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五百八十話 後悔しないように

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本当に他国との戦争が行われるのであれば、自分たちがアラッドと共に参加しない……という選択肢はあり得ない。
それは五人を代表として、勝手にリーダーとしてエリナが宣言したのではなく、全員同じ考えだった。

「自分も同じ考えです。この命……人生、アラッド様に救われたも同然」

「アラッド様の牙として、戦場で力を振るえるなら、本望です」

「わ、私も、全力で頑張ります!!」

「私は鍛冶が本職ですけど、後になって後悔はしたくないので」

「……ふふ。本当に、頼もしい限りだよ」

五人はあまり遠くへは行けないため、あまりレベルこそ伸びていないものの、パーシブル家で過ごすようになってから……技術、体の扱い方が格段に上がっていた。

元々の戦闘力が高かったこともあり、そこに確かな技術が加わった彼らは……まさに一流の戦闘者。

「…………ですが、参加するにあたって一つだけ頼みたい事があります」

「……遠征、かな?」

「はい、その通りです。リンの言う通り、後になって後悔はしたくありません」

自分たちは強くなった……その自覚はあり、その感覚は決して間違っておらず、五人の驕りではない。
ただ……レベルというのは残酷であり、技術や経験でなんとか対応出来る範囲には限界がある。

五人は……アラッドやパーシブル侯爵家の為であれば、死ぬ覚悟は既に備わっている。
しかし、自分たちが死ねば……主人であるアラッドが悲しむのは、容易に想像出来る。

故に死ぬ覚悟は出来ているが、死なずに生気残る為の準備は全て行わなければならない。

「そうだね……今の君たちに更に身体能力、魔力量が増えれば……まさに一騎当千の戦力になる…………うん、そうだね。お金はこういう時に使わないとだね」

五人にその気があり、既に覚悟が決まっていることも把握出来た。


エリナたちとの話し合いはそこで終わり、フールは再び事務補佐たちと長年自分に仕えてくれている執事との話し合いを始めた。

「という訳なんだ」

「いやはや、なんとも頼もしい方々ですね」

「アラッド様の慧眼とカリスマ性があってこそとも思いますが、私としても彼らが開戦時に参加するのは賛成です」

「だよね~~。だからさ、アラッドのお陰で溜まってるお金を使って、五人がレベルアップ出来る機会をつくりたいんだ」

フールから具体的なレベルアップ方法を聞いた二人は、その方法に特に意見はなかった。

「素晴らしい使い道ですね。しかし……その様な事が起こっているとなると、事前に調べておく必要がありそうですね」

「……そうだね。そっちの方にお金を使っても構わないから、お願い出来るからな」

「勿論です。お任せください…………ただ、フール様。この話、アリサ様には聞かれない方がよろしいかと」

「うん、そうだね」

アラッドと血が繋がった母親、アリサ。

現在彼女も四十代に突入。
冒険者として活動していたとしても、ベテランもベテランな年齢。

ただ……彼女は今でも現役のつもりなのか、変わらず狩りへ出かけることが多く……領地の冒険者たちと手合わせをすることもある。
そんなアリサと手合わせをした冒険者たちは……全員こんな疑問を浮かべてしまう。

侯爵夫人とは、いったい何なのか。

若い頃の美貌は衰えておらず、アラッドを出産ころと比べて良い意味で艶が加わり……身体能力に関しては、スタミナこそやや落ちたが、ガルシアたちと同じく技量は成長中。

子供たちと比べて格段に上がってはいないが、狩りによってほんの少しレベルアップを果たしており、まだまだ戦力として動けることに間違いはない。

(ガルシアたちが遠征するとなれば、間違いなく私もレベルアップして参加したいって言いそうだよね……僕としては、万が一に備えてアリサには領地に残っていて欲しいんだけどな……)

万が一に備えて、領地に残って欲しい。
フールの願いは正しい選択、頼み事の様に思えるが……なら、その万が一起こるかもしれない危機を防ぐために、今よりも強くなっておくに越したことはない、と反撃される可能性が高い。

(隠しておいて、後でバレるのも面倒だよな……………………そうだね。どうせなら、隠さず提案した方が良さそうだ)

話し合いの結果、一先ずアリサに今回の一件を伝えた。

すると……案の定、戦争に自分も参加すると言い出した。

「すまないけど、アリサには僕達が出ている間、万が一に備えて屋敷に居てほしいんだ」

「むっ………………………………分かったわ」

十秒以上じっくり考え込んだ結果、意外にも反論は一度もなく、戦争が起こった際には参加はせず屋敷に留まることに同意。

しかし、やはり万が一の危機に備えてのレベルアップの点に関しては見逃すことはなく突いてきた。

「でも、それならガルシアたちが遠征に行く際、私があの子たちの仮(主)として同行するわ。一応、ガルシアたちの立場は奴隷だから、その主となる人物が必要でしょ」

侯爵家の夫人であるアリサは、その立場に相応しくはある。

「はぁ~~~~~…………絶対に、死なないって約束出来る?」

「勿論よ!!! やっぱり、親になったからには孫の顔を見るまでは死ねないもの!!!」

死ねない理由はちゃんとあると断言するアリサだが……それでも、不安が完全に消えることはない。
それでも、フールに提案を飲まないという選択肢はなかった。
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