上 下
616 / 1,006

六百十五話 敢えて上げるなら

しおりを挟む
「はっ!!!??? ちょ、まっ………………」

速かった。
それはもう……圧倒的な速度と言えた。

アラッドが一応展開していた感知網を速攻で潜り抜け……何処かに行ってしまった。

「…………嘘、だろ」

もう追うには絶望的なほど距離が離れており、クロの鼻でも追えない。

一応通った穴に糸を通わせればなんとか出来なくはないが……やるには既に距離があり過ぎる。
場合によってはアラッドが糸を操れる範囲を越えてしまう。

「……すまん、スティーム」

「いや……アラッドが、謝る事じゃ、ないよ。なんと言うか、僕も…………ソルヴァイパーから攻撃が来るかもしれないって思って、ワクワクしながら待ってたから」

「だよな。そう……思ってしまうよな」

まだ完全に後がない状況ではないが、このまま押され続ける戦況が続けば、いずれ討伐されてしまうことは確実。

そんな中、ソルヴァイパー自身も驚く力を会得。
覚醒状態と言っても過言ではない状態となり……アラッドやスティームだけではなく、クロとファルですらこれから更に激しい戦いになると思い、闘争心を熱く燃やしていた。

だが……肝心のソルヴァイパーは自身が会得した力を冷静に把握し終えた後……少なくともスティームとファルは完全にこちらの出方を待っていると把握し……新たに得た力を全力で逃走に使用した。

「……………………マジか」

地面に腰を下ろし、力なくうなだれる。

ソルヴァイパーは戦闘を好む性格ではなく、逃走癖がある。
そんな事は実際に戦う前から解っていた事実。

そう……解っていたにも関わらず、逃してしまった。

(…………だって仕方ないだろ、とは言えないな。冒険者なら……プロなら、私情を優先して逃してしまうのは駄目だ)

冒険者が獲物を逃してしまうのは珍しくない。
これまで依頼達成によって得られる金額、縁などに釣られて多くの冒険者たちがソルヴァイパーに挑んだが……返り討ちに合うか、逃げられていた。

決してアラッドたちだけがやらかしてしまった失敗ではない。
BランクやAランクの冒険者であってもやってしまうミスであり、一回逃してしまっただけでプロ失格とはならない。

ただ……今回の件で唯一二人がやらかしてしまったと言える点は……白雷を使用出来るソルヴァイパーを誕生させてしまったこと。

元々ソルヴァイパーは戦闘を好まないのだから大丈夫なのでは? と考えるかもしれないが、冒険者ギルドとしてはそう簡単に片づけられる問題ではない。

「ふぅ~~~~~~~~…………あれだ、今酒があったら……吞んで呑んで呑みまくって、酔って潰れたい」

「僕も、同じ気分だよ」

まだ太陽が沈み始めてないこともあってか、二人は腰を下ろしたその場から動く気になれなかった。

「「…………」」

従魔の二体も主人と同じく、元気がない。
もっと自分がそういった状況を予想していればという責任感すらあったが……二人がそれを直ぐに感じ取り、お前たちは悪くないと撫でて慰める。

「……まぁ、あれだな。ちゃんとギルドに報告しないとだな」

「そうだね。後から問題になるからって言うより、僕達が報告しなかったら犠牲者が増えるかもしれない」

「臆病なモンスターなんかに負けるかって意気込む人もいるだろうが……白雷。色の付いた魔力を操れると知れば、少しは落ち着いて考えられるだろうな」

これ以上ここで腰を下ろしていても仕方ない。
膝を叩き、気合を入れて立ち上がり……もう用はないため、街に向かって帰る。

ただ、二人の足取りはすこぶる重かった。

やらなければならない事は把握しており、二人はそれが出来ない程子供ではなく……バカでも屑でもない。
それでも、今回の一件…………物凄くやってしまった感が強い。

そのやらかしてしまったが故に発生する何かが、自分たちだけに降りかかるのであればまだしも、ソルヴァイパーがもうこの地にいないことを考えれば、まず一人の少女が死ぬ。
犠牲が生まれたことだけは確かだった。

(…………スティームがなんと言おうと、今回の一件は俺のミスだ。スティームとファルは……仕方ない。実際にソルヴァイパーと戦っていた当事者だ。それなりにアドレナリンが出てた筈だ……それに加えて、赤雷で止めを刺そうとした瞬間に覚醒? して白雷を会得…………逃走癖を持っていると頭の何処かで解っていたとしても、そこからの激闘を期待するなと言うのは無理な話だ)

やはり実際に戦ってはおらず、少し離れた場所から観戦していた自分こそ、ソルヴァイパーの逃走癖を忘れてはいけなかった。

絶対に監視員から観客に変わってはいけなかった。

(……自分に厳し過ぎる、とか関係無い。強い奴と戦う為にここまで来たことを考えれば、尚更逃がしてはいけなかった……ギルドには、ちゃんと伝えておかないとな)

今後の評価にどう影響するのかなど、考える必要はない。

ただ、何が原因でそんな事を起こってしまったのか、事実を伝えるのみ。
それで評価が下がろうとも……それこそ、仕方ないという話だった。

そんな相変わらず街に到着しても足取りが重い中、ギルドに入ったアラッドの目に、気になる依頼書が入った。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。 もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。 そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。

私のスキルが、クエストってどういうこと?

地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。 十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。 スキルによって、今後の人生が決まる。 当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。 聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。 少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。 一話辺りは約三千文字前後にしております。 更新は、毎週日曜日の十六時予定です。 『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

「守ることしかできない魔法は不要だ」と追放された結界師は幼なじみと共に最強になる~今更俺の結界が必要だと土下座したところでもう遅い~

平山和人
ファンタジー
主人公のカイトは、ラインハルト王太子率いる勇者パーティーの一員として参加していた。しかし、ラインハルトは彼の力を過小評価し、「結界魔法しか使えない欠陥品」と罵って、宮廷魔導師の資格を剥奪し、国外追放を命じる。 途方に暮れるカイトを救ったのは、同じ孤児院出身の幼馴染のフィーナだった。フィーナは「あなたが国を出るなら、私もついていきます」と決意し、カイトとともに故郷を後にする。 ところが、カイトが以前に張り巡らせていた強力な結界が解けたことで、国は大混乱に陥る。国民たちは、失われた最強の結界師であるカイトの力を必死に求めてやってくるようになる。 そんな中、弱体化したラインハルトがついにカイトの元に土下座して謝罪してくるが、カイトは申し出を断り、フィーナと共に新天地で新しい人生を切り開くことを決意する。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...