確か、ソルヴァイパー以外にもいきなりモンスターが現れた様な……」

本能的に目の前に現れたソルヴァイパーが、前回逃してしまったソルヴァイパーだと感じ取ったスティームはそれしか目に移っておらず、他にどういったモンスターが同時に現れたのか把握していなかった。

だが、周囲を見渡すと……ほぼ同じタイミングで炎蛇と黒蛇が討伐された。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

元聖女だった少女は我が道を往く

春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。 彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。 「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。 その言葉は取り返しのつかない事態を招く。 でも、もうわたしには関係ない。 だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。 わたしが聖女となることもない。 ─── それは誓約だったから ☆これは聖女物ではありません ☆他社でも公開はじめました

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

おばあちゃん(28)は自由ですヨ

美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。 その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。 どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。 「おまけのババアは引っ込んでろ」 そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。 その途端、響く悲鳴。 突然、年寄りになった王子らしき人。 そして気付く。 あれ、あたし……おばあちゃんになってない!? ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!? 魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。 召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。 普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。 自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く) 元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。 外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。 ※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。 ※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要) ※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。 ※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

処理中です...