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六百話 自分を大切に

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(ただ教えるだけだもんな)

今回はちゃんと金も貰っているということもあり、アラッドはゆっくりと口を開いた。

「三年。三年ぐらいが、ホルダの強くなれることに時間を使える期間だと思います」

「三年、か」

「これはあくまで、俺の主観が入っています。もしかしたら、水蓮というクランに所属しているということを考えれば、変わってくるかもしれません」

いつ、肉体的に全盛期を迎えるかという問題もあるが、なによりもホルダは水蓮というそれなりに大手のクランに所属している。

加えて……ホルダは既に上のメンバーから、次世代の主要メンバー候補として認識されている。

「今、ここから急激に強くなるには、とにかくモンスターを倒して、お金を稼いでください」

「お、おぉう…………そ、それが一番の近道、なのか?」

当たり前と言えば当たり前のやり方が出てきたため、戸惑いの反応が浮かぶホルダ。

「それしかないですね。レベルを上げて、戦いの勘を研ぎ澄ませる。強くなるというのは他の部分を鍛えることでも達成出来ますが、やはり効果的なのは大量のモンスターを倒してレベルを上げることです」

根も葉もない?
確かにそうかもしれないが、あまり時間がないことを考えれば、それしかない。

ホルダに質がないとは言わない。
しかし、本当に強くなるのであれば、これから数年間は質よりも量を優先しなければならなかった。

「理想を言えば、ダンジョンで鍛えるのが一番でしょう。モンスターが倒しても倒しても新しく誕生するようですからね」

アラッドもいつか探索したいと思っている未知が詰まった迷宮。

「ダンジョンでの戦いでは、遭遇したモンスターをどれだけ真正面から倒せるかよりも、どれだけ瞬殺出来るかが問題です」

「……本当に、ただレベルアップすることだけを優先して動いた方が良いってことだな」

少々思うところはある。
だが、ホルダも完全なバカではない。

少し考えれば、本当にそれしか自分の目的が可能道はないと解る。

「そうですね。少しでも戦闘でのスタミナ消費を避けた方が良いでしょう。後、学べるなら先にそういった戦い方を学んでおいた方が良いかと」

水蓮にそういった戦い方が出来るであろう先輩はいるだろうと思い、そこまでは教えない。

全てを教えてしまっては……意味がない。

「三年間という期間があっても、無茶をし続けなければなりません」

「覚悟の上だ」

「……それは良かった、と言うべきなんでしょうね。ただ…………少し、言ってることと逆じゃないかと、ツッコムかもしれませんが、こちらも言わせてもらいます」

真剣な表情で話し続けてくれているアラッドに、そんな事をするわけがない……と思っていたホルダだが、ツッコミはしなかったものの、やや変な顔になってしまった。

「その三年間の間、自分を大切にしてください」

「………………自分を、大切に、か?」

無茶をし続けなければ怪物たちに追い付けないのに、自分を大切にしなければならない。

確かにツッコミたくなるような内容であり、矛盾してる様に思える。

「はい、そうです。どれだけ気合が入っていても、覚悟が決まっていても……自身のスタミナは把握出来ていても、自分の精神がどれだけ保てるかは解らないと思います」

自分の気合と根性をバカにされた……とほんの少しだけ思ってしまったが、今のホルダはそんな言葉に一々咬みつくほど熱くなっておらず、過去一冷静な状態だった。

「基本的には、ホルダさんが潜るに相応しい階層まで降りた後、直ぐに転移出来る階層で狩りを行い、その日に戻ってくる」

「日帰り探索を何日も連続で続けるってことか」

「はい。最短距離で強さを手に入れるなら、ソロでの活動の方が良いと思うので。ただ、一人というのは……色々と心に来るものがあると思います」

経験者ではないが、ネットでそういった話はいくらでも聞いてきた。

それはこちらの世界でも変わらなかった。

「何日かに一日は必ず休みをつくり、リフレッシュしてください。できれば、ダンジョンから帰ってきた一日のどこかにも、個人的な楽しみをつくれた方が良いです」

「す、好きな飯を食うとか、そういうので良いのか?」

「基本的にバランス良く食べるのであれば、それでも構いません」

癒しなどなくとも努力を継続し続けられる化け物は存在する。

アラッドの場合は、癒しというよりも未知という楽しみがあったからこそ努力を努力と思わない日々を過ごし続けられた。

「っと、まぁ……俺から言えるのは、そんなところです。ダンジョン内でも、その心を忘れないでくれると、より生き残れるかと」

「常に一瞬で地上に戻れるようにしておく、ってことか」

「その為に敵を足止めする方法を会得していると、なお良いですね。モンスターを瞬殺する手段などを考えても、あまりホルダの得意分野ではないと思いますが、何も戦闘スタイルを変えていると言ってるのではありません」

「…………あぁ、解っている」

「それは良かったです。では、これを」

「っ!? 待て待て! こいつは教えてもらう為の対価だ」

アラッドが手渡したのは、袋に入っていた大金の半分。

「今俺が説明した事を実行するにも、金が必要です。半分は貰いますが、もう半分は強くなる為に使ってください」

理屈は解かる。
アラッドに渡した金は、貯金癖がそこまでないホルダのほぼ全財産。

どれでも何度から断るものの……最終的に半分は受け取り、再度深々と頭を下げて礼を伝え、自身の宿へ戻って行った。
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