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五百九十六話 過ぎてしまった過去

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「凄いですが、今回は……おそらく、それが火竜の怒りを買う結果に繋がったのでしょう」

「なるほど。火で手痛いダメージを食らったのが、あいつらのプライドに障っちまったってことか」

「おそらく、そうかと。怒りというのは、力に変わりますからね。ドラゴンの怒りを含んだ火となると、アリファさんといえど抑えきるのは難しいでしょ」

的確な分析に、冷静な指摘に……アリファは苦笑いを浮かべるしかなかった。

「そうだな。私がもっと強ければと思わなくもないが……あそこで限界を越えていた場合、どうなるか……」

「最悪の場合、火魔法が使えなくなるかもしれませんね。いや……その武器も使っているのであれば、武器が壊れるだけで済むかもしれませんが……あまり、良い限界突破とは言えないかと」

アリファの直感とアラッドの分析は正しかった。

喰え、自身の火力に変換できる力が急激に強化された場合……スティームが赤雷を習得したばかりの時と同じく、体に大きな反動が返ってくる。

「これからは、吸収しながら放出する。そういった技術を習得出来れば、吸収した分を無駄にすることになりますが、防御手段としては使えるかと」

「吸収しながらの放出、か…………良い課題が見つかった。礼を言う」

「いえいいえ、偶々思い付いただけですから」

「…………君は、本当に強いな。どうやって、そこまで強くなれたんんだ」

自分が訊かなければならない。
アリファの中に、そんな思いがあった。

自身分たちよりも歳下のが冒険者が、高い戦闘力を持つ従魔と一緒とはいえ、進化した火竜……轟炎竜を討伐した。

何故、その年齢でそんなことが出来たのか。
自分以外の比較的若いメンバーの為にも、ここで訊いておかなければならなかった。

「以前にも、同じような質問をされたことがありますね…………アドバイスを求めてるのであれば、自分を意識しないことをお勧めします」

自意識過剰と言われても仕方ない。
思わずぶん殴りたくなる者がいてもおかしくない。

因みに本当に殴ろうとすれば、クロスカウンターをぶち込まれて顎の骨が砕ける。

「君を意識しない、ということかな?」

「はい、そうです。自分は特に実家直伝の教えなどを受けていた訳ではありません。ただ……色々と良い条件が重なっただけです」

転生者であり、実家が侯爵家。
進路を勝手に決めるような家ではないとなれば、成長するのにこれほど適した環境はない。

「成長の鍵は、全て過去にありました」

「……なるほど。つまり、どうして君がそこまで強くなれたのかを私たちが知ったとしても、その違い……差に嫉妬するだけで意味はない、ということだね」

「上から目線な言葉にはなりますが、そうなります」

こなしてきたトレーニング内容は、どれも子供が行うには過酷であり、子供の頃からモンスター戦い続けるなど、言語道断。

だが……既にアリファたちは十五を越えた立派な冒険者。
休みの日は本当の急速にあてることもあるが、大抵は仲間たちと模擬戦を行ったり、トレーニングに使う。

アラッドが行ってきたことは、今の彼女たちにとっては何も珍しい事ではないのだ。

「君は、優しいな」

「? そうでしょうか。俺は……自分がやりたい事をただ優先させる子供ですよ。今回の戦いも彼、スティームに頼んで自分とクロだけで戦わせてほしいと頼みました」

「アラッド、それはちゃんと次の獲物は僕に譲ってくれと約束しただろ。人からの褒め言葉は、素直に受け取っておいた方が良いよ」

「…………そうしておくか」

そう言われても、やはり自分が我儘よりも人間だと思う……なんて考え続けるアラッドだが、それはアラッドから見た自分の姿。

当然ながら、人から見た姿は異なる場合もある。

「強くなりたいのであれば、これまで通り戦い、鍛え続ける。それが一番のやり方かと」

「……そうだな。確かに、そういった方法が一番の様に思えるな」

アラッドは何も、ケチで何も教えない訳ではない。

本当に……水蓮のメンバーが、アリファたちがここからどうやって強くなるのか、特殊な方法など一切思い付かないのだ。

「…………不躾っつーか、自分勝手なのは解ってる。ただ、一つだけ教えてほしい」

一人のメンバーが、意を決した表情でアラッドに声を掛けた。

「……えぇ、良いですよ。答えられる範囲であれば」

「どうすれば、狂化を習得出来るんだ」

覚悟を決めた眼をしていた。

だからこそ、もしや……一般的に強くなる方法、その奥にある何かを求めようとしているところまでは把握出来た。

しかし、アラッドの切り札の内の一つ、狂化。
このスキルをどうすれば習得出来るのか……それを尋ねられるとは思っておらず、面食らった顔になるアラッド。

(お兄さん、それは答えられない範囲になってしまいますよ)

不躾、自分勝手、上等である。
己は目の前の歳下の青年より弱いのだと認めながら、どうすれば今よりも強くなれるのか……その強くなる為の方法を教えてほしいと頼んで来た。

その衰えない闘争心、漢気にできれば答えてあげたい。
だが、狂化の習得条件……それは答えられなかった。
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